楓の「すみっこごはん」は母を超えるー成田名璃子「東京すみっこごはん レシピノートは永遠に」

東京の私鉄駅沿線にある昔ながらの商店街のはしっこにある、みんなで集まり、当番で選ばれた誰かの手作りごはんを食べる共同台所を舞台に繰り広げられる人情ものがたりの「東京すみっこごはん」シリーズの第五弾が本書『成田名璃子「東京すみっこごはん レシピノートは永遠に」(光文社文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

「勝負にカツ丼」
「決断のピリ辛麻婆豆腐」
「カレー・リレー」
「思い出のおいなりさん」
「レシピノートは永遠に」

となっていて、この物語の主人公「楓」も高校三年生となり、「卒業」までの1年間が描かれています。

第一話「勝負にカツ丼」

第一話の「勝負にカツ丼」では、高校三年生となった「楓」が自らの進路に悩むところからスタートします。彼女の希望は「福祉系」で、おそらくその希望に対し、彼女の祖父も反対することはないのですが、前巻「楓の味噌汁」編で、家が貧しくて進学を諦めていた中学生・瑛太の相談にのり、希望がかなえられそうになるところまでいったのですが、母親の失職というアクシデントに彼が夢を断念。彼を最後まで支えられなかった苦い経験が、自分がわだかまりになって残っているようです。

そんな中、楓の家族とすみっこごはんのメンバーにも大きな変化の時が否応なしにやってきます。一つは楓の祖父が「胆石」で入院ということと、もう一つはすみっこごはんの常連メンバーの「奈央」と「一斗」の結婚です。
後者のほうはお目出たい出来事ながら、二人は新しくカフェを起業するため、この「すみっこごはん」になかなかこれなくなることを意味していて、今巻のテーマとなっている「別れ」の一つ目です。
幸い祖父の胆石手術自体は無事終了して、その快気祝いも兼ねて、祖父がつくるのが今話の「カツ丼」ですね。トンカツ、玉ねぎを卵でとじるオーソドックスなものですね。

第二話「決断のピリ辛麻婆豆腐」

第二話目の「決断のピリ辛麻婆豆腐」では、「楓」の母親「由佳」から「すみっこごはん」を託されて代表を務めていた、ボクシング・ジムのトレーナーで毒舌家の「柿本」さんが急に渡米する話が持ち上がります。ジムに所属してる選手のアメリカ遠征に付き添って行くもので、永住というわけではないが、かなり長期のアメリカ滞在となるようです。

柿本さんも「すみっこごはん」から離れてしまうことに寂しさを覚える「楓」に対しての、「柿本」さんのプレゼントが、進学を断念した「瑛太」くんの消息です。まあ、このシリーズの話なので、悪い結果であるはずもなく、就職して元気に働くとともに、断念して夢へ近づいている姿が描かれます。

第三話「カレー・リレー」

第三話の「カレー・リレー」は、前話を受けて渡米する柿本さんの見送りのため、成田空港へ行っていた「すみっこごはん」の常連メンバーが、こっそりとこれも見送りにきていた「瑛太」くんを捕まえ、「すみっこごはん」へ帰還させるお話です。彼がつくるカレーが、「楓」のわだかまりを融かしていくのですが、ここで、常連メンバーの一人「丸山さん」と「田上さん」の今後についてもショッキングな報告が入ることとなります。さらに楓の祖父の病状が急変して病院に担ぎこまれるという怒涛の展開となってきます。

ちなみに、今まで「すみっこごはん」の調理を支えてきた「レシピノート」が行方不明になるという出来事も。

第四話「思い出のおいなりさん」

第四話目の「思い出のおいなりさん」は、前話で急遽入院した祖父の病状が明らかになります。少しネタバレすると、ステージ4の癌で、余命半年という状況です。いままで食がないのを、間食しているせいだ、とごまかしていた祖父なのですが、とうとう隠しきれなくなったようですね。今まで親代わりとして育ててもらっていた「楓」の様子が痛々しいですね。

第五話「レシピノートは永遠に」

第五話の「レシピノートは永遠に」では、楓の受検を控え、祖父の病状がどうなったか?、そして、行方不明となっていた「レシピノート」の行方は?、さらには常連メンバーが次々と遠くへいってしまう「すみっこごはん」はどうなるのか?といった様々なことの結果の出る最終話となっています。詳しいネタバレはしないでおきますが、「楓」の新しい出発をお祝いしておきましょう。

レビュアーから一言

第一話目で「楓」の祖父のつくるカツ丼は、楓の祖母、母親・由佳と伝承されてきた「沢渡家」の家庭の味らしく

トンカツが人数分、着々と仕上がっていき、次に親子鍋を二つレンジに並べた。
先ほど切っていた玉ねぎを、みりん、称津、砂糖、だし汁のシンプルなつゆで一煮立ち。その間、おじいちゃんの指示で、揚げたてのトンカツを一口サイズに切った。包丁を入れると、サクッとした手ごたえが伝わってきて、キツネ色の衣の中から柔らかそうなお肉が姿を現す。そのお肉が、湯気といっしょに香ばしい匂いを立ち上がらせるものだから、卵でとじる前に一口つまみたいという衝動を抑えるのに苦労した。
(中略)
本当に君を申し訳程度に潰したくらいで、煮立った鍋に、まずは半量を慎重に回し入れていく。トンカツを崩さないように軽く混ぜて半熟状にし、さらに半量を入れて加減を見て火を止めて

といった感じです。よくある日本の「定番」の卵とじのカツ丼なのですが、とても美味いそうで、そそられるのは私だけでしょうか。

そして、今巻で「すみっこごはん」シリーズも一応の「完結」とはなるのですが、「楓」が進学した後、あるいは卒業してからの「すみっこごはん その後編」「すみっこごはん 再開編」なんてのも読みたいところです。

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