中村啓「SCIS 科学犯罪捜査班2」=今回の謎解きはゾンビウィルス、VR、ナノロボットがおこす犯罪

その天才的頭脳で13の学会の常識・主流の学説を覆す画期的な研究成果を連発するが、その革新性か学会の権威から嫌われ、同僚研究者の殺人事件をきっかけに表舞台から姿を消した天才科学者・最上友紀子と、彼女の大学時代の同級生で、警察庁のキャリア警察官僚の小比類巻祐一が、警視庁捜査一課の変わり者刑事たちを率いて、最先端の科学が絡んだ複雑怪奇な犯罪の謎に挑むサイエンスミステリー『中村啓「SCIS 科学犯罪捜査班 天才科学者・最上友紀子の挑戦』の第二弾。

前巻で、一旦、八丈島につくった自分のラボで自由きままに暮らしていた最上友紀子元教授を警視庁につくった最新科学に起因する犯罪を捜査する臨時組織「SCIS」のアドバイザーに引き込んで、臓器移植による男性妊娠、AIによる殺人、脳内へマイクロチップ埋め込みという最新科学が絡んだ殺人事件の謎をといた小比類巻たちSCISのメンバーたちが、今巻では、ゾンビウィルス、VR、ナノロボットが絡む事件の謎に挑みます。

あらすじと注目ポイント

構成は

序章
第一章 よみがえる死者
第二章 仮想された死
第三章 凝固する血
終章

となっていて、まず第一の事件の「よみがえる死者」では、心肺停止状態で、医師によって死亡が確認されている死者が、葬儀場から蘇って失踪するという事件が連続しておきます。

映画好きの長谷部警部は、ゾンビ映画の再現だ、と妙な歓声をあげているのですが、失踪した死者の家族にウィルス学が専門の生物学者がいたあたりから、本当に死者を復活させるゾンビウィルスの出現が心配され始めて・・という展開です。

第二の事件「仮想された死」では、自分がすでに死んでいる、存在しない、あるいは死んで腐敗しているという強い精神的妄想をいだく「コタール症候群」を発症した人が東京で1ヶ月に13人もでてきます。コタール症候自体は相当珍しい症例なので、一時期にこれだけ大量に出てくるのには何か共通のきっかけがあるに違いないと推理したSCISのメンバーたちは、この被害者が全員、あるネットゲームの会員であることをつきとめます。

そのゲームはゴーグルをつけたVR環境の中でロシアンルーレットを順番にする、というエグいもので、最上元教授はこのVR内でルーレットを引き当てた被害者が、本当に頭を撃ち抜いたと同じ反応が脳内におきているのでは、と推測します。その推測を裏付けるため、SCISのメンバーがゲームサイトの会員となり、そのロシアンルーレットのゲームを実体験することにするのですが・・という筋立てです。

少しネタバレしておくと、このゲームを利用して、被害者たちに何かを企むサイコキラーが絡んでいて・・・という展開ですね。

第三の事件「凝固する血」では、癌治療中の患者が、心臓と肺のあたりの血だけが固まってしまうという奇病で半年に7人死亡していることが明らかになります。この被害者たちは、いずれも癌細胞にナノロボットによって直接抗がん剤を注入し、癌をやっつけるという「ナノロボット・デリバリー」という最新の医療技術の被験者であることがわかります。

ただ、この被害者たちに投与されたナノロボットでは、抗がん剤のほかに本来必要ではない磁性ナノ粒子が含まれていることがわかり・・という筋立てです。

少しネタバレしておくと、この治療法の研究が、厚生労働省や最上元教授を大学から追い払った黒幕教授が顧問を務めるライデン製薬から多額の支援をうけていて、おまけに、このナノロボットの技術そのものは、治療法研究を主導している大久保教授のアイデアではなく、彼女の助手の発明したものをパクっていたというあたりが謎解きの鍵となっています。

さらに、大久保教授自体も癌を患っていて、自らナノロボットの治療を受けていて、治療法の効果を見るため、助手の安藤准教授の操作でMRIの検査を受けることになるのですが、その現場で・・と意外な結末へと展開していきます。

Bitly

レビュアーの一言

第二話の事件の鍵となるのは「VR技術」なのですが、「メタバース」といった次世代をリードする可能性の高い技術として、Facebookが改称した「メタ」をはじめ、多くの最先端のIT企業の技術競争の戦場となりつつある分野ですね。

本書によると

VR内での体験を、脳は現実の出来事ととらえてしまうのね。仮想世界で一日過ごすと、現実と非現実の違いがわからなくなるほどなのね。だから、現実の経験と同じ生理学的な反応を脳に引き起こすんだよ。・・たとえば、VRの世界で人を撃ち殺したとしたなら、本当に人を撃ち殺したと同じ恐怖と罪悪感を感じることができるってわけ

と最上元教授が講釈しています。岡嶋二人さんの名作「クラインの壺」の世界が現出するわけですが、ミステリー的には世の中の出来事が物理的な世界だけでなく、仮想的な世界まで広がっていくことになるので、どういう物語世界がつくられていくか興味深いところですね。

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