アントワネットの開く競馬大会や舞踏会の陰で、ベルタンは商売繁盛=「ローズ・ベルタン 傾国の仕立て屋」9

フランス革命期に、ルイ16世の王妃・マリーアントワネットのモード商を務め、40年間にわたってフランス宮廷、すなわちフランスのファッションをリードした平民出身の女性ファッションデザイナーの元祖「ローズ・ベルタン」の成り上がり物語を描く『磯見仁月「ローズ・ベルタン 傾国の仕立て屋」』シリーズの第9弾。

前巻で、後にフランス革命でマリー・アントワネットが民衆に恨まれ、処刑されるきっかけをつくった贅沢好きの女性「ポリニャック夫人」が宮廷に入り込み、アントワネットのお気に入りになるとともに、ベルタンと鞘当てを演じたわけですが、今巻では、その寵愛ぶりもひどくなっていく一方、ベルタンは商売繁盛のための新たな企みを始めます。

あらすじと注目ポイント

第9巻の構成は

第41針目 競馬大会
第42針目 プチ・キャビネ
第43針目 カドリーユ
第44針目 ローブ・ア・ラ・シルカシエンヌ
第45針目 メイユーラミ

となっていて、冒頭は、アントワネットがゲメネ公妃のすすめでフランス初めてとなる「競馬」を開催するところから始まります。

もともと、乗馬好きであったことに加え、新しい娯楽には目のなかったアントワネットなので、早速とびついたわけなのですが、夫のルイ16世のほうは最初はほとんど興味がなかったようです。もともと、競馬は12世紀以来、イギリスが本場で、フランスとイギリスの中が悪かったことは、これより少し前の戦争で多くの植民地をイギリスに奪われたこともあって、イギリス由来のものには関わりたくなかったのかもしれませんね。

ただまあ、王妃肝入りのイベントとなれば、貴族たちも眼の色が変わるわけで、さらに集まる多くの人々の間に出るとなると、当時のファッションリーダーであったマリー・アントワネットも最新のファッションで出たくなるわけで、この二つ大マーケットを相手にして、またベルタンの一儲けが始まるわけですね。

本書では、「ポーランド風(ローブ・ア・ラ・ポロネーズ)」のドレスに加えて、「イギリス風(ローブ・ア・ラングレーズ)」の新デザインも土壇場で追加して、競馬大会の大盛況の陰でしっかりと商売をしています。

ただ、この大会の数週間後、かつてモード商の座をベルタンが奪い取った「フィリドール」が訪問してきて、財務総監・テュルゴーの新財政政策の情報をもってきます。それは、当時のフランスの経済界を牛耳っていた同業組合(ギルド)の解体を目論むもので・・という筋立てです。テュルゴーは自由主義経済の立場から、穀物の独占販売の禁止や府ギルド廃止に乗り出していくのですが、既存勢力の反対や小麦不作による人心不安などで失敗してしまいます。ギルドが正式に廃止されるのは、フランス革命時の国民議会を待たないといけませんね。

中盤からは、アントワネットの宮廷を離れ、恋人とともにパリへ引っ越してしまったポリニャック夫人を呼び戻すため。アントワネットが、大「仮面舞踏会」を開催し、ここでも、ベルタンの新デザインが発表され、まさに「大儲け」といった感じですね。

一方で、この舞踏会がアントワネットの宮廷を陰から支配していた「ゲメネ公妃」の凋落を決定的にしたようで、ここからポリニャック夫人の専横が一段と目立ってくることとなります。

レビュアーの一言

今巻の中盤で、実はフランス革命の勃発に大きな影響を及ぼしたと考えている、アメリカの独立戦争へフランスの介入を求めるアメリカの使者サライス・ディーンが訪れています。彼は1776年の初めごろからフランスを訪れ、アメリカ向けの武器や弾薬の船荷の安全確保や、フランスからの財政支援をとりつけ、彼の不注意さと詰めの甘さから行き違いも大きく出たのですが、おおむね、アメリカの独立戦争へのフランスの支援を確保しています。

フランスにしてみれば、七年戦争の講和条約であるパリ条約でカナダをイギリスに奪われた鬱憤を、アメリカによって晴らしてもらった格好なのですが、この軍費の経済支援を捻出するための借款に苦しむこととなり、これもフランス革命の遠因ともなっています。

この時期、アントワネットは恋愛遊戯や舞踏会を楽しみ、ベルタンは商売繁盛であったのですが、すでに「フランス王国滅亡」の時限爆弾は発動していたわけですね

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