日本の「定食文化」が元気なら日本経済も大丈夫 ー 今 柊二「ニッポン定食散歩」(竹書房)

ミシュランガイドの日本版に近くの店が掲載されたなどなど、TV番組や雑誌でもグルメ系の番組や特集の人気は衰えるところをしらないのだが、この美食ブームは、景気の良し悪しに左右される、とても移り気な感じがしている。
これに対し、限られた時間と限られた予算で、できるだけ、大盛りで美味なものを探す「定食愛」は、いつの時代でも色褪せない不動のものであろう。
そんな「定食愛」に突き動かされるように、日本全国の「定食」を食べ歩き、秀逸な定食をレビューしてくれる今柊二さんによる「定食ニッポン」の続編ともいえるのが本書である。

【構成は】

はじめに「定食・散歩でおいしさ倍増」
第1章 山手線一周 定食ぶらぶら散歩
第2章 何度でも通いたい!ワクワク洋食巡り
第3章 みんな大好き生姜焼き定食
第4章 安定の美味しさ チェーン系定食屋&中華屋
第5章 北から南へ定食漫遊 全国食べ歩き
第6章 ステキな一杯を求めて 立ちそば巡礼は続くよ
おわりに「定食と音楽」

となっていて、まずは「定食ニッポン」が刊行されてから10周年を記念しての山手線一周の定食旅に始まり、「洋食ウキウキ」(中公新書ラクレ)の未収録店、定食メニューの”大定番”生姜焼き定食の名店、安価で安定した味の庶民の味方・チェーン店、北は札幌から長崎までの全国の定食の名店が紹介される、という、まあ定番の定食行脚が展開されている。

 

【注目ポイント】

こうしグルメ系の本でよくあるのは、値段の高さや素材の高級さ、あるいは料理人の華々しい経歴といったものを自慢しているようなものが多いのだが、筆者の本は、庶民的で、かつ元気のいい「定食」の数々が、飾り気なく大量に出てくる。

例えば、「第1章 山手線一周 定食ぶらぶら散歩」の「キッチンABC(大塚)」の「豚からし焼肉」の定食は

それにしても、他の客が食べている様々な料理もおいしそうだなと思っていると、ライス、豚汁、そしてメインが登場。こりゃご飯もおかずも大盛りで、実にステキ。黒胡椒にまみれた豚肉の薄切りがたっぷり。これはもう見ただけで絶対おいしいと確信。はやる気持ちを抑えつつ、まずは豚汁から。豚肉、ゴボウ、豆腐、ニンジンなど具がたっぷり・野菜と肉の旨みが汁に溶けていて、やや甘めの奥深い味わい・・・ああ、これを飲んだだけで、ものすごく幸せな気持ちになって。
続けてからし焼肉。コーンがトッピングされたキャベツサラダにドレッシングをかけてから肉を食べる。薄切り肉は予想通り柔らかく、黒胡椒がピリリとスパイシーで食欲爆発。受け止めるご飯はやや硬めで、量もたっぷりで実にうれしいね。柔らかくておかず力溢れる肉と白米、そしてうまい汁。これはもう男がいつも食べたい食事です。

といった感じで、読むだけで豚の焼き肉の肉汁の熱々が想像され、さすが、日本の経済の中心である東京の「山手線沿い」の、定食パワーはすごいな、と感嘆させる。

そして、「第3章 みんな大好き生姜焼き定食」では、通常の定食屋の生姜焼きに飽き足らず、焼き鳥屋、中華料理屋、うなぎ屋、とんかつ屋、ダーツバー、学食といったあらゆるジャンルの店の生姜焼きが取り上げられていて、例えば、中華料理屋「兆楽(東京・渋谷)」の生姜焼きは

これが絵に描いたような生姜焼き。輪切りのタマネギ、豚肉、千切りキャベツ、マヨネーズもしっかりついている。このマヨの存在がとても大事ですね。
ではまずウープから、結構キック力にある塩味、飲んだ瞬間「うまい」と思わせる強い味。繁華街の中華はパンチが大事だからな。ではメインの生姜焼き。肉hあ比較的おおぶりで、色の濃いタレはやや辛さが際立つ。辛いのでご飯が進む(まあ私はいつもご飯が進むのですがね)。さらに、タマネギが輪切りなので、甘みが出てきて、タレの辛味と合わさっていいハーモニー。辛さと甘さのバランスが感が絶妙だな。時折、肉にマヨネーズをつけて食べると味がこってりまろやかになる。

といった感じで、「豚肉の生姜焼き」というのは、定食屋を超えて、ほとんどのジャンルの店で出される「国民食」となっているのだな、と思いあたるのである。

また、東京ばかりでなく、地方の「定食屋」も元気なところは随所にあって、例えば「ドジャース食堂(秋田県)」の「焼きそば唐揚げ定食(本当は「焼きそば+唐揚げ+サービスのライス」なんだけどね)」は

まずは中華スープから、タマネギ、ニンジンの千切りが入っていて、故障が効いていておいしい、味噌汁も、こちらはわかめが具のオーソドックスな味わい。

ではお待ちかねの焼きそば。豚肉、キャベツ、もやし、タマネギ、ニンジンもたっぷり入っていて、太麺でソースが豊かな感じだ。ゴシゴシfトメント官能的に絡みつくソースが最高。・・ご飯もこれまたいい炊き加減。さすがは米どころ、秋田。軽めによそったけれど、あっという間になくなってしまったよ。お代わりをもらおう。・・・その前に唐揚げを食べよう。これもざっくりと揚がっていて、いい唐揚げ。キャベツもたっぷり付いている。

という出来で、これまた地方の「定食力」も捨てたもんじゃないと元気づけられるのである。

【レビュアーから一言】

出典はあきらかでないのだが、「グルメ(美食家)はグルマン(大食漢)でないといけない」という言葉が当方の頭の中には残っていて、鳥の餌ほどの量をちょっとつまんで、美味いの不味いのといっているグルメたちの言説は信用がならない気がしている。
その点、著者の今柊二さんは、たいていの場合、ご飯は「大盛り」で、つけ合わせの野菜から、デザートまで残さない食べ方をされているので、これだけで、その味の評価の確かさを信用してもいいぐらいなのである。
そして、とりあげるのが「ご飯+メインディッシュ+汁」といったがっちりとしたもので、とても実直な料理ばかりなのも、非常の好印象。「定食文化」が元気なうちは、働くビジネスマンが元気な証拠であるし、日本経済もまだまだ粘り腰はありますよ、と思わせるのであった。

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