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「定食」は、ユニバーサル・フードになった ー 今 柊二「定食ツアー 家族で亜細亜」

定食評論家・今柊二氏のおなじみの定食のレポートなのだが、今までの国内各地の「定食」の行脚から、東アジアの国々での「定食」ツアーとなったのが本書『今 柊二「定食ツアー 家族で亜細亜」(亜紀書房)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

ソウルぱくぱく定食ツアー
台湾ほくほく定食ツアー
シンガポールどきどき定食ツアー
バンコクわくわく定食ツアー
香港うまうま定食ツアー
沖縄つれづれ定食ツアー

となっていて、「定食」という日本固有っぽいものが主テーマ(サブ・テーマにインスタントラーメンとか稲荷寿司とか、学食なども点在しているのだ)であるので、やはり、「定食文化」が今までの歴史や交流の具合から染み出しやすい、東アジア中心で、しかも中国本土は除いたところが舞台。

収録は、2007年から2011年にかけての旅行なのだが、日本国内での「定食紀行」と勝手が違うのは、家族旅行を兼用しての定食ツアーであるので、基本的に奥さんと二人の娘さんの筆者の「定食志向」への目線は冷たく、地元らしい料理か、そうでなければロッテリア、マクドナルドといった店への嗜好が強いこと。
ま、たしかに、家族旅行で、明洞の「さぼてん」に入ろうなんて言われたら、それはムッとするよな、と今さんの家族に激しく同意をするともに、それに付き合わざるを得ないことに同情してしまいます。

ただ、海外における氏の”定食”の範疇は、韓国の「里門ソルロンタン」のソルロンタンを食して

黒い器の中には白濁した牛肉スープ、牛肉のスライス、そしてごはんとそうめんが入っている。汁、ごはん、おかず、漬物がそろっており、定食の要素を文句なしに満たしているわけだ。(P51)

であったり、

シンガポールにきたらまずはこれだろう。海南鶏飯。3.8シンガポールドルなので280円くらい。かなり安いな。チキンスープで炊いたごはんに蒸した鶏肉をスライスして乗っけたものだ。濃厚なタレをつけて食べるとうまい。中国海南島出身の人々が伝えて、シンガポール名物となったそうだ。スープも付いている。もちろん日本に由来する定食ではないけど「ごはん、おかず、汁」の三要素がsろった、じつに正しく定食的な一品だ。
うっすらと色のついたライスをスプーンで口に運ぶ。鶏のエキスがごはんに染み込んでいて、なんとも味わい深い。添えられた青梗菜の鮮やかな緑色がまた食欲をそそる。(P160)

といったように、「定食」基準はかなり低く、海外標準にしてあるのは確かである。
とはいっても、韓国の豚焼肉の店「五友家」での

まずはサンチェ(サニーレタスやエゴマなど)がたっぷり、そして白菜キムチ、イカのキムチ、栄養のあるタレ、普通のタレ、青菜、厚揚げの揚げたもの、何かコリコリした食べもの、糊、味噌汁、そして竹の容器に入ったごはんなどが次々と出てくる。・・・さらにおかみさんが三昧肉とともにやってきて、テーブルで焼いてくれ、適当な大きさに包丁で切ってくれる(P78)

のように、もともとミパチャンのような食文化のある韓国はまだしも、台湾 三越のフードコートで
 
”カツレツ御飯”と日本名で記された排骨(豚骨付き肉)の定食がすてきだったので、これにしよう。140元。
(中略)
しばし待っていると定食が登場。おお、ボリュームあふれる排骨にキュウリの漬物。そして3つの副菜と汁物がまぶしい。ごはんは魯肉飯という台湾名物。白飯の上に肉のそぼろが乗っている。日本と現地の食文化が見事に融合した定食といえますね(P122)

や、シンガポールのホーカーセンター「フードジャンクション」の

私が絶対食べたいと狙いをつけたのが<JAPANESE CUISINE>という日本料理の店であった。・・ひときわ目を引いたのがSABA FISH SET。6ドルだかた400円から500円ぐらいと値段も手頃だ。
(中略)
席について出来上がりを待ちながら遠目にこの店の注文風景を観察していると、ランチでやってくる日本人サラリーマンの多くが、揃いもそろってこのSABAを注文しているではないか。

カウンターでトレーに乗ったセットを受け取りテーブルへ。さてお待ちかねの定食は、カットレモンが添えられた半身のサバ、味噌汁、ごはん、そしてまさかの付け合せスイカという布陣である。
まずは味噌汁から。具はワカメで味は薄め。シンガポールの味噌汁はどこも味が薄いのかな、メインのサバに手をつけようとすると、あれ、箸先を少々跳ね返してくる弾力があるぞ。何も考えずに「サバ塩焼き」だと思っていたら、なんとサバの素揚げだった。(P163)

のように、もともとの食文化での定食性が薄いところで、日本料理店などの定食が出てくるとさすがに。家族も良い顔をしないだろう。個人的には、定食の匂いがするにしても

鳥の唐揚げを売っている店で見つけたピラフライス&フライドチキンは55バーツ。200円弱は安い。これを2人前で間に合うかな。注文するとおじさんが唐揚げを包丁でサクサクと切ってお皿に盛り、ピラフは型に入れてポーションし、付け合せの薄切りキュウリ、スープと一緒にトレーに乗せ渡してくれた。(P204)

続けて、ガラス越しに吊るされていた肉を乗っけたチャーシュー丼。スープと空芯菜の痛めものが別皿で付いていて、見た目の満足度は高い。まずはスープから。鶏肉、春雨、玉子の具でスーラー経過と思ったら意外とマイルドな味だ。空芯菜炒めはタレがかかっており繊維質の歯応えも充分で、いかにも野菜を食べているなという気になる。(P259)

といった現地風味があるほうが、やはり海外の定食っぽいと思うのは私だけかな。
ま、ここは、日本風の定食を求めて、家族の冷たい視線を浴びながら、東アジア探訪をする作者の努力に敬意を払いつつ、最後の章の「沖縄」で純粋とはいえないかもしれないが「日本風の定食」のお話を味わって「〆」としてくださいな。

【レビュアーから一言】

筆者のレポートを読んでいると、日本の定食文化がいつの間にか海外における「TEISYOKU」文化として発展していっている様子が伺いしれる。「SUSHI」に続いて「お弁当」が「OBENTO」としてパリっ子たちの間でも流行になったように、定食も国際的な食べ物になっていく日も近いのではなかろうか。だって、バンコクのホテルのコーヒーショップの日本食

まずは天ぷら弁当が登場。これがまた目をひくラインナップである。まず器の左手前にはエビ2尾とニンジン、かぼちゃ、ごぼう、ピーマン、さつまいもといった野菜天が盛りだくさんで、大根おろしとおろしショウガが脇に添えられている。左奥にはサーモンの刺身に・・・。(P199)

なんてのは、まさに国内のものと同じで、まさに「普遍化」しているではありませんか。

日本人のソウルフード「定食」を極めよう ー 今柊二「定食学入門」

「定食」のことを語らせたら、この人の右にでる人はいない、と言っていい、「定食学の権威」今柊二さんによる「定食」を極めるための入門の書が『今柊二「定食学入門」(ちくま新書)』。
出版されたのが2010年なので、店の情報が古くなっているところはあるが、本書の冒頭の

21世紀の現在。かつて以上に、必要不可欠な存在として、定食の重要性はましている。不景気が長引くいま、家計の緊縮財政に悩んでいるご同輩は多いだろうが、安くてうまくて栄養バランスのいい定食は、我らの強い味方なのである。

という「定食の価値」は、好景気が継続と言われていても個人の暮らしでは実感の薄い2020年現在でも変わっていないのは間違いない。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 素晴らしい定食屋に行こう
第2章 揺れる男心が決断する「おかず」
第3章 独身男のライフライン発展史
第4章 全国の「心の基地」を訪ねて
第5章 定食学徒誕生の記

となっていて、まず第1章は筆者の定食についての「熱意」が語られる助走の部分。第2章で、だんだんとスピードに乗ってきて、「定食」のおかずについての「あれこれ」が語られる。
とりあげる「おかず」は焼き魚、煮魚、刺身、寿司、シラス、魚卵、鯨カツ、ウナギ、天ぷら、煮物、野菜炒め、焼肉、ショウガ焼き、ビフテキとポークソテー、鉄板プレー ト、すき焼き、トンカツ、か唐揚げ・焼き鳥、玉子料理、豆腐、フライもの、ハンバーグなどなど、およそ定食で出されるおかずのほとんどを網羅して、店の紹介に加えて、定食として出されるようになった経緯など、薀蓄が語られる。

たとえば「鳥の唐揚げ」が鳥肉を使った定食の主流になったのは

1980 年代以降は「かまどや」などテイクアウトの弁当チェーンで、唐揚げ弁当が定番メニューになっていたことが影響してるだろう。ちなみに、かまどやの大きな功績の一つに、宮崎の郷土料理「チキン南蛮」を世に広めたこともある

といった考察や

ハンバーグが広く浸透していく上で、マルシンフーズの「マルシンのハンバーグ」と石井食品によるイシイの調理済みハンバーグが果たした役割が大きい

といった話など、同時代を経験した人なら、「おお、なるほどね」となんとなく共感してしまう話も多いだろう。こうした薀蓄もさることながら、自分の食したことのある定食のあれこれの記憶がよみがえってくるのが楽しい。

第3章は「定食」の社会史とでも言うべき章。定食の始まりから今にいたるまでの歴史が語られる。江戸期の茶漬けからデパートの食堂、ファミレスまで、定食の歴史を俯瞰するといっていい。
この中では、軍隊が定食隆盛に果たした役割だとか、明治の東京の貧困地域で売られていたという「残飯飯」や江戸情緒あふれる「深川飯」「馬肉飯」の話や戦後闇市の「残飯シチュー」とかおもわず身を乗り出したり、引いてしまったりする話があるのだが、まあ、その 詳細は本書でご確認を。

こうした薀蓄の後、日本各地の定食めぐりともいうべきなのが第4章。
とりあげる地は、北は札幌・仙台から南は沖縄まで。人口の多さと、サラリーマン層の多さという点で東京の各地を取り上げているボリュームが多いのだが、特筆すべきは、札幌の定食 に関する記述がやけに分量が多いこと(第1章の「いの一番」にとりあげられているのが札幌の「おかわり1・4食堂」であるのもこの証左なのかもしれないが)。
残念ながら当方は北海道の地を踏んだことがないのでわからないが、一度でも住んだことのある人にはたまらない描写なんでしょうね。

と、あれやこれやの定食学徒の面目約如といった感のある本書。「定食」をめぐるエッセイとして読んでもいいし、「定食」の食物史、あるいは「定食」の食 べ歩きガイドマップとして読んでもいい。どの読み方でも楽しめるはずである。

【レビュアーから一言】

本書によると「定食学」を志す者の心得として、

・外からメニューがわかり、店内の様子も覗ける店を選べ
・明るい店内と気持ちのよい接客に着目せよ
・ 豊富な小鉢とお代わり自由のシステムは栄養価でもありがたい
・女性客が多い店は、清潔で居心地がいい

という「定食初心者」へのアドバイスから

・店内が見えないときは、メニュー情報をチェックすべし。安めはやや安心
・やさしいサービス精神はちょっとした工夫にあり
・ 商品見本が食品サンプルでなく、その日につくった「生」であるとはずれがない
・人の流れにも注意。サラリーマンや近所に住むようなおじさんが入っ ていくなら期待大
・客がマナーを守って喫煙している店は「大人度」が高い。寛容の精神も必要

といった「定食上級者」になるためのアドバイスが嬉しい。そして極めつけの「定食達人」をめざすためには

・ のれんの力強さや佇まいから、実力店のオーラを感じよう
・でたとこ勝負でもし失敗しても、それを楽しめるぐらいの心の余裕を持つ

ということが要点であるそうなので、達人を目指すかたはしっかりとおさえていきましょう。大学生からビジネスマンへと年齢を重ねていくにつれ、男女を問わず「定食」を使いこなす場面が増えてくる。「大人の証」としてマスターしてみてはいかがでしょうか。

美味しい「洋食」は日本人のソウルフード ー 今柊二「洋食ウキウキ」

ビジネスマンや学生の皆々の生活を支えている「日本各地の定食」について、おそらくは日本で一番詳しい「定食研究家」(?)である筆者が、もうひとつ日本人の心の「故郷」である「洋食」について著したのが本書『今柊二「洋食ウキウキ」(中公新書ラクレ)』。

【構成と注目ポイント】

第1章 「洋食の場」発展史と「ウキウキ」分析
 1 「洋食の場」発展史
 2 世代別洋食「ウキウキ」感の研究
第2章 メニューの研究
 1 メインの研究
 2 アラカルトの研究
第3章 洋食「聖地」探訪 〜その1〜
 1 人形町
 2 銀座
 3 日本橋
 4 浅草
 5 上野
第4章 洋食「聖地」探訪 〜その2〜
 1 神保町・御茶ノ水・小川町
 2 横浜
第5章 洋食ニッポン・関西三都物語
 1 京都
 2 大坂
 3 神戸
第6章 首都圏洋食紀行
 1 郊外エリア
 2 山手線沿線
 3 東京北部・東部ゾーン
 4 中央線沿線
 5 東京南部ゾーン
 6 最後は地元・町田
第7章 洋食ニッポン・全国めぐり
 苫小牧、札幌、仙台、新潟、名古屋。岡山、広島(呉)、松山
第8章 洋食とチェーン店・のれん分けなど
 1 チェーン店あれこれ
 2 南海旅行
終章 未来の洋食、世界の洋食

となっていて、第1章、第2章のところが「洋食」の起源を含めた洋食の歴史と、肉・シチュー・魚・フライと種類豊富なメニューの考察、第3章から第8章までが筆者が食べ歩いた各地の「洋食」のレポート、最終章が、洋食の新たな愛好者と世界に広がった「洋食」の考察、といった仕立てになっている。
で、「洋食」というやつには、本書の冒頭で

よし、ちょうどいい時間だ。いつもの洋食屋に行こう。土曜はやっているはずだ。おっ、やはり開いていた!ドアを開ける瞬間、気持ちがなんだかウキウキしてくる。

とあるように、日本人の遺伝子の中に心を沸き立たせる何かがあるようで、そのへんを筆者は洋食の大傑作である「お子様ランチ」の
①いろいろなおいしさに出会える
②見た目の豪華さに感動する
③お土産もある
という魅力に感動する子供時代に始まり「食べ物だけでなく、店もおいし」と気付く青年洋食時代、「友人たちとワイワイ楽しく食べて飲んでもいいけど、1人で洋食を食べつつゆっくり飲むのも悪くないな。こんな自分は大人だなと気がつく」おっさん洋食時代、そして「店の人たちが心を込めてつくってくれたことによる「滋養」や、店の人たちが演出する囲碁事のよさが、ご老人たちの「元気」につながっている」老人洋食時代と、一生を通じて魅惑する「洋食の力」を抽出しているのだが、まさに至言ですね。これに加えて、第二章では、「話をハンバーグに戻すと、現在の洋食店のハンバーグは、大きくは挽肉を粗挽きにした肉々しいタイプとよく挽かれたなめらかタイプがあり、それぞれのおいしさがある」といハンバーグに始まって、ソテー、シチュー、フライト続く洋食の「メイン」と「アラカルト」料理が詳述に分析されているので、「洋食」の理論編に興味ある方は熟読するとよいでしょう。

そして、筆者の「定食本」を読む醍醐味である、実体験に基づくレポートは第三章から始まっているのだが、そこは全国各地のレストラン、定食屋の「定食系」のメニューに飽くなき探究心をもつ筆者らしく、例えば洋食の聖地が多い東京では、人形町の老舗洋食屋「来福亭」の

エアコンもついているが、天井には扇風機がついていて、さすがは明治からの老舗だなと思っていると、メンチカツとライスが登場。これはこぶりだけど、とても美しいメンチカツ。ポテトサラダ、パセリ、キャベツつきだ。・・・ではまずメンチから。「ザクリ!」というより「サクリ!」かもしれない。「ザ」と「サ」の間のとても素敵な揚げ方。肉はなめらかかつミッチリの素晴らしいバランス。

といった「メンチカツ」に始まり、なかなか当方のような地方在住者には遠い聖地である、北千住「三幸」の

おお、こりゃおいしそう、グツグツ生音を立てているよ。土鍋の中には、牛肉の角切り、ポテトフライ、インゲン、そしてスパゲティが入っている。
まずはスプーンでビーフシチューを。アチチ、本当にこれは熱いね(笑)。酸味のあるおいしさ、続けて牛肉。こりゃ柔らかくてトロトロのお肉。うまいよ!おかず力もあるので、ご飯をパクパク食べる。・・・肉一切れとスパとシチューが残る・・・。「これは間違いない!」と思いつつ、スパを食べるとやはりビンゴ!牛肉のpエキスが充分に溶けたシチューが絡まり、凄まじいおししさ。

というビーフシチューであったり、とまさに百花繚乱なのである。
このほかにも、大坂の住吉大社ちかくの「やろく」の玉子コロッケ、エビフライ、カキフライ(または貝柱フライ)の三種が載った「限定セット」であるとか、神保町にある「キッチン南海」から暖簾分けして、高円寺・高田馬場・下北沢など東京の各地に広がった「南海」ファミリーの「ハンバーグ+目玉焼き+ウィンナーのセット」「イカフライ+しょうが焼き」「ヒラメフライとメンチカツのセット」など、各地の「洋食」の数々がでてくるので、これから先の詳細は原書でお楽しみを。

【レビュアーから一言】

もともと日本の「洋食」というのは、「西洋料理」をはじめとして外国から伝来したものであるが、すでに日本料理と言ってもおかしくない完成度になっている。本書の最後のほうで、ソウルのCOEXモールのフードコートで、鉄板に上に、ライス、チーズハンバーグ、もやし、味噌汁とつぼ漬とらっきょうが鉄板の上にのっている「チーズハンバーグ・ステーキ」9500ウォンが「ジャパニーズ」のメニューに入っているように「YOSHOKU」が輸出される時代もくるのかもしれません。

日本の「定食文化」が元気なら日本経済も大丈夫 ー 今 柊二「ニッポン定食散歩」(竹書房)

ミシュランガイドの日本版に近くの店が掲載されたなどなど、TV番組や雑誌でもグルメ系の番組や特集の人気は衰えるところをしらないのだが、この美食ブームは、景気の良し悪しに左右される、とても移り気な感じがしている。
これに対し、限られた時間と限られた予算で、できるだけ、大盛りで美味なものを探す「定食愛」は、いつの時代でも色褪せない不動のものであろう。
そんな「定食愛」に突き動かされるように、日本全国の「定食」を食べ歩き、秀逸な定食をレビューしてくれる今柊二さんによる「定食ニッポン」の続編ともいえるのが本書である。

【構成は】

はじめに「定食・散歩でおいしさ倍増」
第1章 山手線一周 定食ぶらぶら散歩
第2章 何度でも通いたい!ワクワク洋食巡り
第3章 みんな大好き生姜焼き定食
第4章 安定の美味しさ チェーン系定食屋&中華屋
第5章 北から南へ定食漫遊 全国食べ歩き
第6章 ステキな一杯を求めて 立ちそば巡礼は続くよ
おわりに「定食と音楽」

となっていて、まずは「定食ニッポン」が刊行されてから10周年を記念しての山手線一周の定食旅に始まり、「洋食ウキウキ」(中公新書ラクレ)の未収録店、定食メニューの”大定番”生姜焼き定食の名店、安価で安定した味の庶民の味方・チェーン店、北は札幌から長崎までの全国の定食の名店が紹介される、という、まあ定番の定食行脚が展開されている。

 

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食べ物で知る「今」と「昔」の隔たり ー 今柊二「定食と文学」(本の雑誌社)

文学の主要テーマは、恋愛(SEX)、諍い(戦争)、食べ物で大概のものは分類できると思うのだが、今回の定食シリーズは「文学」の中の「定食」を取り上げようという乱暴なもの。
構成は
第一章 二大定食作家 林芙美子と獅子文六
 コラム 林芙美子と牛めし
     横浜で獅子文六を歩く
第二章 三大定食映画監督 小津安二郎、山本嘉次郎、伊丹十三
 コラム タンポポオムライスの「たいめいけん」に行く
第三章 大阪定食彷徨 はるき悦巳、宮本輝、織田作之助
 コラム 定食屋でうどん定食を食べる
     大阪中華 酢豚定食エビフライつき
     「自由軒」でオムライス
第四章 児童文学と定食「いやいやえん」から宮崎県へ
 コラム 工業食品の極致・ちくわパン
     「千と千尋の紙隠し」制作日誌を読む
第五章 漱石の朝食と鴎外の青魚味噌煮
 コラム 京都の名店「今井食堂」
第六章 ブラジル定食 石川達三「蒼氓」から北杜夫「輝ける蒼き空の下で」まで
 コラム 「蒼氓」を歩く
     渋谷でフェイジョアーダ
となっていて、「文学」とあるせいか、昭和初期から戦後にかけての少々「権威」がでた作品が多い。
だが、その作品の選択がまた良い味を出していて、「食べ物」がこうした「ノベル」の味を深める効果というものを知らしめてくれる。

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「言葉」化が難しい焼き肉の魅力を、あえて「文章」にすると ー 今 柊二「がんがん焼肉 もりもりホルモン」(ちくま文庫)

最近、狩猟系の調べ物をしていて、そのせいでもないのだが、食べ物系の読み物は「肉」が多くなっていて、今回は、今 柊二「がんがん焼肉 もりもりホルモン」を取り上げる。
構成は
「元気」大爆発だ! まえがき
第一部 関東モツ肉道
第二部 全国モツ肉の旅はるか
第三部 時間はなくてもしっかり食べたい
 お持ち帰り焼き鳥の悦楽
 愛とエネルギーがあふれる肉丼
と、タイトルどおり「焼き肉」中心の構成である。
たしかに「肉」系の料理というとトンカツ、すきやき、しゃぶしゃぶ、シチューと数々あれど、どういうわけか無条件に心を躍らせるのは「焼き肉」に敵うものはなかなかいない。ところが、こうした食べ物の本のレビューをする時には、結構な難物である。肉は海鮮や丼、揚げ物と違って、なんとも抜き書きが難しい。
例えば、本書の、愛知・名古屋伏見「鳥正」の『どてめし』
ごはんの上に刻みネギがのり、その上に牛スジ、こんにゃくなどがのり、中央部分に目玉焼きが鎮座ましましているのだった。このタナゴに箸でふれうと「にょほ〜」と気味がとろけでる。いい具合の半熟。これが汁と混ざり合って具とご飯にからまっていく。
や、神奈川・新杉田「バーグ」の『スタミナカレー』
さて、でてきたカレー。カレーの上に豚のショウガ焼きがどっさりのって真ん中に生卵が鎮座している。まさに「米・肉・油・卵」。
ルーは粘度が高く、わりと辛い。米がちょっと硬い。エネルギッシュな豚肉と辛いカレールーのせいで、確かにこれは相当に激しい味だ。生卵がルーと肉にからんでいるので、ややまいるどな味になっているが、総合的には学情度が揚がって沸騰寸前という感じだ。
といったように、焼き肉の周縁部のものでは、ダイレクトにワクワク感が伝わるのに、焼き肉そのものでは、どうしてもジュワッ、とか、コリコリ、とかなんともありきたりの表現になってしまって、焼き肉の心躍らせる感がでてこないのである。
例えば
東京・亀戸「亀戸ホルモン」
続けて焼きものを。マルチョウ(小腸)、ハチノス(第2胃)、トロミノ(第1胃)をかく1人前ずつ注文。肉を焼きはじめると、ボウボウと炎の勢いが増した。・・
さて食べてみる。トロミノは、これまでに食べたことのない軟らかさ。
東京・新宿「つるかめ食堂」レバから揚げの定食セット
続けてお、おかずが登場。キャベツを敷いた上に揚げたてのレバがのっている。わりと多い。皿の隅には黄色いカラシが、おもしろいほどたっぷりと添えられている。・・・
まずはソースとカラシを溶かして、レバから揚げをつけて食べる。レバはサクサクと揚がっている。カラシソースでジャンキーな感じがまして元気がでそうだな。
東京・町田「いくどん」ホルモンの焼き肉
ホルモンは薄いタイプと厚いタイプと2つ入っているようで、まずは薄いタイプが焼けてくる。
最初は味噌ダレをつけて、ご飯にのっける。
それでは1口。・・・こ、これは!
炭火のせいか火がよく通っていて、カリカリと香ばしい味わいだよ。
(中略)
続けて厚いほうの肉が焼けてくる。こういう厚いホルモンって、内側に脂がのっていて、それが炭火で溶け出して、ご飯とよく合う。トリガラスープもシンプルでしみじみおいしい。これもすいすい飲み干してしまった。
といった感じで抜き書きはしてみるのだが、なんとも隔靴掻痒の感が強い。おそらくは、「焼き肉」「ホルモン」というものが、そのものの味だけではなく、脂や煙でけぶった店の壁とか、ジュージューと肉の焼ける匂いと火に脂がおちてボッと上がる炎とか、全体の雰囲気をを味わうものであるからであろう。
つまりは「焼き肉本」の良さを伝えるには、店の佇まいから客のザワザワ感、皿に載った肉の具合などなど、どうかすると本の隅々まで紹介しないと良さが伝わわらないかも、ということで、これはレビュアーなかせというもの。
ということで、今回は、あっさりと筆者の「まえがき」から
そうだ。焼肉屋は「元気の源」だったのだ。
酒を飲みつつ食べている大人たちも、私達のように家族連れできているひとたちも、この店で肉やホルモンを食べて「元気」をつけていたのだ。
という焼き肉への愛を伝えて、この稿は了とさせていただこう。百聞は一見に如かず。肉は実際に焼いてみるのが一番なのである。

魚系でも立派な”定食”だ ー 今 柊二「お魚バンザイ!」

定食といえば肉、フライといったほうが主流であると思うのだが、年齢を重ねると、そうしたガッツリ系が毎日、というのは辛くなって、「魚」が食べたくなるのが日本人というもののような気が「勝手に」している。ところが、「魚」の料理でなく、「定食」を扱った本というは、そんなに見たことはないのだが、そこをきっとりと押さえているのが「定食」で定評のある 今 柊二氏の「お魚バンザイ!」(竹書房)
構成は
第1章 焼いて、煮て、揚げて!さぁさぁ、お魚道
 定食界の4番バッター・焼き魚
 意外と出会えない煮魚
 ワンダフル・サバ・ワールド!
 海鮮揚げ物道
第2章 回転&お値打ち寿司を食べ歩き
第3章 海の恵みを満喫!!新鮮な刺し身と丼を求めて
第4章 日本一の魚河岸探訪 さようなら・・築地
第5章 中華vs洋食 お魚バトル
となっていて、定番の「焼き魚定食」系から寿司、丼、中華、と「魚」を使った気取らないご飯物を網羅しているのが本書。
訪れている店は、職場や居所のせいもあって、東京・神奈川・千葉が多く、中に大阪、北海道が混ざるといった具合で、西日本や東北在住者は不満が残るかもしれないが、名店案内ではなく、素晴らしい定食のルポ、食物誌ととらえて「良し」とする。
ただ、冒頭で「ガッツリ系」とは書いたが、それは私個人のことであって、筆者は、ご飯は大盛りか追加、”寿司”の時のように寿司を食した後で蕎麦を手繰るというように大食漢は健在。
さて、魚の定食といえば個人的には「焼き魚」が愁眉である気がしていて、そこは筆者もぬかりなく、東京・麹町 「東京厨房」銀鮭定食の
かくして食べ進み、鮭の身の細いところを食べる。ここが脂がのっていて、ムチャクチャおいいしいんだよね。ここの部分だけでご飯一杯食べられますね。さらにおいしいのが皮。しかし皮のうまさがわかるのはおっさんになってからです
や、東京・練馬 「とりみき」 日替わりの焼魚定食(にしんの塩焼き)の
続けてニシンにレモンをサッと搾り、さあ食べるぞ!皮はパリパリ、身はホカホカのいいにしんだ。さらになんと白子もたっぷりと入っている!こりゃスバラシイ「おまけ」付きだよ、とものすごくうれしくなる。・・にしんは小骨がわりとあるけど、身がギシギシ詰まっている感じで適度な脂っぽさがおかず力につながっているよね。かくしてご飯と身の部分を食べ終え、残しておいた白子を〆で食べる。ねっとりとして本当にうまいなあ。
と、焼魚定食の魅力を余すところなく押してくる。

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定食は日本の”ソウルフード”ー今 柊二「定食バンザイ!」(ちくま文庫)

最近、今柊二さんをはじめとする、「定食系」のブックレビューが頻発していて食傷気味のところもあるかもしれないが、個人的に「これ」と思うジャンルにぶつかると当分の間、偏”読”するという性質があるので、ご容赦を願いたい。
偏って読んでいると、作者なりにかぶって紹介されるテーマとか店とかがあって、今氏の場合も神保町界隈の”いもや”とか”さぼうる2”とかも出ているのだが、比較的重複がすくないと感じるのが本書。
構成は
第一部 街をブラブラ
 定食の聖地・神保町界隈
 青春の爆食ー早稲田から高田馬場
 ヨコハマの洋食
 地下街と定食
 あの街この街・・・味わいの定食屋
第二部 テーマ決め一直線
 立ちそば屋で定食を食べたくなって
 お好み焼きだってごはんだよ
 魚が食べたい日々
 ぶたぶたこぶた・・栄光の豚料理
 カレーの逆襲
第三部 大中華帝国の覇権
 ラーメンライスの極意
 焼き飯紀行
 横浜中華街ランチ勝負
 横浜中華街外の名店へ
となっていて、王道の定食から、定食の変形でもある「中華」まで万遍なく”定食系”を網羅しているといっていい。
ただ定食系を”網羅”といっても
大学入学当時の1986年は、私は本当に文房で、昼は学食の290円の定食、そして朝食は日々米一合を炊いて、夜のおかずは1枚100円のチキンカツと千切りキャベツ(一週間食べる)かなんかを食べている程度だった。(P12)

と述懐する筆者らしく

「キッチンカロリー」(東京・神田神保町) カロリー焼き+ご飯大盛り の
やってきたごはんを見て「あれ?盛りが少ないな?」と大食いのあなたは思うかもしれない。
でもちょっと待って下さい。おかずの「カロリー焼き」を見なさい!表面に載ったガーリックしょうゆ味の牛肉の舌には、巨大なスパゲッティが鉄板の上でジュウジュウ焼けているでしょうが!(P12)
「鶏やす」(東京・高田馬場) 肉皿定食 の
デカい鶏の胸肉が大量のキャベツとともにおかずとして君臨しているもので、鳥の皮のカリカリ感といい、肉のジューシー感といい、そりゃもう圧倒されるうまさだ。(P46)
のように、大盛りメニュー、ご飯お替わり自由への愛情は不変である。

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ご馳走は”とんかつ”で決まり ー 今 柊二「とことん!とんかつ道」

定食、そば、丼と日本人の琴線に触れるものの次は、やはりおなじみの「とんかつ」である。

下戸であるせいか、酒のツマミ系にはぶれていかなくて、とことん「ご飯のおかず」的な要素にこだわるのがこの筆者の作の良い所。なおかつ、食物の食べあるき、あるいは美食の記録ではなく、どことなくブログ的に筆者の「食」の様子を軽い調子で読めるのも、このシリーズのみ魅力でもある。
さて、本書の構成は
第1章 とんかつとサラリーマン
第2章 とんかつと学生
第3章 ありがたいチェーン系とんかつ
第4章 とんかつ発展史
第5章 とんかつのバリエーション
第6章 にほんとんかつ紀行
最終章 とんかつオブザワールド
となっていて、まずは都内のとんかつの店 銀座「梅林」カツライス の
カツとキャベツにだらりとソースをかけて、右端から食べていく。衣さくりとしている。肉は脂身がやや多いが、噛み締めるとおいしいタイプ。・・良いとんかつ屋って、間違いなくお米も味噌汁もおいしいんだよね。・・なお、とんかつの付け合せのケチャップスパも丁寧な味で美味しいし、ボリュームがある。伝統的にとんかつ屋には、このスパが付け合せになっていることが多いよね。
であったり、新宿「豚珍館」 紙かつ定食 の
薄いけれど柔らかくて箸で切れるほどだ。食べると衣はサクサクで肉は柔らかく、カツを食べている実感は強い。私は分厚いとんかつも好きだけど、こういう薄いのも大好きだなあ。さらにカツも好きだけど、カツとともに食べるご飯も大好きなんだよね。そう考えると、この紙かつは主張しすぎない分だけご飯をおいしく食べることができる良き伴走者であると言えるね。
 
といったところから始まる。
本書の「なぜか目黒にはとんかつの名店が多い。」(P47)で象徴するように定食屋、立ちそばの同じく、とんかつも、人の動きが多くて、特に原を減らす度合いの多い学生や勤め人が多く、しかも住宅地の近隣というところが、美味くて、量もたっぷりの店が多い気がしていて、やはり、都会に利がある。名前を失念していてもどかしいのだが、女性の漫画家のエッセイに原稿料が入ると、必ず妹とトンカツ屋でとんかつを食べるのが贅沢だったという一節を読んだことがあって、これは私の学生の頃の原体験に重なり、やはりビンボーな学生、若い労働者にとってトンカツはハレの日の食べ物であるという印象が強い。
ここらへんは、私より年齢の若いせいか筆者にとってトンカツの価値は、少し「軽い」もののようで

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古書街に定食の匂い漂う ー 今 柊二「定食と古本」(本の雑誌社)

編集者にして「定食研究家」である今 柊二さんの基点ともいうべき、定食と古本屋ついてのエッセイ的な紀行。
構成は

第一部 定食と古本の旅

 神保町定食 三十六店定食めぐりの巻
 東京あの街この街 思い出の古書店と定食
 千葉三都市ブックオフめぐり
 札幌古本道中
 盛岡・函館古本屋叙景
 関西古本三都物語
 宮崎古書とチキン南蛮の旅
第二部 定食と古本と私
 古本人生・黎明編
 定食と古本のほうへ
で、神保町をはじめ古書街めぐりとその街の特色ある定食屋の数々。
学生やサラリーマン(ビジネスマンではないですよ。もっと泥臭いところを抱えた「サラリーマン」。)が多い街には、良質の定食屋が多いというのは一種の定理のようなものだが、本書を読むと、古くからある古書街だけでなく、古書店の近くには、良い定食屋があるというのもかなり確率の高いもののようだ。おそらくは、街の滞在時間の長さと、それと比例しての外食人口の高さ、また食欲の旺盛さが定食屋を育てるのだろう(古書街を出物を探してブラつくには体力がないと無理だし、買い物後には食欲もでるよね)。
で、今さんの定食本で、なんとも笑みがこぼれてしまうのは、当然、定食の大盛り。例えば、神保町「さぼうる2」のエビピラフセットの
具は、エビ、玉子、玉ねぎ、そしてマッシュルーム。とてもよく炒めてあって、食べているとホカホカと素朴に美味しい。ご飯のなかには、ときどきショッパイかたまりがあって、それが味のメリハリとなってさらにおいしいのだった。そしてサラダの存在も大事。エビピラフは味の変化があまりないので、ときどきレタスなどを食べて気分を一新するために貴重なのだった。サラダを食べつつガシガシとピラフを食べ続ける。いやあピラフは「勢い」がうまいのですよ

 

「神田餃子屋本店」のレバにら定食に餃子が三個セットになった半餃子セット
 
まずはスープを飲む。これは普通の中華スープ。続けてレバにら。ものすごいボリューム。レバー、にら、もやし、玉ねぎ、キクラゲが入っている。
早速、食べると、レバーしっとり、にらでパワー満タン、もやし、玉ねぎサクサクという感じで激しくおかず力があるので平皿のご飯をパクパク食べていく。味付けもなかなかバランスが良くていいね。おかずのほうが勢力が大きいので、ご飯を控えめに食べないとね

 

といったあたりには、思わず生唾を飲み込んでしまう。

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