女性騎兵ヘルムートとマルセルは士官学校を卒業。そして戦争は新たなステージへ=中島三千恒「軍靴のバルツァー」17

19世紀の帝国主義まっさかりの頃、こちらの世界でいうとヨーロッパ大陸の北東部に位置する軍事国家・ヴァイセンの軍人「ベルント・バルツァー」が隣国「バーゼルランド」へ軍事顧問として派遣され、大陸の強国と弱小国の間で繰り広げられる戦争と謀略に巻き込まれながら、士官学校の生徒とともに国際政治の中心に乗り出していくプチ異世界戦争物語『中島三千恒「軍靴のバルツァー」(バンチコミックス)』シリーズの第17弾。

前巻で時代遅れ感に悩む女性騎兵隊長・ヘルムートが、自動車を活用し、機動力を格段にあげた「新・騎兵隊」で、ヴァイセンの超巨大列車砲「ギーゼラ」を粉砕したのですが、今回は、バルツァーがバーゼルランドの士官学校に赴任して教育した生徒も卒業の時も迎え、戦いも新たな局面に入っていきます。

あらすじと注目ポイント

第17巻の構成は

第99話 2年の変化
第100話 見据える未来
第101話 憂国のリープクネヒト
第102話 憂国のリープクネヒト②
第103話 実験結果

となっていて、冒頭ではマルセルやヘルムートほかのバーゼルランド士官学校の卒業式の場面から始まります。この期の生徒は、士官学校での座学というよりヴァイセンや内戦によって鍛えられたといっていいのですが、それを象徴するように、この日も士官学校近くのヴァイセンの陣地からの砲撃が始まるという卒業式です。

ここのヴァイセン軍の指揮をとるのは、敵将であるバルツァーを尊敬しているダルムバッハ少佐で、戦績も重なり軍人らしい面構えになっているのですが、長引く戦役で兵士の厭戦気分は隠しようもない感じになってきています。それは、物資の横領、特に兵器の横流しという形で現れていて、その兵器は国内の反対派のもとへ流れ、都市テロ活動に使われているようです。

そのテロ活動の主体はヴァイセン国内の反戦派でも掴んでいなくて、正体をつきとめるため、モレイユ炭鉱近くの地下倉庫にユーリが潜入します。このテロ集団を率いているのはおそらく国軍あがりの退役軍人か、筋金入りの反政府活動家だろうと推測されるところなのですが、彼が出会ったのは意外にも若い女性「アリーゼ」で・・という筋立てです。

そして、彼女の口から語られたのは、かつてリープクネヒトが入り込み、反会社組織を立ち上げた炭鉱の労働者集団が母体となり、それが現在では巨大な地下組織にまで大きくなったという驚愕の事実です。

さらに、彼女たちが目指す「ヴァイセンの解体」活動に参加するよう迫り、拒絶するユーリの前に現れたのは、参謀総長暗殺未遂で指名手配され逃亡していた、かつてのヴァイセンの士官学校の同級生「ティモ・バウマン」で・・という展開です。

レビュアーのおまけ

今巻の中盤ではバルツァーたちの要塞に配備される新兵器として、機関銃の「ホッチキスMle1907」が登場していて、この兵器の配備によって戦争が次のステージに上がってしまうとリープクネヒトが警鐘をならしています。

「ホッチキスMle1907」というのは調べてみても該当する兵器がなく、おそらくはフランスの兵器メーカー・オチキス社の開発した「「ホッチキスMle1914」であろうと思われます。この機関銃はそれまで手動による操作が主流であったものを空冷式の銃身と発射ガスの圧力を利用したガス圧式の作動方式を採用したもので、フランス軍をはじめとして、アメリカ、イギリス、日本、ロシアなどの配備兵器となっていってます。

本書ではマルセルの率いる歩兵大隊をはじめとする歩兵部隊と、ヘルムート率いる自動車部隊に配備されるのですが、その機動力と破壊力はおそらく敵のヴァイセン軍を恐れさせるに違いありません。ただ、時間が経過すればヴァイセン軍も配備を始めるはずで、ここから戦争は次のステージに上がってしまうのはリープクネヒトの予言どおりかもしれません。

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