型破り軍人バルツァーは、隣国を母国の侵略戦争に巻き込む=「軍靴のバルツァー」3・4

19世紀の帝国主義まっさかりの頃、こちらの世界でいうとヨーロッパ大陸の北東部に位置する軍事国家・ヴァイセンの軍人「ベルント・バルツァー」が隣国「バーゼルランド」へ軍事顧問として派遣され、大陸の強国と弱小国の間で繰り広げられる戦争と謀略に巻き込まれながら、士官学校の生徒とともに国を動かしていくプチ異世界戦争物語『中島三千恒「軍靴のバルツァー」(バンチコミックス)』シリーズの第3弾から第4弾。

前巻までで、派遣されたバーゼルランドの王立士官学校の実質的な運営者であるバーゼルランドの第二王子アウグストからふっ掛けられた50人の囚人兵との戦闘に見事勝利したバルツァーだったのですが、学校の砲兵科の優等生ディーダの実家の兵器工場の労働者デモの鎮圧に駆り出されていきます。

あらすじと注目ポイント

第3巻 バルツァーは因縁の旧友に勝つため、インフラ整備に乗り出す

第3巻の構成は

第11話 世論戦
第12話 覇王の家
第13話 架け橋
第14話 解放
第15話 憂国の謀

となっていて、前巻の後半から始まっている、シュトルンツ製鋼の労働者デモに始まった、労働者反乱を鎮圧するため、バルツァーは、騎兵科の生徒を動員してデモ集団へ切り込みをかけます。デモ集団は所詮、戦闘に関しては素人集団なので、バルツァーたち軍人の卵による攻撃で退却するのですが、このデモ集団を先導していた反政府系メディアによって、第二王子と出動した士官学校や軍隊を非難するアジ記事が大量に出回り、世間の批判にさらされることになります。

世間の批判の目を跳ね返すため、バルツァーは反政府系メディアに対抗して情報戦をしかけるのですが、それはデモの鎮圧で死亡したり、怪我を負った生徒たちを利用したやり方で・・という筋立てで。この国でも「情」に訴える作戦は功を奏しているようです。

そして、このデモ隊鎮圧の功績で、王宮で勲章を授与されることとなったバルツァーは、これに乗じて祖国ヴァイセンの進駐軍の拡大を勧めるのですが、そこに立ちはだかったのが、第二巻で姿を見せた、かつてヴァイセンの青年将校のクーデターの黒幕だったリープクネヒトです。彼は、ヴァイセンの仮想敵国である、バーゼルランドの南方にある「エルツライヒ」の女帝の肝入りで派遣された顧問で、第一王子とその勢力に深く食い込んでいるようです。

ヴァイセンとの友好提携を破棄してエルツライヒとの盟約の締結を進めることを提案する第一王子側への対抗策として、バルツァーが仕込んだのは、軍を撤退させ、第一王子側を油断させたところで、士官学校の生徒「ディーダ」の実家シュトルンツ製鋼を利用して、ある事業を立ち上げることなのですが、それはヴァイセンからの物資の輸送を飛躍的に向上させて経済を活性化させるとともに、軍隊の派遣も容易にするある「インフラ」の整備で・・という展開です。

巻の最後半では、騎兵科のナンバー1優等生「ヘルムート」が北部の広大な領土の後継ぎであると同時に「女性」であることが判明します。この前の「労働者デモ」の最前線から女性であるがゆえに外されたことを不満に思うヘルムートだったのですが、バルツァーが彼女に提示したのは、彼女にとって屈辱的な「騎兵不要論」で、彼女はその立証者として駆り出されることになってしまいます、その勝負の末に、バルツァーは貴族出身の跳ねっかえりお嬢様の信頼をかち取ることに成功します。

ついでにいうと、労働者を煽動していた反政府系メディアのリーダーたちは最終話で退治されることになるのですが、この過程で、バルツァーは第二王子と第一王子の幼いころの想い出と国の行く末に関わるある秘密を知らされるとともに、バルツァーの去就に関わるある提案をうけることになるのですが、詳しくは原書で。

Bitly

第4巻 バルツァーとアウグスト王子はヴァイセン参謀総長の罠にはまり、戦争へ巻き込まれる

第4巻の構成は

第16話 偉大な収穫
第17話 立身出世
第18巻 士官の矜持
第19巻 秋の嵐
第20巻 軍国軍人

となっていて、前巻の最後で、第二王子アウグストから、バーゼルランドに軍籍を移し、自分の臣下となれという要請を断り、母国ヴァイセンの参謀総長との会談をセットしたバルツァーだったのですが、会談用にセットされたヴァイセン国内のリゾートホテルで監禁状態になってしまいます。

参謀総長以下相手方のメンバーが国内のトラブルで遅れる、というのが表向きの理由なのですが、実は、第二王子アウグストをヴァイセンと対立するホルベック王国との戦争に引き込もうという参謀総長の陰謀が隠れています。

まんまと罠にはめられたアウグストとバルツァーは、彼らの動員できる士官学校生の部隊を義勇軍として遠征させることを約束させられます。参陣するのは士官学校生5人とアウグスト王子直属の親衛隊200人程度なのですが、同盟国が参陣したという宣伝にうまく利用された、というところですね。

ヴァイセン軍と士官学校生たちが合流するところでは、ヴァイセンの軍備に驚いているのですが、砲兵科のヴィータは、重量が重すぎ、射程が短いことから出来損ない扱いされている連射砲「斉射砲」に夢中になっています。ただ、この出来損ない砲が、ある近代の道具と出会うことによってとんでもない威力をもつ武器として生まれ変わることを、この段階のバルツァーたちはまだ知りません。

そして、参陣してから数日後、アウグスト王子ほかバーゼルランド義勇軍は前線から100㎞後方の村へ布陣するのですが、ここは主戦場から遠く、さらに兵站を担当している基地なので、敵軍はこないものと守備隊は相当緩んでいます。しかし、彼らの緩みを察知したかのように、敵の前線部隊がこの地域に橋頭保を確保しようと上陸してきて・・と突然、戦争の最前線に士官学校生たち義勇軍が立たされることになってしまいます。

Bitly

レビュアーの一言

このシリーズは、19世紀、帝国主義時代のヨーロッパをモデルにした異世界物語なので、現実の国と比定してもしょうがないのですが、地理的な感じから当方が推測するに、ヴァイセン=「プロイセン」、バーゼルランド=「シレジア」、ホルベック=「ポーランド」、エルツライヒ=「オーストリア・ハンガリー帝国」といったところかなと思います。

そうすると、エルツライヒの女帝こと「マリア・ルドヴィカ・フォン・アドラフェストン」は「マリア・テレジア」といったところでしょうか。

こちらの歴史では、シレジアは18世紀にプロイセンとオーストリアに分割併合されているのですが、バルツァーの世界でも同じような歴史をたどってしまうのでしょうか?

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