日本人の行動性向に「言霊」という概念を持ち込んで、当方的には「ほーっ」と稀代の理論を教えもらったような気がしていたのだが、「江戸幕府」という日本が世界に誇る安定政権が「安定」していた仕掛けと、それが日本の現代にまでもたらした悪癖といったところまで論及しているのが本書。
構成は
第1章 幕藩体制と危機管理 ー 徳川家康のグランドデザイン
なぜ「徳川三百年の泰平」は到来したのか
なぜ薩長の江戸攻略は不可能だったのか
なぜ水戸徳川家は「天下の副将軍」と言われたのか
第2章 平和崩壊への序章 ー 朱子学という劇薬の作用
なぜ幕府は最後まで開国を渋ったのか
なぜ田沼政治を「改革」と呼ばないのか
第3章 黒船とは何だったのか ー 幕府と薩長土肥の明暗を分けたもの
なぜ日露友好は夢物語に終わったのか
なぜ幕府は黒船の問題を先送りにしたのか
なぜアメリカは日本との通商を熱望したのか
なぜ朱子学では外国から学ぶことが悪なのか
第4章 ペリーが来た ー 連鎖する日本人の空理空論
なぜ「ペリーは突然やってきた」が歴史常識になったのか
なぜ攘夷派は目の前の現実を無視し続けたのか
なぜ明治革命ではなく明治維新なのか
となっているが、筆者の「今の◯◯」はけしからん編まで読みたい人は最後まで、「日本人の心理構造にはこんなからくりが」ってなとこで良い人は第3章ぐらいまで、といったところか。
で、本書のキーワードは「危機管理」と「朱子学」
最初の「危機管理」は徳川家康が、徳川幕府が攻め滅ぼされないために講じた「ハード」の側面で、仮想的である薩摩、長州をはじめとした西国大名から、江戸を守り抜く、熊本城、小倉城、広島城、そして駿府。脱出先としての甲州といった武張った防衛論が語られるのが第1章である。「戦国BASARA」的な活劇が本旨という人はこのあたりで満足かもしれない。
ただ、本書の真骨頂は第2章からと、当方は思っていて、家康が幕府防衛のためにとった最終ウェポンである「朱子学」が語られるところは、「ほうっ」と思わず嘆息する。
というのも、徳川幕府がその体制維持のため、「士農工商」という身分制度を今日こに保ち、上下の関係の厳しい道徳を維持したことや、水戸徳川家が勤王家であった理由などは、いろんなところで論説があるのだが、その身分制度を維持する「名分論」が徳川幕府 にとって諸刃の刃となったあたりや、幕末の開国騒ぎとそれにつづく倒幕も「朱子学」がもたらした失策であったといったところは審議は別にして、歴史モノとしてはワクワクすること請け合いである。
人によって好き嫌いはあるかもしれないが、「異説」の面白さというのはそそるもんでありますな。
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