昭和初期、14歳の女中さん「野中ハナ」が大奮闘=長田佳奈「うちのちいさな女中さん」

大正時代の日本を舞台に、顔も知らない他人同士だった男女の新婚生活や仮面をかぶる古書店の店主と学校になじめないでいる転校生の少女とのふれあいなどを収録した「こうふく画報」で古き良き「過去の日本」へのノスタルジーを描いた筆者が描く「昭和初期」の物語が『長田佳奈「うちのちいさな女中さん」』シリーズです。

本の紹介文によると

「女中」。かつては日本女性の一大職業であり、日常の中にその姿はありました。これは、そんな女中さんたちが活躍した昭和初期を舞台に14歳の女の子・野中ハナが翻訳家の蓮見令子の女中として働く日々を描いた物語

とあって、筆者お得意の「昔の日本」の一般家庭での少女の家事奮闘記が描かれていきます。

第1巻から第2巻までのあらすじと注目ポイント

第1巻 蓮見家に14歳の女中・ハナちゃんがやってくる

第1巻の構成は

第1話 ちいさな女中さん
第2話 新しいおうち
第3話 台所譚
第4話 手紙
第5話 着物ばなし
第6話 通り雨

冒頭では、翻訳家をしている未亡人の蓮見令子さんの家へ、14歳のまだ幼い風情をのこしている少女が訪ねて来るところから始まります。令子は今まで雇っていた女中さんが引退したため、新しい女中を長野の親戚へ斡旋してくれるよう頼んでいた、とのことで、本来はもっと年配のベテランを頼んでいたようですね。

そこへすごく若い「ハナ」がやってきた、ということで、とまどいと不安を顔と仕草に出してしまう、ある意味、素直な「令子」と、その様子をみて、自分が頼りなく思われていることを申しながる「ハナ」の純朴さが、なんとも泣かせる展開になっています。

と頭を下げる「ハナ」の姿をみると、女性の働くところが少なかった当時、この家を出されてしまうと行き場のなくなる心細さがこちらにも伝わってくるようですね。

この後、ガスの使い方を教わったり、令子さんからお下がりの着物をもらって洗い張りして、着物を自分用に仕立て直したりして、だんだんと家へ「蓮見家」に馴染んでくるとともに、令子さんのほうもカフェへ傘を届けに来る「ハナ」の姿を見て、新しい家族が増えたように感じて言っているのが「ほんわか」として、いい読み心地です。

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第2巻 ハナちゃん、都会を体験する

第2巻の構成は

第7話 ハナの日記
第8話 洋食はじめ
第9話 ハナの休日
第10話 台所事変
第11話 青嵐
第12話 夏支度

となっていて、「蓮見家」になじんできた「ハナ」の家事の奮闘と、都会の暮らしをだんだん経験していくところが描かれます。

第7話や第8話のところでは、ハナの日記を通して、昭和初期の一般家庭での「食事」のメニューが見えてきますし、当時はまだ珍しかった「カレーライス」を主従でつくるところには「洋食」メニューの普及のようすが覗えます。洋食は当時のセレブであった「令子さん」は経験していても、幼少時は貧しい暮らしであったと思われる「ハナ」には驚くような体験であったようですね。

これは、令子さんに連れられて行った(おそらくは)銀座デパートの食堂で食べる「クリームソーダ」や映画鑑賞にも通じることですね。

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「女中さん」のあれこれ

「<女中>イメージの家庭文化史」の書評氏によると、

女中奉公は、明治の中頃までは口減らしのためだけではなかった。・・武家や、裕福な商家・農家では、娘を女中方向に出すのは葉にょめ修行の一環だった。娘たちは幼いころから手習いにはげんで各種技能を身に付ける。格式の高い家に奉公に上がれば、それだけ良縁に恵まれるからだ。

とあって、本シリーズの中にも、雇い主である蓮見令子さんを訪ねてきて女中の躾けについて指導する「お義姉さま」の言葉にもそれが現れているのですが、

近代以降しばらくは、女中になるのは経済的な理由よりは修養のためであるという意識が、女中になる側にも、雇い主のほうにも残っていた。それが次第に薄れてゆくのは、中間層が拡大し、女中の雇用が拡大するにつれてのことである。

というように、このシリーズの舞台となる昭和初期は、家事労働の提供者としての「女中さん」が一般化していく時代といっていいのではないでしょうか。

主人公の「野中ハナ」も「身寄りはない」と令子に打ち明けているので、暮らしていくために奉公にでた、という雰囲気が強いのですが、蓮見令子の翻訳した童話本を大事にもっているところをみると、賃金を得るだけでなく、学問や都会への憧れもあったように思えますね。

レビュアーの一言

「令子さん」と「ハナ」の暮らしを通じて、昭和初期の、少しセレブな家庭の雰囲気が伝わってきて、なんともノスタルジックな気分にひたれる作品に仕上がっています。

時代的には、第1巻の最初のほうで「昭和9年初夏」となっていて、昭和7年に満州事変や5・15事件が起きているのですが、まだ物語には「戦争」の影はなく、令子さんもいままでどおり翻訳活動を続けています。この後の昭和11年に起きる2・26事件や昭和12年の盧溝橋事件など、これから進んでいく戦時色が、この物語にどう影響してくるのか、それとも全く関係ないノスタルジックな作品としてまとめるのか、次巻以降気になるところでありますね。

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