アイスランドを舞台に、17歳の「車の声」を聞く探偵の活躍はいかが=入江亜季「北北西に曇と往け」1〜6

北方の国アイスランドと日本を舞台に、車や機械と会話のできる特異才能をもった17歳の少年・御山慧が、鳥と会話できるフランス人の祖父・ジャックの家に居候しながら、生活費を稼ぐために請け負う探偵仕事のエピソードが語られていく、青春探偵ミステリーが『入江亜季「北北西に曇と往け」(青騎士コミックス)』です。

あらすじと注目ポイント

第1巻 車と話す才能の持ち主で17歳の探偵・御山慧、登場

第1巻の構成は

第1話 荒原の雲はすぐ過ぎる
第2話 風の行方に用はない
第3話 星降る翼
第4話 渡り鳥が知っている
第5話 三知嵩
第6話 一時帰国
第7話 夏の思い出
第8話 本日は晴れのち豪雨
第9話 黒い雲が頭をなでる
第10話 1℃の氷

となっていて、冒頭では中古のジムニーでアイスランドの荒野を疾走しながら、ハンドル操作を誤って、路肩に転倒する主人公・御山慧の姿から始まります。転倒した車の上に乗ってなにやら話しかけている様子が描かれ、彼が何か「機械」と関連した異能を持っている雰囲気を漂わせるのですが、それは第4話で明らかになっていきます。

シリーズ最初の第1巻では、鳥と会話ができて、プレイボーイのフランス人の祖父、祖父の恋人となる女優のカトラ、カトラの姪で音楽家のリリヤといったシリーズの中心的なキャラが登場します。

そして、中盤で、日本に住んでいる慧の弟・三知嵩が行方不明になり、その弟のあとを追って、叔父夫妻をはじめとする連続不審死の重要容疑者として、日本から刑事が捜索にやってきます。

シリーズの第6巻まででは、この弟の特異才能が引き起こす事件が、潮流の一つとなりますので要注意です。

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第2巻 慧の友人と巡る「アイスランド」を堪能しよう

第2巻の構成は

第11話 朝と夜と羊
第12話 ウェルカム・レインボウ・シャワー
第13話 レイキャビクには本屋が多い
第14話 金の滝、銀の泉
第15話 ワンダーグラウンド
第16話 親友
第17話 曇の湧く谷
第18話 妖精は湯煙に遊ぶ

となっていて、今巻は、大学入学前に、日本から慧に会いにやってきた高校生「清」とともに歩くアイスランド紀行といったところでしょうか。

「清」の設定は、アプリ製作でそこそこ稼ぎもある、パソコン・オタク。体育会系の慧に連れられて、アイスランドのあちこちを連れ回されているうちに、この国の自然と食事に魅せられていく、といった展開です。体育会系の慧とどういういきさつで友人になったかについては第16話で明らかになってます。

巻の中で巡るところは、アイスランドらしい植物のほとんど生えていない荒野、首都レイキャビク、氷河で削られた跡の「黄金の滝」、そして火山国アイスランドの象徴ともいえる間欠泉といったところです。

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第3巻 行方不明の少年探しから弟・三知嵩の危険な才能が明らかになる

第3巻の構成は

第19話 冬の野原に響いて消える
第20話 今朝までの退屈と空腹(前編)
第21話 今朝までの退屈と空腹(中編)
第22話 今朝までの退屈と空腹(後編)
第23話 再訪
第24話 偶然、疑惑、風に紛れる
第25話 フレイヤ
第26話 氷の刃

となっていて、冒頭でアイスランドを訪れていた「清」が帰国し、話は日本から慧を探してやってきていた弟・三知嵩の様子が描かれます。彼が兄・慧を異様なほど慕っているのがわかりますね。

中盤では、ひさびさに慧の探偵仕事が描かれます。行方不明となっている少年・ヨウンの捜索で、レイキャビクの南にあるコーパヴォグルのゲストハウスで彼をみつけるのですが、彼の家出の原因を探るのに、慧の「機械と話せる」という才能が活きてきます。少しネタバレしておくとLGBTQネタなのですが、20年以上から同性のパートナーシップが認められているアイスランドらしく、ことさら深刻な話題にはならないようですね。

そして、ヨウンを一緒に捜索した彼の親友・シグルーンから、シグルーンに携帯を預けて行方をくらましたフレイヤの安否を、彼女の携帯の電源をいれることなく調べてくれるよう頼まれるのですが、ここから三知嵩の意外な一面が明らかになってきます。

面倒を見てくれた他人に異常に懐いて執着するのは、慧への態度と同じなのですが、その愛情に疑いが生じると容赦なく相手に手をかけます。そのやり方は、物理的なやり方ではなく・・ということで詳細は原書のほうで。

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第4巻 三知嵩は、精神的な武器を使う連続殺人鬼?

第4巻の構成は

第27話 グッドモーニング・リリヤ
第28話 続 グッドモーニング・リリヤ
第29話 三知嵩の白い息
第30話 探し人は今語る/震える手
第31話 日が沈む方へ歩いていく
第32話 荒野に眠る子守唄
第33話 北風と南風
第34話 妖精のご機嫌

となっていて、今巻の主人公は、美少女リリヤと慧の弟・三知嵩。

まずリリヤのほうの読みどころは、前半部分での慧と偶然会ったには出来すぎのジョギング最中のイチャイチャと、後半部分での氷河上のドライブ。まあ、ここのところは、慧とリリヤの不器用なラブストーリーとして読んでおきましょう。

今巻のメインは、三知嵩の正体がだんだんと明らかになってくるところです。

まず、三知嵩が叔父夫妻と暮らしていた田舎町の駅前のコンビニへ、第1巻で現れた刑事が聞き込みに来るところから始まります。このコンビニや彼の高校時代の同級生、中学時代の学校の教師から語られるのは、彼を取り巻く人物たちの相次ぐ不審死です。

そして、慧のほうはシグルーンとともに探して見つけたフレイヤから三知嵩のことを聞いて、彼のところへ向かうのですが、すでに彼は行方をくらましていて・・という展開です。

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第5巻 リリヤとの仲はなんとなく良好だが、弟・三知嵩に捜査の手が伸びる

第5巻の構成は

第35話 青と白の伽藍
第36話 ラーカギーガル
第37話 リリヤの音楽
第38話 嵐の夜は静かに話そう(前篇)
第39話 嵐の夜は静かに話そう(中篇)
第40話 嵐の夜は静かに話そう(後篇)
補遺 その1 石井の日記
補遺 その2 ジャックの日記
補遺 その3 カトラの日記
補遺 その4 リリヤの日記
補遺 その5 清の日記

となっていて、前半の三話は、前巻と同じように、リリヤと慧の恋愛譚。初めてリリヤの演奏を聞いて、それが頭の中にリフレインする慧なのですが、ここらをきっかけとしたリリヤとのつながりが、次巻での弟の突然死にショックを受ける慧の支えとなっていきます。

中盤からは、泊めてもらっていたジャックの知り合いの家から突然に姿を消していた三知嵩が慧の前に現れます。突然の失踪で皆が心配していたことを全く気にかけない三知嵩のKYぶりはかなり異様な感じを受けます。

この巻では久々に慧が探偵仕事を請け負っています。それは中年の女性から、夫の浮気の証拠を見見つけてくれというものなのですが、実は、浮気というよりは、夫婦のビジネスでの価値観の違いが引き起こした案件名おですが、この解決に三知嵩が一役かうことになります。

ただ、事件が解決した後、彼を待っていたのは、警察と名乗る男たちで・・という展開です。

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第6巻 弟・三知嵩の突然の死は何を意味する?

第6巻の構成は

第42話 慧の狩
第43話 報せ
第44話 ここに睡る
第45話 帰郷
第46話 瑞穂の国でエンスト中
第47話 且坐喫茶

となっていて、前巻の後半で、警察を名乗る男たちに三知嵩が連行されてしまったのですが、慧が警察へ来てみると、そんな事実はないと断言されます。

三知嵩を探して、彼が拉致された場所にいる「車」に聞きながら行方を探る慧だったのですが、彼のもとへレイキャビク郊外の湖で、死んでいる子供が見つかった、という報せが入ります。

湖ヘ向かう雪原には足跡が一人分だけ残されていて、自殺だろうと結論づけられるのですが・・という展開です。

三知嵩の突然の死に動揺し、祖父・ジャックとともに帰国した慧は腑抜けのようになった毎日を暮らすのですが、三知嵩が死んだことを「写真」でしか確認していないことから、ある疑惑を抱き、ということで次巻へ続いていきます。

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レビュアーの一言

このシリーズは異国における青年の探偵ものなのですが、その魅力を支えているのは「アイスランド」の自然と町の風情でしょう。

以前は、金融国家として経済成長していたアイスランドなのですが、世界金融危機の影響をもろにうけて債務不履行に陥りましたが、現在はそれがいいほうに転がって、漁業やアルミニウム、ITの輸出産業へ有利に働き、現在ではそうした輸出産業や観光業が国の経済を支えているようです。

ちなみに、「ヴィンランド・サガ」の主要な舞台の現在の姿を知るにうってつけのシリーズでもありますね。

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