紙鑑定士は、子供が抱える「深い謎」を解く=歌田年「紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪」

持ち込まれた紙のサンプルを調べ、メーカーや銘柄を鑑定して、本のカバーや帯、表紙などにあった紙銘柄を提案したり、書籍や雑誌の使用されている紙の使用量を調べ、本当の刷り部数を割り出すという、他にはいそうにない「紙」コンサルタントを営んでいる「渡部紙鑑定事務所」のオーナー・渡部圭が、誤解して事件の調査を持ち込んでくる依頼人の謎を解いていく、変わり種の探偵ミステリー「紙鑑定士の事件ファイル」の第二弾が本書『歌田年「紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪」(宝島社)』です。

第一作では、模型ジオラマの関係した浮気事件や妹の失踪事件の謎をといた主人公・渡部だったのですが、今回は本書の帯によると

どんな紙でも見分けられる男・渡部の紙鑑定事務所には今日も髪にまつわる一風変わった依頼が舞い込む。
(中略)
プラモデル造形家・土生井やフィギュア作家・團の知識を借りながら、渡部は複雑な謎を解決していくが・・・。紙・フィギュア・アメコミ・印刷・コスプレなどさまざまな分野の蘊蓄を詰め込んだ、全三作の連作短編集!

ということで、今回も雑多な知識を収集しながらの「謎解き」が始まります。

あらすじと注目ポイント

収録は

FILE:01 猫と子供の円舞曲
FILE:02 誰が為の英雄
FILE:03 偽りの刃の断罪

となっていて、第一話の「猫と子供の円舞曲」では、小学校低学年の女の子が、夕食代にと渡された1000円を持って、調査の依頼にやってきます。彼女は「紙の鑑定をしてくれる所ですか」とやってくるので、探偵事務所と誤解してやってきたのではなさそうです。

で、彼女の依頼というのが、持ってきた「豆腐をやや薄くしたような長四角の白っぽい塊」が「よいこの紙粘土」という製品かどうかの鑑定です。なんでも、この塊が近所の野良猫が集まっていた場所に落ちていて、そこに片眼がつぶされた仔猫がいるのを見つけます。女の子は片眼をつぶした凶器が紙粘土で、その紙粘土は彼女の同級生が持ち帰ったものではないか、と疑って依頼にきたというわけです。

「紙粘土の鑑定」は専門外なのですが、知り合いのプラモデル造形家・土生井から、それがフィギュア造りに使われる「石粉粘土」であることを教えられます。ただそれ以外に調べようもなく、少女から預かった現物を、交番に届けることでおしまいにするつもりの渡部だったのですが、昼食の弁当を買っての帰り道、茶色い獣毛と褐色の染みのついた「粘土」の塊を発見して・・という筋立てです。

この後、土生井から「石粉粘土」を使ってフィギュアを作っている造形作家・團を紹介され、彼から、石粉粘土が製造中止になるとい情報から、転売目的で粘土を大量購入し、その後製造再開が決まったため、在庫を抱えて困っている「転売ヤー」の男のことを教えてもらい・・・という展開です。

第二話の「誰が為の英雄」は、前話で知り合ったフィギュア作家の團が、事故死した白バイ警官の妻・伴地有美から特別注文を受けて造った、アメコミ・ヒーローのフィギュアの納品に同行するところから始まります。依頼者の息子・翔は12歳なのですが、父親が事故死してからひきこもりに近い状態になっていて、彼を元気づけるために、息子が好きなアメコミの主人公のフィギュアを誕生日プレゼントに贈ろうとしていた、というわけですね。

しかし、それを納品した三日後、その息子はフィギュアが気に入らなかったのか黙って部屋の外に放りだしてしまい、おまけにその女性が階段から落としてバラバラに破損した、という話がはいります。さらに追加情報として、息子は、母親の有美に、そのアメコミ・ヒーローのマンガの日本語版の二巻目の購入をさせていたのですが、買ってきてもらった全ての本に欠陥品だとダメ出しをしています。

一見すると、息子・翔のキマグレと思える行動なのですが、渡部は、マンガの一巻目と二巻目を並べておいて比べてみると、ある違いに気が付き・・という展開です。

表題作である第三話の「偽りの刃の断罪」は、第一巻で知り合いになった神奈川県警捜査一課の刑事・石橋からの依頼です。依頼の内容は、彼が担当している事件の証拠品の紙の鑑定という名目なのですが、その手紙は、菱谷貴里という女性に、「春見真久」と言う男性が出したラブレターなのですが、それを出した後、真久は貴里にフラれ、彼女はまもなく張本善治という男性と結婚。そして、数日前、その張本善治・貴里夫婦宅が強盗に入られ放火され、家にいた夫・善治が刺殺された、という事件がおき、その強盗として、春見に嫌疑がかかっている、といういわくつきのものです。

三人は、アニメのコスプレ仲間であったのですが、善治と貴里が結婚したことを逆恨みして、春見が強盗にみせかけて犯行に及んだのでは、と疑われているわけで、実は、その証拠と思われている「手紙」の鑑定を通じて、石橋の昔からの知り合いの春見の嫌疑を、前巻で真犯人を突き止めた渡部に晴らしてくれることを期待している、というところですね。

今回はコスプレ界隈の情報が謎解きの鍵となるわけですが、今巻で知り合ったフィギュア作家の「團」がコスプレにも詳しいことが判明し、彼からのコスプレの衣装や剣などの小道具の情報が、「張本善治」殺害に使われた凶器の割り出しや放火のトリックの謎を解いていくことになるのですが、春見の無実を証明しようとしたところで、彼が犯行を自白し・・と展開していきます。

そして、この「殺害事件」と思われたものが実は・・というところなのですが、その真実の先に、ある病気の少女の治療に絡んだ美談が隠れてますので、最後まで気が抜けませんよ。

ちなみに「偽りの刃」ってのはコスプレ時に使用される模造刀のことなのですが、これが表題になっているのは深ーい意味がありそうですね。

Bitly

レビュアーの一言

今回は、いずれも少年少女が関係した事件で、三話ともハッピーエンド的な結末を迎えるのがいいですね。どんなハッピーエンドかは本書の「エピローグ」のところで確認ください。

さらに、本書中のフィギュア、アメコミ、コスプレのネタは貴重な情報源ですね。そこそこにオタクっぽくてこのシリーズ特有の魅力ですね。

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