中村啓「SCIS 科学犯罪捜査班1」=現代科学がもたらす最新犯罪を天才女性科学者が解き明かす

その天才的頭脳で13の学会の常識・主流の学説を覆す画期的な研究成果を連発するが、その革新性か学会の権威から嫌われ、同僚研究者の殺人事件をきっかけに表舞台から姿を消した天才科学者・最上友紀子と、彼女の大学時代の同級生で、警察庁のキャリア警察官僚の小比類巻祐一が、警視庁捜査一課の変わり者刑事たちを率いて、最先端の科学が絡んだ複雑怪奇な犯罪の謎に挑むサイエンスミステリー『中村啓「SCIS 科学犯罪捜査班 天才科学者・最上友紀子の挑戦』の第一弾。

このシリーズは、ディーン・フジオカさんが小比類巻役、岸井ゆきさんが最上友紀子役、ユースケ・サンタマリアさんが警視庁捜査一課の長谷部役となって、日本テレビの「パンドラの果実 科学犯罪捜査ファイル」として2022年からテレビドラマ化されます。

あらすじと注目ポイント

構成は

序章
第一章 妊娠する男
第二章 人を殺すAI
第三章 焼け焦げる脳
終章

となっていて、序章のところでは、このシリーズの主人公の一人・最上友紀子が、研究の表舞台から姿を消す原因となった事件が描かれています。それは、彼女の助手も務めていた女性准教授・速水真緒が大量の睡眠薬を飲んで死亡するという事件なのですが、この背後に最上を学会から:追放した大物学者が最上の研究データを狙って計画したものえは、という疑いが出てきています。そして、この事件のシーンでは、最上元教授は知的でクールな美女というイメージをもってしまうのですが、実は・・というギャップに第一章のところで気付くことになります。この最上元教授をアドバイザーにして、最新科学が引き起こす犯罪の捜査を行うための組織「SCIS]が警視庁捜査一課の臨時組織として結成されることとなります。

まず第一の事件「妊娠する男」では品川にある産婦人科病院で、院長で男性の原田医師が腹を切り裂かれて死亡しているのが発見されます。そして、はみ出した内臓と一緒に、男性とへその緒でつながった胎児も一緒で・・という状態です。その男性は、世界的な少子化の解決のため、豚の子宮を使った人工子宮を造成する人体実験を自分の体に施しています。
そして、彼の患者の中に、生命倫理など保守的な下立場をとる大学教授の妻がいることがわかります。捜査陣は豚の子宮を人間に移植するいう手術をすすめられたこの保守派の教授が殺人を犯したのではと捜査を進めるのですが、実は、彼はゲイで相手の男性との間の子供を欲しがっていることがわかり・・という展開です。
少し、子供を産めるのは女性だけではなくなるのを容認できないのは男性だけではなくて・・といったところです。

二番目の事件「人を殺すAI」では、先端的なIT企業の社員・安井が社内の一室で胸をナイフで刺されて失血死しているのが発見されます。その会社はAIを搭載したロボットを開発しているのですが、被害者の死亡当時に他の人物が出入りした形跡は入退室記録に残っていません。
なので、この会社のチーフプログラマは、このロボット「イチロウ」が安井を殺したのでは、と訴えてきます。小比類巻たちは、ロボットの「イチロウ」を尋問するのですが、彼は自分には「自我」がないので人を殺すことはない、と主張します。しかし、もしロボットが感情をもつようになり、嘘をついているとしたら、日頃から自分に悪感情を持っていた被害者を殺そうと思うかも・・と言う:筋立てです。
「愛について話そう」と「イチロウ」の再尋問を始めた最上元教授の推理がどんな結果をもたらすか注目されるところです。

第三の事件「焼け焦げる脳」では、小比類巻警視と長谷部警部がミーティングをしていたコーヒーショップでおきます。彼らの近くにいた男性が「頭が・・燃える・・」という言葉を発して突然死します。解剖してみると、この男の脳の中にマイクロチップが埋め込まれていて、これが発火したことによるショック死だとわかります。
この被害者は「ライデン製薬」という最近急成長している医薬メーカーの社員で、この会社では、スウェーデンのように人体にマイクロチップを埋め込む実験を厚生労働省と連携して進めているのですが、脳内に埋め込む予定まではありません。この被害者は、最新の科学技術によって人間を次のバージョンに進化させようという「トランスヒューマニズム」の信奉者でもあって、その思想を推進する「ボディーハッカー・ジャパン協会」という国際的NPOとも関りがありそうで・・と物語が進行します。
少しネタばれすると、この協会の会員の一人が、埋め込まれていたマイクロチップを作成していたことがわかるのですが、彼もマイクロチップの発火で死亡するのですが、彼が狙っていたことはチップの悪用ではなく・・という展開です。第二巻以降、最上と小比類巻の前に出現する黒幕の姿が見えてくるのが本話でもあります。

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レビュアーの一言

本シリーズでは、この巻だけでも、人工臓器、AI、人間のサイボーグ化という科学技術が謎解きネタとして登場してきます。このほか、主人公の小比類巻警視は、妻を癌で喪っているのですが、その妻の遺体をアメリカで、癌の完全治療と蘇生術が開発されるまで冷凍保存するという事情も抱えていて、まさに最新科学技術が次から次へとでてきます。
さらに科学による人間進化を図る「トランスヒューマニズム」を信奉する組織も出てきて、テクノ・オタクには堪らないミステリーになっているように思えます。

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