音楽隊志望の声楽家刑事が時を超えた連続殺人の謎を解く=佐藤青南「連弾」

過去に音楽コンクールの声楽部門で優勝し、プロの音楽家になる才能を見込まれながら、オーケストラではなく警察音楽隊に採用されたにもかかわらず、その観察力の鋭さで刑事部門から脱出できない、女性音楽家警官「鳴海桜子」の活躍を描く、警察ミステリーの第1弾が本書『佐藤青南「連弾」(中公文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

物語は世田谷区深沢の高級住宅街の公園に男性の遺体が放置されていたという事件の捜査に、警視庁捜査一課の「音喜多弦」と、世田谷に管轄をもつ玉堤署刑事課の女性刑事「鳴海桜子」が、男が死亡した日に訪れたらしい渋谷の音楽ホールに聞き込みにやってくるところから始まります。

本編の主人公となる「鳴海桜子」は、職質の能力がすごく、玉堤署削刑事課のエースと言う評判なのですが、小柄で童顔の持ち主で、相貌認知障害もあり、人の顔が覚えられないという欠点もあるため、とてもそんな凄腕刑事には見えない、という設定です。

さらに、これは音楽ホールの聞き込み内に判明するのですが、音大時代に学生コンクールの声楽部門で入賞し、プロの声楽家になる道も開けていたのですが、どういうわけか警視音楽隊で警察組織に入ったものの、音楽隊には未だ配属されていない、という異色の経歴の持ち主です。で、この音喜多と鳴海のコンビがこのシリーズの主役となるわけですね。経歴の異色さと同様、「天然」の度合いが強い鳴海と常識人の音喜多の対比が特徴となっています。

で、事件が起きた当時、そのホールでは篁奏という最近売り出し中の作曲家の演奏会が開催されていたのですが、演奏会で殺された男の隣の席に座っていた女性から「偉くなったもんやな」という悪態をつくと席を立ち、その後、バックステージに立ち寄っていたことが判明します。係員が声をかけると、篁が個人的に発行したゲストパスを持っていた、ということも。篁に聞くとのそのパスは「キタダ・ヤヨイ」という女性に出したもので、その男のことは知らない、と言い張ります。しかし、その「キタダ・ヤヨイ」という女性の行方も正体も全く明らかにならず・・という筋立てです。

このあと、物語は35年前の長崎県島原市のシーンへと移り、そこでは地元のはぶりのいい工務店の娘「北田弥生」という小学生の女の子が登場します。さらに、常習的に嘘をつくことから、本名の「中村」をもじって「ウソ村」と呼ばれている同級生も登場します。この35年前の島原の物語が挿話的にあちこちに挟まり、全体の物語が進行していきます。

島原の話のほうも、飲んだくれで妻の失踪後、息子にひどいDVをしている「中村」の父を、中村と弥生が殺害する展開の話となっていて相当緊迫した物語が並行して進んでいきます。

そして、目黒駅前のインターネットカフェを殺された男が利用していたことがわかり、その店に遺されていた男のの持つからでてきた大坂発の高速バスのチケットを頼りに、大坂の西成地区へと音喜多と鳴海は捜査の範囲を広げるのですが、そこで、判明したその男・庄野は、娘宛の「父さんは人を殺しました」という書置きを残して失踪していること、さらに庄野の妻から聞いた廃工場跡で、過去に森下という名の歯科医が殺され、その手口が今回の庄野殺しの手口と似ていること、さらに森下の妻の名前が「弥生」で旧姓が「北田」であることがわかります。

森下の妻は、夫の死の十数年後、息子がバイクに轢かれて死亡したことを悲観して自殺しているのですが、そこに「篁奏」とのつながりが隠れていそうな気がする鳴海たちは独自調査を始めて・・という展開です。

島原市での過去の「ウソ村」と「北田弥生」の話と「森下歯科医師殺人」、そして今回の「庄野殺し」が結びついた時、あるストーカーと彼の復讐の企みが明らかになるのですが、その詳細は原署のほうで。

ちなみに「連弾」とは、1台の鍵盤楽器を複数人で演奏することで、通常は1台のピアノを2人で演奏することをいうのですが、この表題にも謎解きのヒントが隠されているようです。

レビュアーの一言

本編の主人公の「鳴海桜子」は警視庁音楽隊採用にもかかわらず、刑事課へ配属になっているという設定なのですが、警視庁や大阪府警のHPで見る限り、一般の警察官採用試験とは別に音楽隊隊員専用の別枠試験のようなものは見当たりませんでした。

いずれの警察も、まずは警察官の採用試験に合格した後、交番や警察署の勤務をして、その後適性をみて音楽隊に配属されるという異動コースのようです。

ただ、鳴海の音楽コンクールの受賞歴や、第2弾で明らかになるのですが、有名音楽家の子弟であることなどを考えると優先的に配属されてもおかしくないところですね。これには、彼女の職質の才能や刑事としての適性以外に何か秘密があるようですが、今のところはっきりしていませんね。少しネタばれすると、第2弾では、音楽隊の隊長が彼女の異動をリクエストしたようですが本人の意向で叶わなかった、という発言があるので、ひょっとすると、「音楽隊志望」といっている鳴海本人に秘密があるのかもしれません。

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