法医学生は、料理研究家の猟奇殺人の謎を解くー椹野道流「亡羊の嘆 鬼籍通覧6」

大阪府にある医科大学の法医学教室を舞台に、茶髪で口と目の大きな、トトロを細くしたような女性医師・伏野ミチルと、ビジュアル系のロッカーのような風貌で怖がりの医学部の大学院生・伊丹崇、伊丹の小学校時代の同級生でガッチリした体型にセサミストリートの太い眉毛で大きな目のマペット似の風貌ながら動きのいい敏腕の刑事課の刑事・筧兼継をメインキャストに繰り広げられる法医学ミステリー「鬼籍通覧」の第6弾が本書『椹野道流「亡羊の嘆 鬼籍通覧6」』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

一章 年の始めのためしとて
間奏 飯食う人々 その一
二章 心には心のものさし
間奏 飯食う人々 その二
三章 つないだ言葉を追いかけて
間奏 飯食う人々 その三
四章 誰がための罪
締めの飯食う(予定)の人々

となっていて、第一の事件は、大晦日にテレビで有名な女性料理研究家が、大阪の実家で刺殺されているのが発見されることから始まります。
被害者は、食堂の大きなテーブルの上に仰向けの状態で倒れているのが発見されたのですが、その胸にはディナー用のフォークとナイフが、まるでローストビーフに刺すように、左右から斜めに突き立てられているほか、遺体の頭部を取り囲むように、様々な刃物が並べられているという異様な状態。

しかも殺害現場は食堂の隣の台所で、そこで被害者をめった刺しにした後、食堂まで遺体を運んで、テーブルの上に寝かせてデコ―レーションしたらしく、遺体の頭部を囲んで置かれた9本の刃物によってつけられたと推測される9つの刺し傷が被害者の腹部に、お臍を中心にした同心円状に残されています。

さながらホラー映画かシリアルキラーによる犯行と思えるものなのですが、被害者は売れっ子の料理研究家である上に、人から恨みを受けている形跡もなく、警察捜査も難航するばかりで、という筋立てです。被害者が殺されたと推察される日の午後七時頃、被害者の料理教室のアシスタントを勤めている娘との電話での会話で「今、ファンの男の子がきていて、夕飯の支度を一緒にしている」という言葉があったのが手がかりといえば手がかりなのですが、この「男の子」がどこの誰かは全くわからない、という状態です。

一方、兵庫県の監察医を務める龍村のところには、ひきこもりの20歳の男性が家族が初詣に出かけている間に感電自殺をした、という案件の行政解剖がはいります。
銅線をむき出しにした電気コードを片方は胸、片方は背中に貼り、タイマーに接続しておいて、本人は睡眠薬を飲んで薬の力で人事不省状態に。タイマーに設定した時刻がくると通電して、心室細動を起こして死亡、という仕掛けで、自殺なのは間違いないのですが、奇妙なのは、腕のあちこちに、長さ1センチ、幅1ミリほどの直線状の瘢痕があって、それが刺繍のように様々な模様をつくっていることです。
この後、この傷と、第一の事件の被害者の腹部につけられた同心円上の刺し傷との類似性が浮かび上がってくるので注意してくださいね。

そして、二つの事件は、第一の事件の被害者である料理研究家・夢崎愛美の娘・夢崎歌花がドジっ子ぶりで若い男性のファンが多い、というところか意外なところからその接点が明らかになってきます。料理研究家の料理教室のHPの掲示板の書き込みから、娘の歌花に好意をを抱く熱心なファンの存在が明らかになり、そのファンのハンドルネームは「九等分」という名前であることがわかってきて・・という展開です。

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レビュアーの一言

今巻を、少しネタバレしておくと、ファンの歪んだ愛情が産んだ犯罪といっていいのですが、熱狂的なファンは一人ではなかった、というところが今回の事件を複雑にするとともに、一体、この事件の主犯格は誰で、犯罪を促したには誰、といったところがわかりにくくなっているため、少々、後味の悪いものにしています。
好みからいくと、もっとすっきりと悪役がわかりやすい方が良いですね。

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