「ほぼ日」経営の秘訣をインタビューで丸裸にする ー 糸井重里・川島蓉子「すいません、ほぼ日の経営」(日経BP社)

伝説的なコピーライターであって、現在は作詞、エッセイ、ゲーム制作など多方面で活躍している糸井重里氏に、なうてのインタビュアーである川島蓉子氏が絡んで、”ほぼ日手帳”で有名な「ほぼ日」について、すみずみまで語らせたのが本書である。
もともと、ユニークな視点と語り口の糸井氏と、テンポよく切れ味のいい質問を投げ込んでくる川島氏とのかけあいであるので、面白くないはずがない。

【構成は】

第一章 ほぼ日と事業
第二章 ほぼ日と人
第三章 ほぼ日と組織
第四章 ほぼ日と上場
第五章 ほぼ日と社長

となっていて、ユニークな商品開発やサービスを考え出すことで定評のある「ほぼ日」のアイデアが生まれる源泉となっている組織、社員とともに仕事の進め方について語られるのが、第一章から第三章まで。
第四章は、通常の「会社組織」とは一風変わっている「ほぼ日」がなぜ株式上場したのか、といった表の話と裏話。第五章は、そんな「ほぼ日」を立ち上げから引っ張ってきた「糸井重里」氏の「経営者」観がとりあげられている。

【注目ポイント】

主宰の「糸井重里」の口から語られているので、「ほぼ日」の全貌が肉感的にわかるのが本書なのだが、今回は「組織」「ヒト」「事業」といった「経営面」のユニークさに着眼して、いくつか注目ポイントを紹介しておこう。

まず、「ほぼ日」といえば、その事業がユニークで、しかも、新しい目を惹くアイデアが湧き出てきているような印象があるのだが、「そもそも周囲をまきこめるだけの力があるアイデアは、そんなに多くありません(P16)」と言ってみせるのが、王者の貫禄といったところであろうか。ただ、やはりユニークさを生んでいる「基本」というものはあって、それは

たとえば試験の問題を解くとき、秀才はすぐに解ける問題を片付けて60点くらい確保してから、答えのわからない問題にかかるそうです。
だけど、わからない問題から解いてみたら、あっと驚く答えに行き着く可能性もある。手間がかかって、ほかの問題にかかれなくて、10点しか取れないかもしれませんが。
うちはどちらを選ぶかというと、解けるかどうかわからない40点を大事にしているんです。もっと言えば、誰にも解けない1%の難問に、あえてつっこんでいくことが重要だと考えています。(P25)

というところであるように思える。たいていの会社組織のプランニングというのは、この秀才型を目指しているのがほとんどで、どうかすると、80点ぐらい稼がないと新しいものに取り掛からず、時代が変わって、50点すら危うくなる、ってのがよくあること。

40点の危険性を考えつつも、わからない問題に人的リソースを突っ込んでいくということは、かなり経営陣の度量が必要であるのだが、これをさらっとやっているのが「ほぼ日」の強さの所以であるのだろうな。

そして、これは「働き方」についても同様で、

「ぎゅっとやれ」というと「集中力を高めろ」という話になってしまいます。
多くの会社は「働き方改革」で集中力を高めようという話をしていて、集中力という言葉はまるで魔法のように使われています。ぼくは、「それは違うぞ」と伝えました。
「働き方改革」といっても、額に青筋を立てて、息を止めて集中するような働き方がいいと思ったら間違いです。
この一年、ほぼ日では新しい事業の柱となるようなアイデアがいくつも誕生しました。
それは集中したから出たわけではありません。普段からクリエイティブのクセをつけたい、思いついたことを人に投げかけてキャッチボールをしたりすることからうあmれたわけです。「もっといい感揚げがあるんじゃない?」と繰り返し解い続けることが大事なのであって、それは集中力とは違います。(P93)

と、最近の「働き方改革」で主導的な論理への反論も切り口が鋭い。「働き方改革」というと、労働時間短縮の話と生産性向上の話がほとんどで、それはそれで重要なことではあるのだが、働く人の「感情」のところがなんか手薄で、「キカイ」の性能改良を「ヒト」にあてはめて議論しているようなところが、当方的にはなんともガリッとくるところである。

本書のこのあたりの話は、「働き方改革」をもっと柔らかく、暖かな目線から考えていくヒントになるのではないかな。

さらに、「組織」についても同様で、「組織論」が基本として議論するのが、普通、組織の風通しとか組織間の連携といったあたりや、上司部下の意思疎通の問題であるのだが、

「ほぼ日」を始めるずっと前からほかの会社をいろいろ見てきて、「これはいやだな」と感じることがたくさんありました。
たとえば「上がわからず屋だから俺の考えが通らない」という人がいたとき、ぼくは「本当かな」と思っていたんです。それは「上と言われる人が、本当にいい考えを止めているのかどうか」ということと、「上と言われる人を説得できるだけのことを、下と言われる人は本当に考えたのか」ということです。そして、やはり上下の縦軸にしてはダメで、組織は横に広げるべきだという考えにいたりました。(P176)

と、会社内で、やる気のある社員たちがよく口にしそうな発言にはちょっと辛口で、社員の機嫌をとる様子がないのが妙に清々しいですな。

とはいうものの、じゃあ、横に広げた組織って何ということで、出された結論は

(ほぼ日の組織は)人体模型図のようになっています。肝臓、腎臓、胃といったように

ただ、外部に書類を出すときに。その図をそのまま出すことができないので、さきほどの上長だとか部長といった言葉を入れていますね

(略)

内臓は、それぞれの臓器がお互いに信号を合い。信号を受け取り合うことで全体が動いているそうです。ぼくは臓器のように、それぞれのチームがそれぞれ自律的に動いて関係し合う仕組みが、うちに合っていると思ったんです

(P173)

ということである。

この「人体模型図」的な組織の意味するところの詳細は、原書で確認してくださいな。「ほぼ日」のようなアイデア豊富で、活力のある組織をいかにつくるか、のとてもいいヒントになる気がしています。

【レビュアーから一言】

全編がインタビュー記事で構成されているので、まとまりがないっちゃまとまりがないが、その分、糸井重里氏の肉声が伝わってくるような臨場感がある。
すべての組織に適用できるものばかり、とは思わないが、あちこちのエッセンスを注入してみれば、組織体が元気づいたり、活性化したりする素材があちこちに散りばめられている。組織づくりや職場の活性化に悩んでいる経営層や管理者層のおすすめです。
丸呑みはできませんが、あちこち使えそうなところを削り取って服用ください。よく効くと思います。

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