”立ち蕎麦”の名店に見る経営の真髄ー「富士そば」はなぜアルバイトにボーナスを出すのか

東京を中心に130店以上の店舗、海外にも15以上の店舗を抱える「立ち食いそば」界の巨人であるとともに、アルバイトにもボーナスや有給休暇出したり、ユニークな店舗限定のメニューがあったり、と定型化・固定化した飲食チェーンとは一味違う、「名代富士そば」の歴史と店舗運営のキモのところを、社長むずからが解説しているのが本書『丹道夫「「富士そば」は、なぜアルバイトにボーナスを出すのか」(集英社新書)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一章 なぜアルバイトにボーナスを出すのか
第二章 富士そばが誕生するまで
第三章 人を育てるにはどうすれば良いか
第四章 商売のコツとは何か
第五章 経営者の役割とは何か
第六章 富士そばでは、なぜ演歌が流れているのか

となっていて、まず注目しておきたいのは、「富士そばには接客マニュアルも、ほぼありません」というところ。

「富士そば」には接客マニュアルがない

これは社長の

接客業で大事なのはマニユアルに忠実に動けているかどうかではありません。できるかぎり心をこめて、自然に対応しているかどうかです。

といった考えに基づくものようで、このへんが店長たち従業員にアイデアを出してもらってメニュー化していく「新作そば」にも共通しているところでしょう。予約すれば、「自主の尊重」ということで、これがうまく回転している会社は、会社の仕事が「自分ごと」になってくるので強い企業になるのは間違いないですね。もちろん、そこには

もし商売をやるんだったら、利を得る秘訣を覚えておきなさい。まず、絶対に利を独り占めしないこと。そして必ずみんなに分配すること。そうしないと結局、自分には返ってこないからね

という「お母さん」からの忠告が根底にあるそうで、「報酬が少ないと、人間はどうしても力を出し惜しみしてしまうものです」という言葉は、すべての経営にたずさわる者が心しないといけないことですね。

「富士そば」の人材育成とは

そして、このあたりの考えは、人材育成という面でも特徴的で

人間は誰しも野心を持っているものだからです。組織の中にいるより、独立して一旗あげたいと考えるのは当然で、止められるものではありません。
それに、そういう他に夢を持った人たちが、おしなべて仕事を適当にやるかといえば、決してそんなことはありません。自分の理想を追うために生活の基盤を安定させるという確固とした目的がある人間は、真面日に仕事に取り組むものです。

であったり、

賢い、頭が良いと言ったって、人間は大体が同じような身体、同じような土台を持っていて、そう大きな違いがあるはずもありません。ずば抜けて頭が良い人もたまにいますが、それこそ本当に一握りです。
ではどこでつくかといえは、「やるかやらないか」。それに尽きると思います。

という言葉には重みがありますね。さらに、社長が店舗巡回をするときに、一番知りたいのは
「店と店長が噛み合っているか」ということのようで、店の立地による特徴と店長の性格があっているか、を重視しているとのこと。飲食店が繁盛する条件は店の立地や人通りといった物理的条件だけじゃない、ということですね。

経営者の仕事は「社員の意欲を出す」こと

さらに、経営者の仕事とは

「どうしたら従業員の意欲が出て、働きやすくなるかを考えること」これが唯一無二の業務なのではないでしょうか

というところでは、事業拡張や利をだすことに一所懸命になって、従業員を使いつぶす企業人は猛省をしないといけないところです。

このほか、富士そばの店舗に流れている「演歌」にまつわる、ちょっとホロっとさせるエピソードとかも載っていますので、一読してみてはいかがでしょうか。煽り立てる雰囲気の強いビジネス書とはちょっと違った魅力がありますよ。

レビュアーからひと言

飲食店に関する本のブックレビューというのは、その経営拡大やユニークさで世間の注目を集めて、ビジネス書界でもてはやされたはいいが、ブームが去ったり、経営の嘘がでてきたりして、あっという間に凋落することがあって、ある種のリスクがあるのですが、東京近辺に出かけたときにはよくお世話になるのと、以前、新型コロナ禍がまだ起きていない頃、アジア系の中流階級っぽい観光客の人が、楽しそうに来店してそばを食していたのを見かけたことがありました。日本の新たなソウル・フードとも、食文化ともいえる「立ち蕎麦」には、これからも頑張ってほしいですね。

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