「副業」殺し屋は、殺しのついでにターゲットの日常の謎を解く=石持浅海「殺し屋やってます。」「殺し屋続けてます。」

おそらく世界で一番有名な殺し屋といえば「ゴルゴ13」と思われるのですが、彼の依頼料の相場は「デュークPRESS」さんのサイト情報(「ゴルゴ13の報酬相場?殺し屋の年収?依頼の最高額と最低額は?」)によると2000万円、最高は1京ジンバブエ・ドルだそうですが、それよりは、遥かにリーズナブルなお値段となる「東証一部上場企業社員の平均年収」あたりの”650万円”で「殺し」を引き受けてくれる副業的殺し屋が引き受ける「殺しの依頼」の遂行とともにターゲットが見せる日常の小さな謎を解いていくのが、石持浅海さんの殺し屋シリーズ「殺し屋やってます。」「殺し屋続けてます。」(ともに文春文庫)です。

中心となる殺し屋は、中小企業の経営コンサルタントを本業にしている「富澤允」。彼が経営コンサルタントの副業として、漫画家の恋人・岩井雪奈のアドバイスを受けながら報酬650万円で殺し屋を引き受けている、という設定です。

殺し屋の「依頼のきまり」は

・ご自分の身分証明書と、殺したい人の写真をお持ちください。
・殺したい人の情報(氏名・住所など)をお知らせください。
・ご依頼を受けてから三日以内に、お引き受けできるかどうかお知らせします。
・お引き受けした場合、原則として二週間以内に実行いたします

ということで、依頼を引き受けた時に前金として300万円、殺しが成功したら350万円を支払い、殺したい人物の住所を調べたり、殺害日や殺害方法に指定がある場合は別途オプション料金が必要。
また殺しの契約は、依頼者が「伊勢殿」と呼ばれる連絡係(町の開業歯科医さんですね)に依頼をし、彼から殺し屋側への連絡係・塚原(役所勤めの公務員です)を介して殺しを行う富澤と連絡を取り合う、というシステムがとられています。依頼者と殺し屋の正体をそれぞれがわからないようにして、殺しの実行後とトラブルを防いでいるようですね。

そして、富澤は依頼を引き受けると、ターゲットを実際に尾行したりして、行動パターンの調査をするのですが、きまって依頼者が不自然な行動をとっているのを発見します。その不自然な行動が実は「殺し」の依頼理由などにも関わってくる「謎」で、殺しを実行するのと同時に「富澤」がそれを解き明かしていき・・というストーリーですね。

「殺し屋やってます。」のあらすじと注目ポイント

シリーズ第一作「殺し屋やってます」の収録は

「黒い水筒の女」
「紙おむつを買う男」
「同伴者」
「優柔不断な依頼人」
「吸血鬼が狙っている」
「標的はどっち?」
「狙われた殺し屋」

となっていて、第一話の「黒い水筒の女」では、殺しのターゲットは理事長のコネをつかって保育所に勤務している保育士なのですが、彼女は勤務が終わった後、かならず公園に寄り道してそこの水飲み場で、黒い水筒にいれた液体を捨ててから家に帰る、という行動をしています。彼女のバッグを調べると、勤務中に水分補給をする飲み物をいれた「白い水筒」は別に持っているのがわかります。果たして、「黒い水筒」の中身は・・というのが、殺しと同時に解かれる「謎」となります。この中身が今回の殺しの理由と依頼者の正体に関わってくるのですが、それは保育園の運営を妨害するかなりエグいもので・・といった展開ですね。

第二話の「紙おむつを買う男」では、休日になると必ず子供用品店で「紙おむつ」を買うという行動をとる分譲住宅を扱っている工務店の若い独身の営業マンがターゲットとなったり、第三話の「同伴者」では、有名ブランドの洋服店の女性店員の殺しを依頼してきた男性に、母親らしい人物が同伴してくるのですが、その理由は?とか、殺しの依頼にくっついてくる「小さな謎」を、殺しの実行とともに解いていく、一風変わった「コージー・ミステリー」が展開されていきます。

ただ、この謎解きで、殺し屋の「富澤」が被害者の寄り添うような優しい態度をとるようにみえることがあるのですが、実は「ビジネスライク」な理由が隠れているので、そのドライさに驚くこともあるかもしれません。

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「殺し屋、続けてます。」のあらすじと注目ポイント

第二作の「殺し屋、続けてます。」では、前作に続いて、「殺し屋」副業を続けている富澤の同業者が現れます。本来、「殺し屋」というのはターゲットも別々で、個別契約なので競合することはないと思われるのですが、ターゲットとなる人物は同じようなところに生息しているのか、殺しの現場がすれ違ったり、バッティングしたりといった現象が起きてきます。

収録は

「まちぼうけ」
「わがままな依頼人」
「双子は入れ替わる」
「銀の指輪」
「死者を殺せ」
「猪狩り」
「靴と手袋」

となっていて、基本の構造である、殺し屋が殺しを実行するとともに、ターゲットが見せる日常生活の中での「小さな謎」を解いていく、という筋立てなのですが、今回、新たに加わる殺し屋「鴻池知栄」は、インターネット通信販売を本業にしている女性殺し屋で、中学3年生の娘がいるシングルマザーと、前作で登場済の「富澤」とは職業も家庭環境も異なる殺し屋なので、違った趣向の「殺し」を見せてくれます。

さらに、今巻は第二作「わがままな依頼人」のように、殺し屋が「依頼を断った末の再依頼での殺人」という二転三転した末での「謎解き」といった凝った仕掛けも楽しめます。

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レビュアーの一言

「殺し屋」が登場する殺人ミステリーなのですが、基本のところはターゲットが見せる日痴情生活での奇妙な行動の謎を解く、という「コージーミステリー」で、殺しの場面はあるものの「あっさり」とした描かれようなので陰惨なところは皆無ですね。
むしろ、「殺し屋」と「連絡係」との軽妙な会話と謎解きが楽しめる軽めのミステリーとなってますので、気楽に楽しんでくださいな。

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