秦国の邯鄲攻撃は頓挫。そして、王齕と白起の死で時代が変わるー王欣太「達人伝」20・21

二百年続いた中国戦国時代の晩期。西方の強国・秦が周辺諸国に強大な力を背景に強圧をかけつつあるが、他の五国にまだ、秦の強権的なやり方に反抗する力の残っていた時代に、荘子の孫「荘丹」、伝説の料理人・包丁の甥「丁烹」、周の貴族出身ながらある事情でそれを捨てた「無名」び三人の男が、「法律」と「統制」で民衆を縛る秦の中原統一の野望に抵抗する姿を描く『王欣太「達人伝ー9万里を風に乗りー」(アクションコミックス)』シリーズの第20弾から第21弾。

前巻で李談たち三千決死隊によって盛り返した趙軍の中に、単騎で乗り込んできた王齕と趙軍の廉頗、李談との戦いと、秦の邯鄲攻撃の決着がつくのがこの巻です、
さらに、圧倒的な能力を有しながら、故国・秦から死を賜った白起の前半生が描かれます。

構成と注目ポイント

第20巻 王齕、そして李談も斃れる。魏と楚の援軍が着く中、決戦の行方は?

第20巻の構成は

第百十五話 死闘と警告
第百十六話 流氓となり
第百十七話 王齮
第百十八話 撃退の夢
第百十九話 邯鄲炎上
第百二十話 意志の一片まで

となっていて、邯鄲城内に攻め込んできた王齕将軍と趙の勇将・廉頗将軍との一騎打ちから始まります。

秦の軍隊は、その後、呂不韋が実権を握り、軍制改革を進めてからは集団の力を重視する方向へ進むのですが、この時期は、白起、王齕、そして廉頗など有名な武将は自らも武威に優れていることが名将の条件ですので、この対決はまさに「秦」と「趙」の”武”の闘いですね。

そして、王齕は廉頗を追い詰めるのですが、廉頗を討つことが武将としての功績を上げ続けた白起を罷免し、流刑まで行った「秦」を利することを拒んだということで、消極的な「謀反」ですね。

この邯鄲突入で負った傷がもとで、王齕は亡くなるのですが、彼の威名を甥の王齮が継ぐこととなります。彼は王騎将軍として「キングダム」にも登場している武将なのですが、王齕の名を名乗るだけあって、優れた采配を振るうのですが、この時点では実力を温存して兵を撤退させます。王齕将軍の死を秘する目的もあったようですね。

一方、趙の守備軍のほうは、王齕の一撃から奇跡的に助かった李談が傷を負いながらも指揮をとっています。そこにやってきてのが、魏の信陵君と楚の春申君が率いる魏軍8万、楚軍7万の大軍です。

しかし、両国の軍隊に助力により秦軍を圧倒しつつも、決死隊を率いる李談は、秦の司馬梗将軍の攻撃を受けてしまいます。瀕死の重症を負って斃れてしまった李談なのですが、祖国の窮地を救うため、なおも立ち上がり・・・といった展開です。

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第21巻 白起はその「強硬策」を理解されず、死を賜る

第21巻の構成は

第百二十一話 三君の招請
第百二十二話 命の戦果
第百二十三話 白起伝
第百二十四話 将器形成
第百二十五話 秦一強
第百二十六話 使者

となっていて、魏軍と楚軍の援軍を得て、追い詰められていた趙軍が復活します。

鄭安平将軍の軍隊が退却し、司馬梗将軍の軍隊は、魏の信陵君の攻撃のもとに崩れ去ります。ここで怒涛の勢いでやってきた秦軍の攻撃は頓挫し、趙国を征服し、その勢いで魏、斉を圧倒する予定は頓挫してしまいます。

そして、ここで毛遂が秦国に放っていた密偵から、「白起」が流罪の上、賜死となったとの情報が入ります。白起の行った趙兵40万の生き埋めは、秦の廷臣の反感をかっただけでなく秦王・昭を乗り超えてしまいそうになったのが、賜死の原因なのでしょうが、邯鄲での敗北と白起の死(そして秘されてはいるのですが、王齕の死もありますね)によって、秦の覇業は大きくその歩を止められることになります。

ここで物語は、白起が死を賜った場面へと遷移します。死を前にして、白起の今までが語れれます。それは、今が貧しかったため、少年兵として志願したところ、その武術と用兵の才を発揮し、あっという間に一軍を指揮する将軍へと上りつめていきます。

しかし、母国の覇業を達成するためには、政治的な駆け引きなど必要なく、ただ圧倒的な戦闘での勝利で良いと信ずる彼の「戦」は、敵が全面降伏を申し出てもそれを許容しない「殲滅戦」を志向することになるのですが、そんな彼を待っていたものは・・・という展開です。

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最終的には死を賜ったとはいえ、白起の

という征服戦略は、魏や楚の国都に攻め込み、趙を滅亡の瀬戸際まで追い詰めた秦の昭王の時代の秦の戦略でもありました。これは秦の昭王の時代に秦が国力を一挙に増大させた理由でもあったのですが、一方で、他国の国王だけでなく、上党郡の民衆の反乱など、世間の支持がいま一歩集まらず、秦が中原統一をあと一歩で逃した原因でもあります。
「北風と太陽」の話は、こんなところにもあてはまるのかもしれません。

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