不完全に終わった真珠湾攻撃を反省し、櫂はミッドウェー攻撃を再提案=三田紀房「アルキメデスの大戦」35~36

第二次世界大戦へと進んでいく日本の運命を変えるため、その象徴となる「戦艦大和建造」の運命を変えようと、海軍に入り、内部から太平洋戦争をとめようとする天才数学者の姿を描いたシリーズ『三田紀房「アルキメデスの大戦」(ヤングマガジンコミックス)』シリーズの第35弾~第36弾。

前巻で、アメリカの裏をかいて真珠湾の奇襲攻撃に成功し、湾内に停泊している駆逐艦、巡洋艦など多くのアメリカ艦船と飛行場を破壊した、日本連合艦隊だったのですが、本国の思わぬ計画変更や、戦艦大和の温存という作戦で、当初考えていた、その後の真珠湾上陸の足掛かりとなる航空攻撃や砲撃が不完全となり、アメリカ海軍の空母をほぼ無傷のまま残し、不完全なまま帰投し、櫂としては不本意な戦端が開かれます。

あらすじと注目ポイント

第35巻 櫂の考えた「真珠湾攻撃」は不完全に終わり、早期講和は望み薄

第35巻の構成は

第339話 星に誓う
第340話 「大和」合流
第341話 帰投せよ
第342話 抗い続ける
第343話 不安と恐怖
第345話 提灯行列
第346話 幸運の女神
第347話 桶狭間
第348話 美しいままで

となっていて、櫂の乗艦する「赤城」を含む連合艦隊の真珠湾攻撃部隊が、2次攻撃を断念して、真珠湾から離れ始めている時、日本国内では、東条英機首相や嶋田海軍大臣、東郷茂徳府外務大臣など対外戦略を担当する首脳が集まり、戦時体制の徹底化を協議しています。

この中で、櫂が企画したハワイ攻略作戦で最後の詰めともいうべきだったオアフ島上陸作戦が、東條率いる陸軍がインドシナへその兵力の主力を向けることと決定したためとわかります。

この時点で、日本軍全体をまとめる「作戦」というものがなく、陸軍・海軍それぞれ勝手な勢力伸長策であることや、戦争を始めたものの、その後の見通しもいいかげんなことに驚きます。ただ、島田海軍大将も東条英機陸軍大将も「勝つ自信」だけはあるようですね。

一方、帰投命令を受けた攻撃隊とともに、トラック諸島へ帰還していた櫂は、その港に何事もないように停泊している「大和」を見て驚いています。さたに、攻撃隊の帰還報告を前に、大和を含む戦艦部隊が合流しなかった理由もなく、祝宴を拓こうとしている山本五十六長官につめよろうとするのですが、そこを黒沼先任参謀に遮られます。黒沼参謀は長官に代わって大和が出撃しなかった理由を説明するのですが、それは・・という展開です。

そして、真珠湾攻撃が不十分なままで終わったことはひとまず置き、櫂は、それを挽回する早期講和に向けた新たな作戦を山本長官に進言します。それは、日本のことをほとんど知らない、という多くのアメリカ人の心理的な恐怖権を煽り立てるもので、それは早期に潜水艦部隊をアメリカ西海岸に展開し、沿岸の都市を砲撃するるともに、潜水艦から出動した小型の水上偵察機によって西海岸の爆撃を行うというものだったのですが、さらにこれも延期され、櫂の計画した、「短期決戦・早期講和」のための戦術は全てが櫂してしまいます。

しかし、なおもめげない「櫂」は、ミッドウェーでアメリカ空母を全滅させる作戦を新たに考え出し、山本長官へと進言するのですが・・という展開です、

第36巻 「櫂」は海軍軍令部所属となり、中からミッドウェー攻撃をしかけることを画策

第36巻の構成は

第349話 軍令部
第350話 神岡重義
第351話 必敗
第352話 勝つためだけに
第353話 暗号書
第354話 世界を掴む手
第355話 ドーリットル空襲
第356話 前提の崩壊
第357話 時すでに遅し
第358話 AF

となっていて、ミッドウェーでアメリカ空母を全滅させる作戦を山本長官に提言したものの、その実現の困難さをしらされた櫂は、自らが軍令部へ異動し、内部から作戦の実現をが図ろうとします。

真珠湾作戦を立案し、自ら最前線でその遂行を見届けた櫂は、「歴戦の英傑」扱いで、さらに軍令部総長は旧知の仲なので、彼の扱いはそても丁重な扱いなのですが、彼が持ち込んできた「ミッドウェー攻撃作戦書」は、部外からきた現実的でないものとして歯牙にもかけられません。軍令部のエリート意識の前に、さすがの櫂も歯が立たない状態ですね。

そこで、櫂は、彼の剣試薬として神岡参謀から付けられている今泉大佐の真意に気づき、かれとともに「ミッドウェー攻撃作戦」の実現と「日本がいかに上手く負けるか」を考えていくこととなります。

しかし、南方作戦の好調さと、軍令部内の頑迷さと縄張り意識に阻まれ、櫂と今泉の動きもなかなか思うようには進みません。そんな時、思ってもみない僥倖が訪れます。アメリカ海軍空母ホーネットから発進した一揆のB-25 爆撃機が、東京上空まで侵入し、爆弾を落とした「ドーリットル空襲」が、国民に恐怖感を呼び起こし、これによっておきた軍部不信と批判を、軍上層部は「ミッドウェー攻撃」によって回避しようとするのですが・・という展開です。

構想から日数が経過し、作戦の旬がすぎていることを感じた櫂は、南方戦線の珊瑚海海戦で、空母・祥鳳、空母・翔鶴が被害を受けた情報をきき、上層部にミッドウェー海戦の中止を訴えるのですが、当然受け入れられるはずもなく・・という展開です。

さらに、この段階で、櫂も知らない状態なのですが、アメリカ海軍は、日本軍の超重要な作戦情報をすでに入手していて、次巻以降、さらに悲劇的な事態が待っている予感がしますね。

レビュアーの一言

第35巻の中盤では、「櫂」が海軍入りをしたきっかけとなった尾崎造船の元社長令嬢であった「尾崎鏡子(現在は渡辺鏡子)」の夫で興洋銀行の副頭取「渡辺春彦」が、社員の沼田という人物の戦争が来年中頃に日本大勝利で終わるので、それを見越して「商船」に投資したほうがいいというアドバイスにのっかっています。

開戦前は世界第三位の商船船舶を誇り、まさに海運強大国の一員であったので、戦況が日本優位のもとに終結していればこの投資で莫大な利益があがったのかもしれませんが、結果として、戦争中にその88%がアメリカの潜水艦や中国の爆撃機などに撃沈されています。さらに、35巻では、中国系海運会社所有の船舶を買うという二重に怪しい噺ですね。

「櫂」に冷たくされたため、暴行の濡れ衣を着せた「鏡子」は、その後、父の急死と実家の尾崎造船の倒産という悲哀に見舞われているのですが、ふたたび何か不幸が訪れそうな予感がします。

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