櫂の努力もむなしく、ついにハワイ攻撃艦隊出航。太平洋戦争前夜へ。=「アルキメデスの大戦」31~32

第二次世界大戦へと進んでいく日本の運命を変えるため、その象徴となる「戦艦大和建造」の運命を変えようと、海軍に入り、内部から太平洋戦争をとめようとする天才数学者の姿を描いたシリーズ『三田紀房「アルキメデスの大戦」』シリーズの第31弾~第32弾。

前巻では、戦闘機の防御機能を高めようと、山本長官ほかの海軍の高官に対して執拗な説得を繰り返したため、とうとう山本長官から疎んじられはじめ、そのおかげに彼が外務省から入手した独ソ戦の最新情報が握りつぶされる一方、アメリカと日本の関係は悪化の一途と辿っていたのですが、今回はとうとう日米開戦まで事態が進んでいきます。

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あらすじと注目ポイント

第31巻 櫂は戦争回避を諦め、犠牲と損害の最小化へ目標変更

第31巻の構成は

第299話 興奮
第300話 宿命
第301話 訓練の先
第302話 エレファント
第303話 東條内閣樹立
第304話 東條の孤独
第305話 再会
第306話 国民感情
第307話 悪魔の囁き
第308話 出撃

となっていて、冒頭は前巻の最後でウェルズ国務次官から石油禁輸のブラフをかまされて日本側が動揺していることについて話し合うホワイトハウス内部から始まります。以前は和平交渉を模索していたルーズベルト大統領だったのですが、この時点では「戦争もやむなし」という立場に変わっています。さらに、ここで「石油輸出禁止」を通告してきたことから、日本海軍内は「反米」一色となっていってます。これはすでに群集心理に近い状態なので、冷静な「櫂」は打つ手がない状況です。ここから、櫂は戦争回避を諦め、犠牲と損害を最小限におさえた短期決着を目指していくこととなります。

しかし、櫂の思いとは裏腹に、国民の間ではアメリカとの戦争ムードは高まっていく一方です。これにあわせるかのように、櫂の仇敵である「東條英機」が首相に就任し、日本のかじ取りをすることになるのですが、東條は自らが開戦の引き金を引くことに躊躇しているのが意外です。この開戦には多くの国民の生命と日本の浮沈がかかっているわけで、その重圧は計り知れないものがあったであろうことが想像できますね。

しかし、東條の苦悩をよそに事態はたんたんと進み、海軍の機動部隊は佐伯湾と別府湾を出港し、北方の択捉島を目指します。いよいよ真珠湾作戦のはじまりですね。

アメリカと日本双方が意図せずして、互いに戦争への道をひた走っていく様子は原書のほうで。

第32巻 「大和を守れ、平山造船中将、海軍内をあがく。

第32巻の構成は

第309話 パンドラの匣
第310話 洋上の夜
第311話 ニイタカヤマノボレ
第312話 開戦
第313話 たらい回し
第314話 史上最大の作戦
第315話 責任転嫁
第316話 宿題
第317話 ルーズベルトの直感
第318話 パブリック・エネミー

となっていて、いよいよ海軍の航空母艦6隻をはじめとする起動部隊はハワイ・オアフ島を目指して進んでいるのですが、後続とじて戦艦大和を旗艦とする戦艦部隊が出航していることが櫂が乗船している航空母艦「赤城」船内の作戦会議室で披歴されます。櫂の作戦は航空母艦から発艦した爆撃機がオアフ島内の後宮基地と要塞砲を爆撃し破壊、その後、爆撃機は湾内の敵艦を爆撃し、専用機舞台は敵機と航空基地の機銃攻撃をしかけ敵の動きを封じた後、戦艦大和を中心とする戦艦部隊が港湾軍事施設を徹底的に砲撃し無力化。その後、オアフ島上陸とハワイ諸島の占領へと展開させるつもりなのですが、「戦艦大和」が重要なカギを握っていることがわかります。

そして、アメリカが日本軍の攻撃作戦を察知しながらも、万国共通の組織の病理が災いして、有効な対抗手段がとられず、アメリカ海軍の太平洋艦隊は日本の空母は日本近海にいて南方への侵出を計画しているという誤った方法で動いている中、ついに攻撃開始命令が下ります。

機動部隊も順調に航海を進め、戦艦大和には山本長官自らが乗船し、軍艦部隊の指揮をとり万全の攻撃態勢が整いつつある中、意外な妨害が動き始めます。

日本で戦艦大和が旗艦となってハワイの砲撃の先頭に立つことを知った平山造船少将が、大和の出撃を中止させるため、海軍内をかき回し始めます。平山は要塞砲との打ち合いになれば射程距離で大和が不利なことは明白で、撃ち負けることは必至。大和は艦隊決戦以外につかうべきではない、という主張ですね。

すでに発動している作戦ですので、作戦に全く関係のない平山造船中将のあがきが通用するはずはないのですが、海軍省内の事なかれ主義のせいか、海軍大臣のところまでこの話があがってしまうのが、すでに組織の異常さを示しているのかもしれません。

さらに、中国大陸の6個師団のハワイへの輸送をめぐって、東條総理大臣と、嶋田海軍大臣が、日本軍お家芸の陸軍と海軍の大げんかをはじめてしまいます。

なんか、様々な問題と波乱を秘めた開戦前夜なのですが、その詳細は原書のほうで。

レビュアーの一言

真珠湾攻撃には、史実では母「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」「瑞鶴」「翔鶴」、戦艦「比叡」「霧島」、巡洋艦「利根」「筑摩」「阿武隈」などを主力としていて、「戦艦大和」はこれに加わっていません。この年の8月に進水式を終えた大和は試運転を行っている最中だった、というネット情報はあるのですが、真相はもう少し調べてみたいと思います。

もともと大和は、建造計画当時、アメリカの戦艦が設計上の制約から16インチ砲までしか積載できないという欠点をついて、それを上回る18インチ砲を積載できる設計となっていて、戦艦としての破壊力はアメリカ艦をはるかに上回る能力を有していました。建造計画当時は世界的に「巨艦巨砲主義」の全盛期で、大和だけが「時代錯誤」というわけではなかったようですね。

ただ「大和」にとって不幸だったのは、空母の艦載機による戦闘が主力となってきて、大和の持ち味ともいえる「艦隊決戦」がそもそも行われなくなったというところのようです。この意味で平山造船中将の「思い」はすでに古くなりつつあったということなんでしょうね。

ただ、日本海軍が大敗したミッドウェー海戦でも後方の主力部隊ではなく、空母などの機動部隊と行動していれば戦況を変えられたのでは、と言う話や、太平洋戦争中、最も悲惨な敗戦の一つといわれたがダルカナルの戦では、トラック諸島に停めたままで「大和ホテル」と陰口をたてられたのですが、初期のヘンダーソン基地攻撃の時から戦闘に加わり、18インチ砲による艦砲射撃を咥えていればアメリカ軍の反撃も抑えられたのでは、といった話もあります。

要は「大和」運用上の「失敗」があったのかもしれません。このシリーズの平山造船中将の言動に透けて見える「大和、可愛さ。大和を失うな」という思いが海軍内の多くの幹部の心の底にあったのかもしれませんね。

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