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日本の「定食文化」が元気なら日本経済も大丈夫 ー 今 柊二「ニッポン定食散歩」(竹書房)

ミシュランガイドの日本版に近くの店が掲載されたなどなど、TV番組や雑誌でもグルメ系の番組や特集の人気は衰えるところをしらないのだが、この美食ブームは、景気の良し悪しに左右される、とても移り気な感じがしている。
これに対し、限られた時間と限られた予算で、できるだけ、大盛りで美味なものを探す「定食愛」は、いつの時代でも色褪せない不動のものであろう。
そんな「定食愛」に突き動かされるように、日本全国の「定食」を食べ歩き、秀逸な定食をレビューしてくれる今柊二さんによる「定食ニッポン」の続編ともいえるのが本書である。

【構成は】

はじめに「定食・散歩でおいしさ倍増」
第1章 山手線一周 定食ぶらぶら散歩
第2章 何度でも通いたい!ワクワク洋食巡り
第3章 みんな大好き生姜焼き定食
第4章 安定の美味しさ チェーン系定食屋&中華屋
第5章 北から南へ定食漫遊 全国食べ歩き
第6章 ステキな一杯を求めて 立ちそば巡礼は続くよ
おわりに「定食と音楽」

となっていて、まずは「定食ニッポン」が刊行されてから10周年を記念しての山手線一周の定食旅に始まり、「洋食ウキウキ」(中公新書ラクレ)の未収録店、定食メニューの”大定番”生姜焼き定食の名店、安価で安定した味の庶民の味方・チェーン店、北は札幌から長崎までの全国の定食の名店が紹介される、という、まあ定番の定食行脚が展開されている。

 

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「言葉」化が難しい焼き肉の魅力を、あえて「文章」にすると ー 今 柊二「がんがん焼肉 もりもりホルモン」(ちくま文庫)

最近、狩猟系の調べ物をしていて、そのせいでもないのだが、食べ物系の読み物は「肉」が多くなっていて、今回は、今 柊二「がんがん焼肉 もりもりホルモン」を取り上げる。
構成は
「元気」大爆発だ! まえがき
第一部 関東モツ肉道
第二部 全国モツ肉の旅はるか
第三部 時間はなくてもしっかり食べたい
 お持ち帰り焼き鳥の悦楽
 愛とエネルギーがあふれる肉丼
と、タイトルどおり「焼き肉」中心の構成である。
たしかに「肉」系の料理というとトンカツ、すきやき、しゃぶしゃぶ、シチューと数々あれど、どういうわけか無条件に心を躍らせるのは「焼き肉」に敵うものはなかなかいない。ところが、こうした食べ物の本のレビューをする時には、結構な難物である。肉は海鮮や丼、揚げ物と違って、なんとも抜き書きが難しい。
例えば、本書の、愛知・名古屋伏見「鳥正」の『どてめし』
ごはんの上に刻みネギがのり、その上に牛スジ、こんにゃくなどがのり、中央部分に目玉焼きが鎮座ましましているのだった。このタナゴに箸でふれうと「にょほ〜」と気味がとろけでる。いい具合の半熟。これが汁と混ざり合って具とご飯にからまっていく。
や、神奈川・新杉田「バーグ」の『スタミナカレー』
さて、でてきたカレー。カレーの上に豚のショウガ焼きがどっさりのって真ん中に生卵が鎮座している。まさに「米・肉・油・卵」。
ルーは粘度が高く、わりと辛い。米がちょっと硬い。エネルギッシュな豚肉と辛いカレールーのせいで、確かにこれは相当に激しい味だ。生卵がルーと肉にからんでいるので、ややまいるどな味になっているが、総合的には学情度が揚がって沸騰寸前という感じだ。
といったように、焼き肉の周縁部のものでは、ダイレクトにワクワク感が伝わるのに、焼き肉そのものでは、どうしてもジュワッ、とか、コリコリ、とかなんともありきたりの表現になってしまって、焼き肉の心躍らせる感がでてこないのである。
例えば
東京・亀戸「亀戸ホルモン」
続けて焼きものを。マルチョウ(小腸)、ハチノス(第2胃)、トロミノ(第1胃)をかく1人前ずつ注文。肉を焼きはじめると、ボウボウと炎の勢いが増した。・・
さて食べてみる。トロミノは、これまでに食べたことのない軟らかさ。
東京・新宿「つるかめ食堂」レバから揚げの定食セット
続けてお、おかずが登場。キャベツを敷いた上に揚げたてのレバがのっている。わりと多い。皿の隅には黄色いカラシが、おもしろいほどたっぷりと添えられている。・・・
まずはソースとカラシを溶かして、レバから揚げをつけて食べる。レバはサクサクと揚がっている。カラシソースでジャンキーな感じがまして元気がでそうだな。
東京・町田「いくどん」ホルモンの焼き肉
ホルモンは薄いタイプと厚いタイプと2つ入っているようで、まずは薄いタイプが焼けてくる。
最初は味噌ダレをつけて、ご飯にのっける。
それでは1口。・・・こ、これは!
炭火のせいか火がよく通っていて、カリカリと香ばしい味わいだよ。
(中略)
続けて厚いほうの肉が焼けてくる。こういう厚いホルモンって、内側に脂がのっていて、それが炭火で溶け出して、ご飯とよく合う。トリガラスープもシンプルでしみじみおいしい。これもすいすい飲み干してしまった。
といった感じで抜き書きはしてみるのだが、なんとも隔靴掻痒の感が強い。おそらくは、「焼き肉」「ホルモン」というものが、そのものの味だけではなく、脂や煙でけぶった店の壁とか、ジュージューと肉の焼ける匂いと火に脂がおちてボッと上がる炎とか、全体の雰囲気をを味わうものであるからであろう。
つまりは「焼き肉本」の良さを伝えるには、店の佇まいから客のザワザワ感、皿に載った肉の具合などなど、どうかすると本の隅々まで紹介しないと良さが伝わわらないかも、ということで、これはレビュアーなかせというもの。
ということで、今回は、あっさりと筆者の「まえがき」から
そうだ。焼肉屋は「元気の源」だったのだ。
酒を飲みつつ食べている大人たちも、私達のように家族連れできているひとたちも、この店で肉やホルモンを食べて「元気」をつけていたのだ。
という焼き肉への愛を伝えて、この稿は了とさせていただこう。百聞は一見に如かず。肉は実際に焼いてみるのが一番なのである。

魚系でも立派な”定食”だ ー 今 柊二「お魚バンザイ!」

定食といえば肉、フライといったほうが主流であると思うのだが、年齢を重ねると、そうしたガッツリ系が毎日、というのは辛くなって、「魚」が食べたくなるのが日本人というもののような気が「勝手に」している。ところが、「魚」の料理でなく、「定食」を扱った本というは、そんなに見たことはないのだが、そこをきっとりと押さえているのが「定食」で定評のある 今 柊二氏の「お魚バンザイ!」(竹書房)
構成は
第1章 焼いて、煮て、揚げて!さぁさぁ、お魚道
 定食界の4番バッター・焼き魚
 意外と出会えない煮魚
 ワンダフル・サバ・ワールド!
 海鮮揚げ物道
第2章 回転&お値打ち寿司を食べ歩き
第3章 海の恵みを満喫!!新鮮な刺し身と丼を求めて
第4章 日本一の魚河岸探訪 さようなら・・築地
第5章 中華vs洋食 お魚バトル
となっていて、定番の「焼き魚定食」系から寿司、丼、中華、と「魚」を使った気取らないご飯物を網羅しているのが本書。
訪れている店は、職場や居所のせいもあって、東京・神奈川・千葉が多く、中に大阪、北海道が混ざるといった具合で、西日本や東北在住者は不満が残るかもしれないが、名店案内ではなく、素晴らしい定食のルポ、食物誌ととらえて「良し」とする。
ただ、冒頭で「ガッツリ系」とは書いたが、それは私個人のことであって、筆者は、ご飯は大盛りか追加、”寿司”の時のように寿司を食した後で蕎麦を手繰るというように大食漢は健在。
さて、魚の定食といえば個人的には「焼き魚」が愁眉である気がしていて、そこは筆者もぬかりなく、東京・麹町 「東京厨房」銀鮭定食の
かくして食べ進み、鮭の身の細いところを食べる。ここが脂がのっていて、ムチャクチャおいいしいんだよね。ここの部分だけでご飯一杯食べられますね。さらにおいしいのが皮。しかし皮のうまさがわかるのはおっさんになってからです
や、東京・練馬 「とりみき」 日替わりの焼魚定食(にしんの塩焼き)の
続けてニシンにレモンをサッと搾り、さあ食べるぞ!皮はパリパリ、身はホカホカのいいにしんだ。さらになんと白子もたっぷりと入っている!こりゃスバラシイ「おまけ」付きだよ、とものすごくうれしくなる。・・にしんは小骨がわりとあるけど、身がギシギシ詰まっている感じで適度な脂っぽさがおかず力につながっているよね。かくしてご飯と身の部分を食べ終え、残しておいた白子を〆で食べる。ねっとりとして本当にうまいなあ。
と、焼魚定食の魅力を余すところなく押してくる。

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定食は日本の”ソウルフード”ー今 柊二「定食バンザイ!」(ちくま文庫)

最近、今柊二さんをはじめとする、「定食系」のブックレビューが頻発していて食傷気味のところもあるかもしれないが、個人的に「これ」と思うジャンルにぶつかると当分の間、偏”読”するという性質があるので、ご容赦を願いたい。
偏って読んでいると、作者なりにかぶって紹介されるテーマとか店とかがあって、今氏の場合も神保町界隈の”いもや”とか”さぼうる2”とかも出ているのだが、比較的重複がすくないと感じるのが本書。
構成は
第一部 街をブラブラ
 定食の聖地・神保町界隈
 青春の爆食ー早稲田から高田馬場
 ヨコハマの洋食
 地下街と定食
 あの街この街・・・味わいの定食屋
第二部 テーマ決め一直線
 立ちそば屋で定食を食べたくなって
 お好み焼きだってごはんだよ
 魚が食べたい日々
 ぶたぶたこぶた・・栄光の豚料理
 カレーの逆襲
第三部 大中華帝国の覇権
 ラーメンライスの極意
 焼き飯紀行
 横浜中華街ランチ勝負
 横浜中華街外の名店へ
となっていて、王道の定食から、定食の変形でもある「中華」まで万遍なく”定食系”を網羅しているといっていい。
ただ定食系を”網羅”といっても
大学入学当時の1986年は、私は本当に文房で、昼は学食の290円の定食、そして朝食は日々米一合を炊いて、夜のおかずは1枚100円のチキンカツと千切りキャベツ(一週間食べる)かなんかを食べている程度だった。(P12)

と述懐する筆者らしく

「キッチンカロリー」(東京・神田神保町) カロリー焼き+ご飯大盛り の
やってきたごはんを見て「あれ?盛りが少ないな?」と大食いのあなたは思うかもしれない。
でもちょっと待って下さい。おかずの「カロリー焼き」を見なさい!表面に載ったガーリックしょうゆ味の牛肉の舌には、巨大なスパゲッティが鉄板の上でジュウジュウ焼けているでしょうが!(P12)
「鶏やす」(東京・高田馬場) 肉皿定食 の
デカい鶏の胸肉が大量のキャベツとともにおかずとして君臨しているもので、鳥の皮のカリカリ感といい、肉のジューシー感といい、そりゃもう圧倒されるうまさだ。(P46)
のように、大盛りメニュー、ご飯お替わり自由への愛情は不変である。

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ご馳走は”とんかつ”で決まり ー 今 柊二「とことん!とんかつ道」

定食、そば、丼と日本人の琴線に触れるものの次は、やはりおなじみの「とんかつ」である。

下戸であるせいか、酒のツマミ系にはぶれていかなくて、とことん「ご飯のおかず」的な要素にこだわるのがこの筆者の作の良い所。なおかつ、食物の食べあるき、あるいは美食の記録ではなく、どことなくブログ的に筆者の「食」の様子を軽い調子で読めるのも、このシリーズのみ魅力でもある。
さて、本書の構成は
第1章 とんかつとサラリーマン
第2章 とんかつと学生
第3章 ありがたいチェーン系とんかつ
第4章 とんかつ発展史
第5章 とんかつのバリエーション
第6章 にほんとんかつ紀行
最終章 とんかつオブザワールド
となっていて、まずは都内のとんかつの店 銀座「梅林」カツライス の
カツとキャベツにだらりとソースをかけて、右端から食べていく。衣さくりとしている。肉は脂身がやや多いが、噛み締めるとおいしいタイプ。・・良いとんかつ屋って、間違いなくお米も味噌汁もおいしいんだよね。・・なお、とんかつの付け合せのケチャップスパも丁寧な味で美味しいし、ボリュームがある。伝統的にとんかつ屋には、このスパが付け合せになっていることが多いよね。
であったり、新宿「豚珍館」 紙かつ定食 の
薄いけれど柔らかくて箸で切れるほどだ。食べると衣はサクサクで肉は柔らかく、カツを食べている実感は強い。私は分厚いとんかつも好きだけど、こういう薄いのも大好きだなあ。さらにカツも好きだけど、カツとともに食べるご飯も大好きなんだよね。そう考えると、この紙かつは主張しすぎない分だけご飯をおいしく食べることができる良き伴走者であると言えるね。
 
といったところから始まる。
本書の「なぜか目黒にはとんかつの名店が多い。」(P47)で象徴するように定食屋、立ちそばの同じく、とんかつも、人の動きが多くて、特に原を減らす度合いの多い学生や勤め人が多く、しかも住宅地の近隣というところが、美味くて、量もたっぷりの店が多い気がしていて、やはり、都会に利がある。名前を失念していてもどかしいのだが、女性の漫画家のエッセイに原稿料が入ると、必ず妹とトンカツ屋でとんかつを食べるのが贅沢だったという一節を読んだことがあって、これは私の学生の頃の原体験に重なり、やはりビンボーな学生、若い労働者にとってトンカツはハレの日の食べ物であるという印象が強い。
ここらへんは、私より年齢の若いせいか筆者にとってトンカツの価値は、少し「軽い」もののようで

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古書街に定食の匂い漂う ー 今 柊二「定食と古本」(本の雑誌社)

編集者にして「定食研究家」である今 柊二さんの基点ともいうべき、定食と古本屋ついてのエッセイ的な紀行。
構成は

第一部 定食と古本の旅

 神保町定食 三十六店定食めぐりの巻
 東京あの街この街 思い出の古書店と定食
 千葉三都市ブックオフめぐり
 札幌古本道中
 盛岡・函館古本屋叙景
 関西古本三都物語
 宮崎古書とチキン南蛮の旅
第二部 定食と古本と私
 古本人生・黎明編
 定食と古本のほうへ
で、神保町をはじめ古書街めぐりとその街の特色ある定食屋の数々。
学生やサラリーマン(ビジネスマンではないですよ。もっと泥臭いところを抱えた「サラリーマン」。)が多い街には、良質の定食屋が多いというのは一種の定理のようなものだが、本書を読むと、古くからある古書街だけでなく、古書店の近くには、良い定食屋があるというのもかなり確率の高いもののようだ。おそらくは、街の滞在時間の長さと、それと比例しての外食人口の高さ、また食欲の旺盛さが定食屋を育てるのだろう(古書街を出物を探してブラつくには体力がないと無理だし、買い物後には食欲もでるよね)。
で、今さんの定食本で、なんとも笑みがこぼれてしまうのは、当然、定食の大盛り。例えば、神保町「さぼうる2」のエビピラフセットの
具は、エビ、玉子、玉ねぎ、そしてマッシュルーム。とてもよく炒めてあって、食べているとホカホカと素朴に美味しい。ご飯のなかには、ときどきショッパイかたまりがあって、それが味のメリハリとなってさらにおいしいのだった。そしてサラダの存在も大事。エビピラフは味の変化があまりないので、ときどきレタスなどを食べて気分を一新するために貴重なのだった。サラダを食べつつガシガシとピラフを食べ続ける。いやあピラフは「勢い」がうまいのですよ

 

「神田餃子屋本店」のレバにら定食に餃子が三個セットになった半餃子セット
 
まずはスープを飲む。これは普通の中華スープ。続けてレバにら。ものすごいボリューム。レバー、にら、もやし、玉ねぎ、キクラゲが入っている。
早速、食べると、レバーしっとり、にらでパワー満タン、もやし、玉ねぎサクサクという感じで激しくおかず力があるので平皿のご飯をパクパク食べていく。味付けもなかなかバランスが良くていいね。おかずのほうが勢力が大きいので、ご飯を控えめに食べないとね

 

といったあたりには、思わず生唾を飲み込んでしまう。

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神奈川に「美味いもの」あり ー 今 柊二「かながわ定食紀行」

定食ものでおなじみの今 柊二さんが「かながわ新聞」に連載した、主に横浜、鎌倉、横須賀と言った神奈川の定食に大阪版トルコライスについて記した食べ物紀行。
定食屋というのは会社、大学、学校があって人の動きが多く、しかも昼食を持ち歩かない、しかも出入り自由といったところで進化するもので、たとえば
、いくら人が多くても工場や軍隊といったところでは発達するものであろう。
そんな意味で、首都圏、関西圏が一番のの適地と言っていいのだが、首都圏でも東京圏ではなく神奈川というところでの「定食」をとりあげたのが目の付け所の面白さといったところか。
そして、神奈川というベッドタウンでもありビジネス街でもあり、といった街の性格が定食屋にも現れているようで、東京の定食屋に比べて高校生からビジネスマン、街のおっちゃん、おばちゃんまで客層が多様で、しかも、結構アットホームのような印象を受ける定食屋の数々が、これでもか、という具合に出てくるので、一軒、一軒、読んでいくのが妙に楽しい
今柊二氏は、とにかく大盛り、ご飯・味噌汁おかわり可能というのが大好きというのが印象で、その辺は
・・デ、デカい、おかずが!スパサラダなどおまけ付きだし。まずは野菜炒めを食べる。おお、イカ、アサリ、エビたっぷり!ほどよい塩下限とキャベツなど野菜のサクサク感でご飯が進むなあ。(上州屋「サクサク野菜炒め ススムご飯」)
 
焼き鳥は塩かタレか選べるが、やはりおかず力が強いタレにしよう。注文を取りに来たお姉さんにそう頼むと、「大盛りにしますか?値段は同じですから」とうれしいことを言ってくれたので力強く頷いた
(とり忠「焼き鳥とご飯のハーモニー」)
 
「おまちどうさま」のお姉さんの言葉とともに、イカマグロ丼登場。マグロがどっさり、イカもどっさり、さらにはイクラも載っているという親切設計
(櫻や「イカとマグロの嵐のうまさ」)
といったところに如実に現れていて、
テレビを見つつぼんやり待っていると焼き肉別盛り登場。・・・こ、これは!ご飯が山のようにそびえ立っている!・・・こういう大盛りは重力の関係上、下に行くほどご飯の密度が高くなり苦しくなるのだ。ゆえに丼の上半分を食べたからといっって油断してはいけないのだ
(麻釉「伊勢原にて”大山もり”に登頂成功」)
 
まもなくランチ登場・・・・スゴいボリューム。大きなチキンカツ二個とシッポのないエビフライ三顧がお皿の上に並んでいる。付け合せはキャベツとスパ、そしてマヨネーズだ。まずはカツにソースをドドドとかけて、フォークを刺そうと・・硬い!ガギンガギンに揚がっている。ナイフで切って口に入れると、チキンの肉汁が口の中に・・・
(イタリーノ「「この味、この値段」満員も納得」)
というあたりには、まさに定食好き、いや「大盛り」の定食好きの面目躍如といったところ。

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男は黙って「立ち食い蕎麦」 ー 今 柊二「立ちそば大全」

「蕎麦」というと作り方から「手打ちで、こう捏ねて、水がどうこう」とか「石臼で挽いて」云々とか、「”もり”か”かけ”のみで、しかももりそばをたぐる時、つけ汁にはそばの端だけをちょっとだけつけてすするんだ」とかまあ、あれこれ七面倒臭いことが多くて、あまり得意ではないのだが、この本のように、高級名店、高級老舗は放っておいて、「立ちそば」に絞ったほうがいっそ清々しくて良い。
構成は
第1章 山手線1周立ちそば巡り
第2章 7大チェーン食べあるき
第3章 私鉄そばの旅
第4章 激戦区食べ比べ 新宿VS新橋
第5章 日本全国たちそば紀行
となっていて、まずは立ちそばの大潮流ともいえる「駅そば」から始まって、仕事場近くの立ちそば、仕事場からちょっと離れた自宅近くの立ちそば、と流れていき、そば激戦区の名店比べ、日本全国のたちそばへと展開していく。ただ、日本全国とはいっても、「そば」という麺の特殊性、おまけに立ちそばという特殊性ゆえか、札幌、中京圏、関東圏が中心になるのはいたしかたないところか。
そして、もりそば、かけそばといった蕎麦単体での注文はけして主流ではなく、たいていは天ぷら系などのトッピングや稲荷寿司、おにぎり、丼といったセット物の記述が多いのも、B級あるいは庶民系の面目躍如といったところであろう。
そういったところは蕎麦の美味さの表現でも現れていて、肩肘張った「「挽き方」「打ち方」談義はかけらもないのも特徴で、例えば、天ぷら系の蕎麦では
きつね一枚と天かすもしくは揚げ玉が入っている。麺はいつものようにシコシコ系でとてもおいしい。さらに天かすがおつゆに溶けてきて、トロトロとなり、ネギのシャリシャリ感と相俟って得も言えないハーモニーを奏でている。・・さらに合間に食べるお揚げの歯応えのある甘さが味の完成度をより一層高めている。
(P58 目白「車」きつね小たぬきそば)
ちくわ天というのもホント摩訶不思議な食べ物で、加工食品(練り物)をさらにフライにして揚げているわけだが、小麦粉がつき、青海苔がまぶされることによって、磯の香りが漂うとてもおいしい食べ物に変身するのだった
 
かくして、麺を食べ、ちくわ天をかじりつつ食べ進んでいくと、汁に微妙な変化がでてきた。おつゆにコクが出てきてどんどんおいしくなってきたのだ。
          (P73〜 駒込「そば駒」ちくわ天そば)
といった感じで、蕎麦のつゆに天ぷらの油がじゅくじゅく溶けていく旨さには、私も激しく同意するところ。おまけに、蕎麦通であれば、もっと気取った旨さ表現をするところを
まずは薬味をつけ汁に入れて、ズズズッと一口食べる。ツルツルシコシコ系の茹で立てのおいしさ。・・・つけ汁の濃さも丁度よい。どんどん食べて、つけ汁が減ってくるとフィニッシュとして、そば湯を投入。最初のそば湯はちょっと濃い目。半分くらい飲んでまたそば湯を注ぐ・・。と繰り返すとどんどん薄くなるが、そば湯の素朴な甘さで体が温まるのであった。(P91 御徒町「かめや」もりそば)
といった感じで、いなしてみせるのは見事な技。
さて、通勤客の多いところに立ちそばが栄える、というのはある種、鉄板の繁栄原理で、
そして具の厚揚げを。うわっ、こりゃ熱々だよと、かじって驚く。そのためゆっくりと食べると、店の外でどんどん東京行きの電車がやって来る。人々は電車が来るタイミングに合わせて店を出て行くけど、私は八王子方面だから大丈夫だとまだ熱い厚揚げをまだ熱い厚揚げをまた少しかじったのだった。
(P199 東京・立川「奥多摩そば」おでんそば)

といったところにビジネスの慌ただしさを、ちょっと和らげてくれる「立ちそば」の魅力を示していると思うのだが、如何であろうか。

定食めぐり、あちこち ー 今 柊二「旨い定食 途中下車」(光文社新書)

食物記あるいはB級グルメ本は、旅本あるいは旅ブログに似ているというのが私の印象で、それは料理やメニューの紹介ではあるのだが、それが本当の主役ではなくて、その周辺環境である「飲食店」「街の佇まい」といったものが本当の主役で、とりわけB級路線の場合はその色合いが強いのが、バックパッカー本や貧乏旅行の沈没旅などに似ているのかもしれない。
そうした貧乏旅行のライター名書き手といえば下川裕二さん、たかのてるこさん、蔵前仁一さんなどなどがでてくるのだが、B級グルメ本ではと言って挙げられる一人が、本書の筆者である今柊二氏であることは間違いないだろう。
で、本書は筆者お得意のジャンルである「定食」しかも横浜、東京の首都圏から関西、札幌の鉄道沿線の「定食屋」というなんとも豪華な舞台仕掛けである。
とりあげられる路線は
東急東横線・・渋谷、並木橋、学芸大学、元住吉、菊名、新太田町、桜木街
東急大井町線・・大井町、旗の台、大岡山、自由が丘
京浜急行・・国際線ターミナル、新逗子、南太田、生麦、蒲田、品川
京王電鉄・・新宿追分、笹塚、聖蹟桜ケ丘、京王城之内、渋谷、明大前、吉祥寺
西武鉄道・・西部新宿、武蔵関、上石神井、椎名町、江古田、国分寺
などなど(阪急電鉄、札幌市電、函館市電、東急世田谷線、阪堺電気軌道もラインナップされているのだが、ちょっと省略。読みたい人は本書で)
出演する定食は「トンテキ定食」「チキンカツ定食」「肉ニラ玉子炒め定食」といったご飯+味噌汁+おかずという定食のレギュラーから「カレーとしな蕎麦セット」「ネギトロ丼セット」といった曲者系から、「ポラタセット」「芋ようかん」といった反則技まで多士済済である。
で、その演技というと、渋谷「東京トンテキ」のトンテキ定食のくだりでは
つづけてトンテキ。さすがは200グラムあるだけあって大きいね。黒っぽいタレがかかっていて、たっぷりのキャベツともやしも添えられている。・・肉を切って頬張ると、豚肉の油ギッシュなパワーとタレの力強さ、さらに添えられたガーリックチップで目を見開くほどのおいしさ。「kりゃたまんないね」と思いつつ、コメをバババと食べる。
といった具合で、乙にすました上品さは微塵もなく、ただただ「定食」の庶民的な魅力が伝わってくる文体である。
総じて、「定食」というものは人口の多いところ、それも勤め人や学生といった、懐具合はちょっと寂しいが食欲は旺盛といった人の多いところで磨きがかかるもので、その意味で本書で取り上げているところは磨き上げられる環境抜群といったところだろう。沿線の住人ではないのだが、出張時の重要情報としてチェックしておかねば、と思う食堂の定食情報満載である。