文芸誌編集者サチコは、新郎に逃げられ、忘却のグルメの迷路に踏み込む=阿部潤「忘却のサチコ」1〜3

旅先で出会って2年間付き合った、3つ年上のイケメン会社員・俊吾との結婚式の披露宴会場から、理由も聞かされずに逃亡された、一流文芸誌の敏腕編集者「佐々木幸子」、通称「鉄の女・サチコ」が、「おいしいもの」を食べていれば、花婿への想いや逃げられたショックが忘れられることに気づき、「忘却の美食道」にはまり込み、私生活や取材旅行などあらゆる機会を利用して、日本国中の「美食」を探求するグルメ漫画シリーズが、この『阿部潤「忘却のサチコ」(ビッグコミックス)』です。

今回はそのうち、主人公の「サチコ」が結婚相手の「俊吾」に結婚式場で逃亡されたショックで「美食」に目覚める第1巻から、それを忘れるために取材旅行に出かけていく第3巻までをご紹介いたします。

あらすじと注目ポイント

第1巻 花婿に逃げられたサチコは「鯖味噌定食」で「忘却の美食の道」に踏み込む

第1巻の収録は

第1歩 開戦のサバ味噌
第2歩 全力!トルコライス(長崎)
第3歩 健さんの出所メシ
第4歩 決戦!わんこそば・前編(盛岡)
第5歩 決戦!わんこそば・後編(盛岡)
第6歩 飯ッション イン ポッシブル・前編
第7歩 飯ッション イン ポッシブル・後編
第8歩 一気喰い!!サンマ塩焼定食

となっていて、第1話目の冒頭で、主人公のサチコが、披露宴の席で花婿・俊吾から理由も聞かされずに逃亡されるところがこのシリーズの始まりです。

しかも、その逃亡の仕方も、見ず知らずの子供に「わび状」をもたせて披露宴会場の新郎新婦席に一人座ったいるサチコに届けさせて、姿をくらますというもので、置き去りになったサチコは気丈にもこの場をおさめるのですが、実は相当ショックを受け、路上で大泣きしてしまうという事態に。

その時に、新郎が逃げた悲しみを忘れさせてくれたのが、下町で偶然入った「竹田食堂」という定食屋の「サバの味噌煮定食」という筋立てです。

おいしいものを食べていれば、逃げた恋人のことも忘れてしまうことがわかったサチコは「美食」に目覚め、仕事の取材中も、プライベートの時も、担当作家に原稿を催促しているときも「美食」を追い求めていくこととなります。

第1巻で彼女が出会う「おいしいもの」は

・サバ味噌定食
・長崎での角煮まんじゅう、トルコライス
・(高倉健さんの網走番外地ものででた)ラーメンとカツ丼
・わんこそば
・(東京に五本の指に入るおにぎり店の)鮭、たらこ、筋子、唐揚げのおにぎりと味噌汁

というラインナップです。

一番の注目は、サチコが「忘却の美食道」に入り込むきっかけとなった「サバの味噌煮定食」。

なんてことはない、定食屋ならたいていの店にあるごくフツーのメニューなのですが、フツーなところが貴いところ。サバの塩焼きと並んで、日本人のソウルフードといっていいですね。本巻内の画像で、その美味さを思い起こしてくださいね。

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第2巻 サチコは新郎に逃げられたショックを讃岐うどんで癒やす

第2巻の収録は

第9歩 愛と悲しみの串カツ・前編(大阪)
第10歩 愛と悲しみの串カツ・中編(大阪)
第11歩 愛と悲しみの串カツ・後編(大阪)
第12歩 がまんがまんの中華粥
第13歩 ロングナイト妄想ディナー・前編
第14歩 ロングナイト妄想ディナー・後編
第15歩 追いかけて!チャーハン
第16歩 巡礼!讃岐うどん・前編(香川)
第17歩 巡礼!讃岐うどん・中編(香川)
第18歩 巡礼!讃岐うどん・後編(香川)

となっていて、まずは担当作家の美酒乱とともに、大阪への取材出張です。

サチコに言い寄るチャンスを虎視眈々と狙う美酒乱先生なのですが、人間感情に疎いサチコは全く気づかず、街角で見かけた、元許嫁の「俊吾」の姿を、通天閣まわりと、彼を見かけたという立呑の串カツ屋の酔っぱらいのおっちゃんの言葉を頼りに場外馬券売り場「WINS」を探し回るのですが・・という展開です。ここで食すのは、もちろん大阪名物の二度漬け禁止の串揚げです。

後半の「巡礼!讃岐うどん」では従姉妹の結婚式で訪れた高松で、未だに癒えない、新郎に逃げられたショックをこらえて、式で祝辞を読みあげるために心を整えようと、うどん屋巡礼を始めます。

製麺所タイプのうどん屋の「かけうどん」「かまたま」、通常タイプの店での「しょうゆうどん」「げそ天うどん」と食べまくります。店名ははっきりとはわからないのですが、香川の人なら、「あっ、モデルはあの店」とピンとくるのではないでしょうか。

このほかの掌篇では、「海鮮中華粥」、立ち食い蕎麦屋で食す「かき揚げそばに半カレー」に「ゲソ」「春菊の天ぷら」「コロッケ」「ハムカツ」のトッピング、「チャーハンの大盛り、スープ、ザーサイ付き」が供されます。

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第3巻 寝台列車「北斗星」のありし日の姿を偲ぼう

第3巻の収録は

第19歩 ごほうビーフ!すきやき(京都)
第20歩 嗚呼!なつかしのあげパン
第21歩 さよなら!北斗星・前編(上野ー札幌)
第22歩 さよなら!北斗星・後編(上野ー札幌)
第23歩 幻の焼きガキ・前編(広島)
第24歩 幻の焼きガキ・後編(広島)
第25歩 さわやか!特別牛乳
第26歩 伝説の職人・銀次の寿司
第27歩 ウェルカム!おもてなし大作戦・前編(飛騨高山)
第28歩 ウェルカム!おもてなし大作戦・後編(飛騨高山)

となっていて、冒頭の「ごほうビーフ!すきやき」は小説家の姫村に同行してもらっての書店営業の終了後に入った老舗の老舗のすき焼きが披露されます。あまりの旨さに肉のお代わりを注文するサチコは、少々顰蹙をかうかもしれません。

中盤の「さよなら!北斗星」は、鉄道ファンに根強い人気をほこった寝台特別急行「北斗星」の定期便の最終運行にサチコが乗り込むお話。北斗星の運行は2015年3月で終了し、8月には臨時運行も終了しています。サチコは担当誌の特集記事のための体験記を書くためにB寝台デュエットの切符を手に入れて乗車し、上野デパ地下の「深川穴子めし」のお弁当にはじまって、食堂車での「洋朝食」を堪能することになります。

次の「幻の焼きガキ」の舞台は当然、広島。宮島の「揚げもみじ」に始まって、臨時に開けてもらったカキ小屋での焼き牡蠣とカキフライとカキ飯のセット。ここは広島の海の幸が彷彿としてきます。

このほか、出張で上京してきた小学校の同級生と食する動物園に出ているキッチンカーの「揚げパン」、遊園地で飲む、全国でも5,6箇所でしか販売していない「特別牛乳」、飛騨高山で大学時代に知り合ったアメリカ人留学生のジョゼと食する「朴葉味噌焼きの定食」と「飛騨牛のハンバーガー」が提供されています。

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レビュアーの一言

主人公のサチコが「美食の途」に踏み込んでしまった理由は別として、シリーズの実態は、文芸誌編集者による「日本全国食べ歩き」なのですが、新型コロナの行動自粛があけて間もない今、コロナ前の日本国民全体が「旅」や「うまいもの巡り」に沸き立っていた時代を振り返るにいいシリーズです。

さらに、寝台列車「北斗星」の乗車レポートなど、時代の一コマを記録する美食漫画にもなってきていますね。

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