私婚問題を逆手にとって、家康は三成を政権追放=宮下英樹「大乱 関ケ原」2

豊臣秀吉亡き後、秀吉の後継者・秀頼と豊臣政権を守ろうとした石田三成と、天下の覇権を我が物にしようと企む、戦国の雄・徳川家康は、豊臣恩顧の大名や秀吉に臣従させられた大名を巻き込んで、日本を二分した大乱「関ケ原の戦」を、戦国マンガの第一人者・宮下英樹が新解釈した「大乱 関ケ原(SPコミックス)」シリーズの第2巻。

前巻では、太閤秀吉の死後、天下の采配を任された五大老・五奉行の筆頭としてと役割をいいことに、実権を一手に握ろうと、禁じられていた他家との婚姻をすすめたことを、石田三成を筆頭とする五奉行衆や、家康の台頭を快く思っていない、毛利や上杉に咎められ、一手誤ると権力の座から転落が待っている家康の大逆転劇が始まります。

あらすじと注目ポイント

第2巻の収録は

第7話 私婚炎上
第8巻 暗躍
第9巻 七将襲撃事件
第10巻 訴訟
第11巻 沙汰
第12巻 掌握

の六話。

冒頭では、前巻の後半に続いて、伊達家との婚姻を勧めたことを、家康以外の四大老五奉行に糾弾され、糾問の兵をあげられた家康は、必死にその責をかわそうと苦心しています。島津家や伊達家への接近など秀吉死後は好き勝手に政権を掌握できると思っていた家康だったのですが、思いの外、石田三成、毛利、上杉や前田利家反発が強いことに驚いているようです。

ここで、家康が「狸」とも「腹黒い」ともいわれる所以になったと思えるのですが、腸の煮えくりかえるのを腹の中におさめて、糾問使の安国寺恵瓊の前に頭をさげ、数月後の隠居を申し出ます。

この時、安国寺恵瓊は家康の真意を見抜いて

八月になっても内府殿が隠居していなければ
拙僧の首はつながっておらぬやもしれぬ

と言っています。一月に堀尾忠晴ほかの三中老が問罪使としてやってきたときには、彼らを怒って追い返しているので、ここらで家康反対派の勢力が侮れないものになっているのを再認識し、ひとまず隠忍自重することにした、ということなのでしょうね。

ただ、家康の反省が本心からのものであるはずもなく(このあたり当方の偏見が入っているかもしれませんが)、徳川陣営は密かに前だ利家との和解を進め、利家の余命がいくばくもないと見た加藤清正をはじめとする石田三成反対派が徳川方へ擦り寄りを始めてきます。

このあたり、秀吉亡き後の豊臣政権内の政権対立の根本原因が、秀吉の信長の国際戦略の粗悪コピーともいえる「朝鮮の役」であることがわかりますね。

中盤からは、前田利家の死去を境として、流れが徳川家康側に傾き始めます。加藤清正たち武断派の突出を受けて、前田家の跡継ぎ・前田利長、五奉行の一人・増田長盛など、版家康勢力であった武将たちが密かに家康派に寝返り始めます。

石田三成は頼みとする、反家康派の重鎮・毛利輝元も日和見を始めるています。ここらには、毛利家の安国寺恵瓊vs吉川という内部情勢も絡んでいるようで、一枚岩の徳川家とは違って、どこもお家騒動のネタを抱えていることが家康の勢力拡大を利しているようです。

さらに、養父・上杉謙信の薫陶を受け、もともと人付き合いを好まず、政権内の権力闘争に嫌気をさした上杉景勝は会津へ帰国し、と三成派は実質的に解体されていきます。

さて、ここから三成がどう劣勢を挽回していくのか、というのは次巻以降の展開となるようです。

レビュアーの一言

「どうする家康」では、亡き愛妻「瀬名」の願った戦乱なき世をつくるため、争いを起こそうとする勢力をなだめこもうとする家康なのですが、本シリーズでは、天下を狙う意志を家臣たちには隠そうともしない一方で、政権内の武将たちには良い顔と恫喝する顔を時宜に応じて見せるという「腹黒い」面を見せる「狸親父」の姿をきっちりと見せてくれてくれるのが良いところですね。

ただ、その打つ手が全て会心の一手というわけではなく、あちこちに穴が空いていて、そこを本多正信にたしなめながら埋めていく家康が描かれているのが、このシリーズの人の悪いところでもあります。

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