ホームズの想い人・アイリーン・アドラーが掴んだイギリスの闇の情報は相当ヤバい=「憂国のモリアーティ」5・6

若干21歳でイギリスの名門・ダラム大学の数学教授に抜擢されたほどの類まれな頭脳と、あらゆる分野にわたる知識をもち、世界一有名な名探偵「シャーロック・ホームズ」の最大の敵役で、ロンドンで迷宮入りする事件の過半数は彼の犯行と噂される犯罪卿「モリアーティ教授」の犯罪と彼らの真の目的を描く、クライム・ストーリー「憂国のモリアーティ」の第5弾~第6弾。

前巻では、戦線が膠着していたアフガン戦争をさらに長引かせて、大英帝国の威信と軍備増強を目論んで、ロシア製の兵器の偽装製造を行っていたインド総督を始末し、その過程で、メンバーの一人・モランの過去の清算も行ったモリアーティ・チームだったのですが、今回は、イギリス王室内に秘匿されていた、イギリスの安寧に関わる情報の漏洩騒動と、シャーロックホームズのたった一人の憧れ、といわれる「アイリーン・アドラー」が登場します。

あらすじと注目ポイント

第5巻の構成は

#16 二人の探偵 第二幕
#17 大英帝国の醜聞 第一幕
#18 大英帝国の醜聞 第二幕
#19 大英帝国の醜聞 第三幕

第6巻の構成は

#20 大英帝国の醜聞 第四幕
#21 大英帝国の醜聞 第五幕
#22 大英帝国の醜聞 第六幕
#23 大英帝国の醜聞 第七幕

となっていて、第5巻の前半の「二人の探偵」は、第4巻の後半からの引き続きで、「犯罪卿」の姿を追って、あちこちの事件に首を突っ込みはじめたシャーロック・ホームズが、ヨークでの事件の解決後、ロンドンへ戻る車内で起きた「密室殺人」の謎を、ウィリアム・モリアーティと競争に解き明かすお話。

この事件では、ワトソンが第一容疑者となってしまったせいもあってか、犯人を突き止めるまではホームズとモリアーティの勝負は互角なのですが、犯人に犯行を認めさせるところではモリアーティに先を越されてしまいます。

第5巻の中ほどから第6巻までの「大英帝国の醜聞」では、ホームズの「憧れの人」であるアイリーン・アドラーが登場します。原作でも「ボヘミアの醜聞」一作だけに登場する美女なのですが、このシリーズでも、この一作のみの登場という仕掛けになるのですが、実際のところは原書のほうでご確認を。

物語はシャーロック・ホームズの兄・マイクロフト・ホームズがヴィクトリア女王によって呼び出され、宮殿内から盗み出された「もし公開されればイギリスに暗黒の時代をもたらす」手紙を探し出すよう命令されるところから始まります。

その文書を盗み出したのは、アイリーン・アドラーという人気のあった元プリマドンナで、現在はヨーロッパの高官たちの秘密を掴んで、それをネタに豪華な暮らしをしているという高級娼婦です。マイクロフトは、MI6のリーダーであるアルバートモリアーティに、手紙の奪還とアドラーの抹殺を命じます。

ところが、同じころ、シャーロックのほうは、ボヘミアの皇太子を名乗る人物から、彼がアドラーとねんごろになっている写真を取り返して欲しい、という依頼をうけるのですが、実はこのボヘミア皇太子がアドラーの変装で、彼女の策略によって、アドラーを自らのアパートに保護する羽目に陥ります。その手管については原書のほうを確認していただきたいのですが、かなり手ごわいやり口で、ここから、シャーロックはアドラーの護衛者として行動を始めることになります。

一方、秘密裡に、しかも暗殺の疑いをそらすため公の場に近いところでアドラーから手紙を取り戻す交渉を行うため、アルバートたちは彼女を、バッキンガム宮殿で催される仮面舞踏会に彼女を招待します。

その場に現れたのは、女性の姿のアドラーではなく、ボヘミアの皇太子に変装したアドラーで、舞踏会の会場で、悪逆な貴族の「浄化」作業が進められるのと並行して、手紙の返還交渉が進められます。それは、モリアーティ兄弟の真の姿を彼女に見せるとともに、イギリス政府によって抹殺される運命から彼女を救い出す提案をセットで提供して、手紙を返還させようというつもりなのですが、政府が本気で抹殺を考えるほどの秘密とは・・といった筋立てです。

少しネタバレしておくと、この手紙はビクトリア女王の祖先・ジョージ3世から王家に伝えられてきたもので、彼の治世中にヨーロッパ大陸でおきた「フランス革命」に関するもので、イギリスはフランス革命に当初理解を示していたのですが、ルイ16世の処刑後、反対派にまわったという過去をもっています。

今回は、この史実の闇の部分を解き明かすものとなりますね。

そして、この手紙をアドラーから入手したアルバートたちは、イギリス政府の陰の部分を担当するマイクロフト・ホームズにある取引をもちかけ・・という展開です。このあたりで、ホームズ家の陰の部分も明らかになってきますので見逃さないようにしましょう。

レビュアーの一言

今回明らかにされる「大英帝国の醜聞」では、フランス革命の指導者・ロベスピエールがイギリスのスパイで、途中から別人がすり替わったとされています。

本巻中では、ロベスピエールが母親が若くして死亡し、父親もそのショックで家を出ている境遇なので、入れ替わりも可能だったろう、とされているのですが、実際は祖父母によって養育され、その優秀さからパリのルイ大王学院に進学し、祖父母の死後も教授陣のひきたてられて、パリのソルボンヌ大学に進学し、弁護士資格を得ているので、このあたりでのすり替わりは難し立ったと思われます。

狙うとすれば、三部会の議員選挙に当選し、故郷のアルトワ州の代表の一人としてパリへ出たあたりで、まだパリ政界では無名の存在で、報道でも名前間違いをされている時期が狙い目だったと思われます。アラスでの弁護士時代、真面目ではあるが冗談も通じ、気さくで人づきあいがいいとされていた彼の性格が、革命後は冷血漢といわれるようになった変化がこれで説明できるのかもしれないですね、

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