キャサリン・ハワードは妃の座を手に入れるが、姦通がバレ処刑される=こざき亜衣「セシルの女王」5

イギリスが強国スペインを破り、世界を股にかけた超大国として名乗りをあげはじめたのが「エリザベス1世」の時代。実は、カトリックとプロテスタントが血を血で洗う抗争の時代でもありました。この世界史上最も有名なイギリスの「王」といっていいエリザベス女王から信頼の厚い、忠実な臣下として仕えた「ウィリアム・セシル」が、一介の郷紳(ジェントリー)の身分からイギリス政界を動かす重臣へと成り上がっていく物語「こざき亜衣「セシルの女王」(ビッグコミックス)」の第4弾です。

前巻で、新たに国王ヘンリー8世の愛人となった「キャサリン・ハワード」の伯父で、保守派の貴族「トマス・ハワード」の陰謀によって糾弾され、今まで権力を誇ってきたクロムウェルが失脚したのですが、今巻ではクロムウェル亡き後、再び権力闘争が始まります。

あらすじと注目ポイント

第5巻の構成は

第32話 愛の芽生え
第33話 王妃の密談
第34話 ある政治家の死
第35話 二人の男
第36話 北部巡幸
第37話 姉姫と妹姫
第38話 17歳の母
第39話 悲運のカード
第40話 ある決議案の草稿

となっていて、冒頭では、前巻で、ロレーヌ公国から四番目の妃としてやってきた、アン・オブ・クレーフェ王妃とヘンリー8世との婚姻がうまくいかなかった責任を追及してクロムウェルを失脚させたトマス・ハワードは、ヘンリー8世のお手つきとなった姪の「キャサリン・ハワード」を王妃の座につけようとあれこれと画策を始めます。

ただ、離婚の理由がつくりあげられないのと、国際問題になるおそれが強い(当時、イングランドはまだ弱小国の扱いでしたからなおさら)ため、踏み切れずにいたのですが、本シリーズでは、この問題はアン王妃の側から解決策が提案されます。

なんと、アン王妃は、人嫌いの上、男性との性交渉をもつのが嫌で、それから逃れるため、所領と城、年金を条件にキャサリンに王妃の座を譲るというのです。Wikipediaあたりでは、この王妃交代劇はヘンリー8世が大陸のプロテスタントの諸侯との同盟を解消し、カトリックの神聖ローマ帝国のカール5世との和解を図るためという政治的な色合いが強かったようです。そのせいか、後にキャサリン妃が処刑された後、彼女を王妃に再選出する動きもあったようです。

さらに、このアン王妃とキャサリンとの密議には、偶然、エリザベスが立ちあっていて、この事件でエリザベスがなにか決心するものができたようです。ここは中盤での、弟のエドワードが高熱を出して生死が危ぶまれた時、姉のメアリとの和解と反発の場面をセットで考えておく必要がありそうですね。

ちなみにこのしばらく後、クロムウェルが処刑され、彼の政治理想は雲散霧消してしまうわけですが、この遺志を継ぐため、セシルはエリザベスと手を組みたいと提案するのですが。エリザベスの回答は・・という展開です。

少しネタバレしておくと、エリザベスの即位後は、手を取り合って、イギリスを大強国にしていくわけですが、この段階ではまだそこまで信頼関係は構築できていないようですね。

後半部分では、王妃の座を獲得したキャサリンが転落している様子が描かれます。
彼女は名門ハワード一族の出身なのですが、実家は貧しく、キャサリンは遠縁のノーフォーク公爵夫人・アグネスのところへ預けられます。彼女はキャサリンと同じように行き場のない貴族の娘たちを何人も養育していたのですが、夫人の目が行き届かないのをいいことに、少女たちは恋人を連れ込む生活で、キャサリンもこの時期に、後に彼女が王妃を廃され、処刑される原因となる「トマス・カルペパー」との関係ができた、と言われています。

このカルペパーとの姦通を両者は否定しているのですが、アン・ブーリンの姦通事件とは違い、事実であったろうとされているのですが、これがバレたのは、カトリックであったキャサリンへのプロテスタントの王臣の密告であったようですが、キャサリンに男子ができると、その権力の座があやうくなるエイドワワード王太子の後見であるハートフォード伯爵・エドワード・シーモアが背後にいそうな気がしますね。

レビュアーの一言

キャサリン王妃は、ロンドン塔へ幽閉される前に、ヘンリー8世に自ら無実を訴えようと、ミサ中の国王の部屋へ泣きながら走り込もうとしたのですが、数メートル前で衛兵によって阻止されたそうです。
そして処刑後、その時の衣装で廊下を走る姿が目撃されるそうで、イギリス有数のゴースト・ストーリーの一つとなっているそうです。

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