街の中で「食料」を生産することの誘惑(ジェニファー・コックラル=キング「シティー・ファーマー」)

 

家庭菜園を作っているからというわけではないのだが、エネルギーの自給の後は食料の自給なのかな、という気がして読んだのが、ジェニファー・コックラル=キング「シティ・ファーマー」(白水社)

 
構成は
 
第1章 見せかけだけの食料品店
第2章 工業化された食品
第3章 工業化された摂食動物
第4章 食糧危機の世界
第5章 新たなフード・ムーブメントと都市農業の台頭
第6章 近代都市農業の起源パリ
第7章 生産する首都ロンドン
第8章 南カリフォルニアとロサンゼルス・二つの農場の物語
第9章 カナダの西海岸・バンクーバー
第10章 トロントのスラム街「キャベッジタウン2.0」
第11章 ミルウォーキーに広がる社会革命
第12章 デトロイト・経済革命に向けた願い
第13章 シカゴの垂直農場
第14章 キューバ・全国規模の都市農業
第15章 結び 都市を緑にして 自給しよう
 
となっていて、家庭菜園のススメというのではなく、都市内でいかに「食料」を生産するか、あるいは生産をしようとしているか、のルポ。
 
こうした都市内での食料生産の動きは今に始まったわけではな
・第一の波が経済恐慌、第2次世大戦当時の食料生産の低下を米国民自らで補った「ビクトリー・ガーデン」
・第二の波が「フードマイル」、スローフードに代表される「地産地消」
という歴史的な歩みがあるようだが、
 
「第三の波」として、都市人口が地方人口を上回りメガシティの時代に突入する中での「食料の調達方法」をいかにするかが現代的課題と認識するのが本書の主題。
 
 
ロンドンで都市封鎖された時、食料の都市内の備蓄は9食(3日)分らしいのだが、こんな時、他から食料はもってくればいいじゃない、と答えていたのが数年前の都市住民。しかし、燃料も電気も途絶える中で、そんなことは甘い幻想だったのは、先に東北大震災を始めとした最近の災害の教えるところ。
 
都市化が進む中で、「食料の生産地」はどんどん居住地から遠くなる一方で、その生産地が元気であれば良いのだが、過疎化や高齢化で食料生産地である「地方」(都市部に対する「田園」の意で、都会に対する地方の意ではないよ)が細る中、メガシティでの食料確保をどうするかという点で、都市内での自給化というのはひとつの解となりうる。
 
そうした文脈で、本書の
 
家庭菜園が借りれなかったことを発端に自宅のスペースを「農園」に変えていく取組で、北向きの270☓180センチメートルの裏庭、下枠つきの6つの窓、正面玄関の前にあるコンクリート製の小さな庭で一般の市民農園の面積で生産できるのと、同量の野菜を自宅で生産することを目指すロンドンの「垂直の農園」(P114)
 
 
小区画での集約的農業、住宅街に残された小区画の土地をパッチワークのようにつなげて、綿密な事業計画を立てることで農業を事業として成功させる手法で、イデオロギー的な運動ではなくフランチャイズのようなビジネスモデルをつくろうとするバンクーバーの「スピン農法」
 
古いビルの活用する「シカゴの垂直農場」での
「アエロポニクス」(土を使わず、養分を含んだ水に根をはらせて育てる空中栽培)
「ハイドロポニクス」(養分を含んだ水中で栽培する水耕栽培)
「アクアポニクス)(魚の養殖と水耕栽培を組み合わせた生産方法)
 
「パーマカルチャー」(自然が作り出す生態的な均衡を模倣することによって、システムを設計する)
と「食べられる森林」「森林農園」(ベリー、ナッツ、マッシュルーム、果物、イモ類、根菜などを生産する)運動
 
などなど、世界各地では、都市内での食料生産を正面から取り上げる動きは、食料生産のあり方の示唆であるのだが、それよりもましてセルフビルドに代表される我々の「自給の誘惑」をくすぐってかなりワクワクする話題ではある。
 
それに比べて、我が国の「農業」へのアプローチは「儲かる農業」「移住定住」といった、「活性化」のベクトルでとらえられることが中心で、「食料を如何に自給するか」の点では、前述の例に比べると世俗の気配が強くて、骨太さが感じられないのが残念ではある。
 
しかし、スローフードの思想が数年ほどして大ブームになったように、
 
“環境への負荷を減らしたいのなら、自分で食料を生産すべき”
 
人々が自給への道を歩み始めれば、都市農業の分野で様々な実権が行われ、革新的な技術も広がって、あらゆる努力が報われる時もくるだろう。
 
かって小規模防火が担っていた役割を、今では都市農業や家庭菜園が引き継ぎつつあるようにも思える(P288)
 
といった本書の「シティ・ファーマー」の思想が流行しないとも限らない。ここは、密かに自宅の庭、ベランダ、出窓の隙間を使って「食料自給」の潜伏活動でも始めましょうか。

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