「水族館」の中に、経営の基本を見つける ー 内田詮三「沖縄美ら海水族館が日本一になった理由」

水族館は、子どもだけでなく、大人の人気も依然として高く、あちこちの公共団体が、地域振興のハードものの「切り札」として出てくるのが、バブルの時の「テーマパーク」に代わって、いまは「水族館」であることが多い。
そんな公営の水族館の中でも、一番の成功例といっていいのが、本書『内田詮三「沖縄美ら海水族館が日本一になった理由」(光文社文庫)』の「沖縄美ら海水族館」であろう。本書は、そんな美ら海水族館の館長の内田詮三氏による、自身の半生記と水族館経営記である。

【構成は】

プロローグー上野の動物園を抜いて入場者日本一に
第1章 ”世界一”と”世界初”の水族館
第2章 水族館と動物園は何は違うのか
第3章 水族館の舞台裏ー水族館を支える人間たち
第4章 ”飼育屋”修行時代
第5章 試行錯誤の日々
第6章 水族館も動物園も”悪行”
エピローグ

となっていて、第1章から第3章が主に水族館の魚の捕獲・飼育を含めた運営や水族館で働く人達に関すること、第4章から第5章が、自身の半生記を中心とした伊豆の水族館、昭島ランド水族館を経て、沖縄美ら海水族館の建設に至るまでの述懐で、いわば「日本の水族館創世記」的なところ。第6章とエピローグが、水族館論とこれからの発展の提案、といった形である。

【注目ポイント】

もともと、水族館の第一人者が書いた「水族館」の本なので、イルカの人工ヒレの作製話であるとか、イルカの訓練をしている中で「訓練を続けていくうちに、神経質なイルカほど慣れてくると図々しくなる」といったエピソードやジンベエザメ飼育の苦労話など、水族館関係も逸話も豊富で、それだけで十分楽しめる。

ただ、残念ながら当方は水族館は観客としての関わりしかないので、「水族館」の運営から、組織運営で注目しておくべきポイントを抽出しすると、まずは、その運営のトップについて。

「日本の水族館が熱意にかける理由」として

現場のことをよく知らない人間が、水族館のトップに就く傾向があることだ。

それが悪いとはいわないが、飼育スタッフが仕事に打ち込める環境をつくり、さらに飼育動物に関する調査や研究に取り組んでいけるように後押しできるかというと、実際にはなかなか難しい。

と、水産生物の門外漢がトップにつくことへは、かなり手厳しい発言。ただ、このあたりは、こうした施設の運営にあたって、現場と管理部門とのコンフリクトでよく見られる話であるし、水族館のトップだけでなく

水族館に獣医師を置くならば、餌の準備や給餌はもちろん掃除もやり、飼育スタッフと同じように働いて、イルカなら調教もやってショーにも参加する、それくらいのことをやってもらいたいと思っている

と獣医師に対しても辛辣であるから、水族館に対する「知識の有無」の問題としてとらえるべきではないように思う。
さらに、専門家が経営もやればいいのかというと、多くの場合、経営が行き詰まって、施設そのものを「おじゃん」にしてしまうのは、専門家による経営によることも多いから、ここは、その分野のシロウト経営者は「現場への想いの強さ」「現場への想像力」が大事ということで捉えておきたい。

また、「水族館や動物園が、適正な飼育を進めていく上で注意すべき点は、飼育動物を擬人化して見たり、自分の気分を飼育動物に投影しないこと」として、

水族館のなかには、海岸の自然の入り江を仕切って、イルカを飼育しているところがある。開放的で、イルカたちも生き生きしているように見えるかもしれない。  だが、実はこうした飼育環境では、イルカの健康管理は非常に難しい。人工的なプールならば、すぐに水を落として血液検査や治療もできるが、自然の入り江ではそう簡単にはいかない。(略)人間が感じる解放感を、そのままイルカに投影することは危険でもある。

としているところには、水族館運営の基礎となる「動物・魚の健康維持」という部分を第一番にもってくることを訴えて、「ロマン」に流れることなく、怜悧に進めることが、経営の基礎であることを教えてくれる。

【レビュアーから一言】

本書は、数多くの水族館エピソードを楽しみながら、組織運営のコツみたいなところをポチポチ拾う、という読み方が一番肩がこらない読み方だろう。
中村元さんの「水族館哲学」「常識はずれの増客術」や「「旭山動物園」革命ー夢を実現した復活プロジェクト」あたりと併せて読むと一挙に「ビジネス」っぽくなってくるので、職場で堂々と読んでもいいかもしれないですね。

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