中村啓「SCIS 科学犯罪捜査班5」=処女懐胎事件は、因縁の宿敵との最終対決へとつながる

天才的頭脳で13の学会の常識・主流の学説を覆す画期的な研究成果を連発するが、その革新性か学会の権威から嫌われ、同僚研究者の殺人事件をきっかけに表舞台から姿を消した天才科学者・最上友紀子と、癌で早逝した妻をコールドスリーウで保管し蘇生の日を夢見ている、最上の大学時代の同級生でキャリア警察官僚の小比類巻祐一が、警視庁捜査一課の変わり者刑事たちを率いて、最先端の科学が絡んだ複雑怪奇な犯罪の謎に挑むサイエンスミステリー『中村啓「SCIS 科学犯罪捜査班 天才科学者・最上友紀子の挑戦』の第五弾。

前巻でとうとう姿を現した最上元教授の天敵・榊原茂吉なのですが、今巻では、処女懐胎事件の捜査に並行する形で、クローンであった小比類巻の妻・亜紀のマザーが明らかになるとともに、榊原との最終対決へと進んでいきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

序章
第一章 処女懐胎する少女
第二章 永遠の命を得る方法
終章

となっていて、まず最初のほうで、セックス経験がないにもかかわらず妊娠している少女が、ある新興宗教教団で発見されます。その少女の出生地が「戸来」(へらい)に設定してあるのは、イエス・キリストが逃れてきたという伝説との関連性があるからかもしれないですが、ここは作者の仕掛けたフェイクっぽい感じなので気を付けましょう。

で、この「処女懐胎」という事象は、宗教的な「奇蹟」ではなく、何らかの科学技術が絡んでいるか、あるいは詐偽であると思われるため、ここで事件の真相を調べるためにSCISが投入されていきます。ただ、処女懐胎といった単為発生は、哺乳類には前例がないことから、最上元教授を当初、この宗教団体が流したデマでは、と考えていますね。

この考えが変わっていったのは、この母子がある未知のウィルスに感染しているのがわかったところからで、それは、最上元教授の主張する、生物のウィルス進化論を裏付けるものかもしれなくて・・という筋立てですね。

そして、この処女懐胎をした二例目の少女が発見され、さらに一例目の少女がボディー・発火・ジャパン協会のメンバーで、協会の総帥であるカール・カーンのクローンによって、第一例目の少女が誘拐されたり、第二例目の少女が急死したり、と事件が動きます。

さらに、この単為生殖を引き起こすウィルスへの感染は、自然界で発生したものが感染したのではなく、ウイルスを作製した何者かによって、発症した少女たちにうつされていたらしいのですが、その犯人と思われるのが、榊原茂吉が顧問を務め、研究を実質的にリードしているライデン製薬の元研究員であることもわかります。小比類巻たちSCISのメンバーは、ウィルスに感染した少女たちの情報を使って、犯人をおびき寄せる計画を練るのですが・・と展開していきます。

この後、「不老不死」となるために、多くのクローンをつくり、記憶をクローンに転移させる研究を秘密裡に行い、息子をはじめ多くの人の命を奪ってきた榊原茂吉なのですが。実はこのウィルスに目をつけていて、自分を被験者にしてある実験を行っていたことから、緊急外科チームが必要になるあることがおきるのですが、そこのところとは原書を読んでのお楽しみということで。

レビュアーの一言

今回のネタである「処女懐胎」は、日本人が想像しているよりも、キリスト教世界の人々にとっては大事件であるらしく、最初の頃からアメリカのCIAが関与してきますし、そのメンバーもかなり敬虔なキリスト教徒らしい白人男性が加わっています。

彼らにとっては、キリスト教の根幹にかかわるものが、極東の島国で再現されるなんてことは絶えられないことだったのかもしれませんね。小比類巻の妻・亜紀の冷凍遺体も、アメリカで保管されていますし、第2シーズンがあるとすれば、ここのあたりがキーワードになってくるのかもしれませんね。

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