趙・李牧の包囲網を、桓騎の奇策がぶち破り、砂鬼一族の秘密が明らかに=原泰久「キングダム」67

中国の春秋戦国時代の末期、戦国七雄と呼ばれる七カ国同士の攻防が続く中、中華統一を目指す秦王「嬴政」と、戦争孤児の下僕から、天下一の大将軍を目指す「信」が、ともにその夢の実現を目指していく歴史大スペクタクル原泰久「キングダム」(ヤンギジャンプコミックス)シリーズ第67弾を総解説します。

前巻で趙の名軍師・李牧の策によって、趙国へ攻め込んだものの、軍勢を二つに分断され、主力を率いる桓騎軍は、宜安城近くまでおびき寄せられ、秦軍の2倍の兵力を有する趙北部軍によって包囲されてしまいます。信と蒙恬の部隊は羌瘣たちの奮闘の末、押しつぶしにかかる趙軍を突き抜け脱出に成功するのですが、桓騎本軍に対して李牧の趙北部軍が大軍で襲いかかってくる危機をどう切り抜けるのかが描かれるのが本巻です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第725話 異様な陣形
第726話 強くなる場所
第727話 桓騎の鉞
第728話 最古参
第729話 美しい子
第730話 紅春
第731話 命がけの歩兵団
第732話 砂鬼の術
第733話 奪われた者
第734話 生き延びる手段
第735話 中間の奴ら

となっていて、桓騎にはすでに策がないと考え、桓騎軍と壁軍、秦北東部軍を2倍の兵力で取り囲んで圧迫してくる趙軍に対し、桓騎は中国の兵法を研究し抜いた李牧ですら今まで見たこともない「クロス」の陣形を敷いてきます。

この奇怪な陣形に対し、警戒して攻撃をためらう趙軍の将軍たちだったのですが、総指揮官・李牧は、この陣形が今までの中国戦国時代五百年の争乱の中で伝わってこなかったのは有効な陣形ではなかったからだ、と見抜き、「クロス」の四本の足の先端部分からじっくり攻め潰していきます。

この攻撃によってじりじりと先端部分から潰されていくのをみた桓騎は、中央部で桓騎本陣を守っていた黒桜の部隊を前進し、攻撃しようとしてくる趙軍を牽制します。しかし、趙軍が前進を止めると黒桜の部隊を下げ、趙軍が動こうとすると次の部隊を前進させては、後退させとて、という牽制を連続してきます。双方の軍隊がぶつかり合うことなく、互いに牽制し合って時間ばかりが経過していくのですが、実は桓騎の狙いは、その「時間の無駄遣い」にあって・・ということで、彼が狙っていたのは「日没」です。

それは、正規の兵士で組織された「趙軍」と、野盗あがりのならず者で組織された「桓騎軍」との決定的な違いを利用したもので、ということで、ここから桓騎たちの大脱出が始まっていきます。

この大脱出では、その苛烈さで敵方の恐怖の的であった「ゼノン軍」の活躍が目立ちますが、犠牲のほうもまた・・という展開です。

李牧は桓騎軍の脱出劇をみても、秦の首都と北部攻略の戦略を挫いたことには間違いなく、また桓騎軍も飛信隊も趙軍による大包囲網の中でいずれ瓦解していくだろうと安心しているのですが、次巻以降で、その誤算があきらかになるのでは、という気がしてきます。

巻の中盤では、李牧の率いる趙の大軍勢からからくも逃れた信の飛信隊と重傷を負っている蒙恬の楽華隊へと話が移ります。山岳地帯へと逃れた信たちだったのですが、李牧の敷く趙軍の大包囲網の中からは逃げ出すことができずにいます。

そこで出会ったのが、昨年、平陽城を落とした大はしご車の「紅春」を運送してきている桓騎軍の氾善と、桓騎軍の中で「ゼノン一家」と並んで恐れられている、拷問を担当する「砂鬼一家」です。彼らは桓騎軍より一足遅れで進軍していて、宜安城で集結する予定であったようです。このままでは、いずれ趙軍に見つかって、攻撃の的となることを想定した信たちは「紅春」を使い、宜安城を占拠する作戦を立てます。

宜安城を占領し、散り散りになっている桓騎軍などの秦軍の残党を集めて籠城し、秦本国からの増援軍を待とう、という作戦ですね。

ただ、ここでひっかかるのは、あちこちの戦場で、捕虜の拷問と死体を弄ぶことで有名な「砂鬼一族」を同行させるか、というところなのですが、ここで桓騎と砂鬼一族の秘密の一端が明らかになっていきます。それは、戦国の争乱の中で、孤児たちが生き延びていくためにとったある方法で・・という筋立てです。

砂鬼一族の秘密を知った信たちは彼らとともに、宜安城に向けて出陣します。大はしご車「紅春」を前門にかけて攻撃をしかけ、城兵がそこへ集中してくる隙きを狙って、後門を開ける作戦で、両面での両軍の死闘が展開されていくのですが、詳細は原書のほうで。

Bitly

レビュアーの一言

本巻では、宜安城攻略の際に、城門を開けるため「田有」「龍川」「中鉄」の三人が決死隊となって、守備兵と戦い、重傷を負うこととなるのですが、砂鬼一族の「治療」によって一命をとりとめています。ちらりと見える手術の様子は、心臓マッサージと縫合術ですね。

戦争の際の負傷者や傷病兵の治療で、医学の技術が磨かれた、という側面が「砂鬼一族」にも継承されていたということでしょう。特に彼らは拷問や死体の腑分けも担当していたようですので、外科的な手法は人体構造を含めて相当の知識が蓄えられていたのでは、と思われます。

【スポンサードリンク】

まんが王国

コメント

タイトルとURLをコピーしました