「自分商店」化ってどういうこと? — 谷本真由美「日本人の働き方の9割がヤバい件について」(PHP)

2015年8月の著作であるので、今、政府が言い出して、選挙でチャラになりそうな「働き方改革」より前の出版。最近の「働き方」に関する議論は、ネットワーキング、在宅勤務といった「働き方のツール」に関するものが大半で、「働き方の理念」「働き方のスタイル」を扱うものが少ないように思うのだが、さすが辛口の論客の谷本真由美氏は真っ向からこのあたりに論陣をはるのが流石というところ。
 
構成は
 
第1章 働き方に悩みまくる日本のサラリーマン
第2章 あなたが悩むのはニッポンの「働き仕組み」がおかしいから
第3章 働き方の激変はグローバルな潮流
第4章 生き残りたければ「自分商店」を目指せ
第5章 来るべき時代に備えよ
 
となっているのだが、イギリス在住というアドバンスを活かして
イギリスでも1980年代に20代〜30代だった人々というのはバブル世代です。(P134 )
当時のサラリーマンはローリスク、ローリターンで、現在のように、ホワイトカラーの仕事までもが海外に外注されるとは夢にも思っていませんでした。また、サッチャー改革があったとはいえ、今よりも、製造業の仕事が多く、ロースキルの若い人でも安定した雇用にありつけた時代でした(P134)
と今の日本人の働き方だけが特殊だったのではなく、かなりの国に共通の働き方であったことを看破しながら、
親がバブル世代の子供たちは、誰もが「自分商店」、つまり、組織に頼らずに、知識やスキルを売りに、不安定な一雇用の中で生きていかなければならない世界で大人になりました。
彼らの競争相手は他国の人々であり、圏内の人々とだけ競争していればよかった時代は過ぎてしまったのです。
と日本の労働者の未来を予言するのであるが、その働き方の姿は
OECDの報告書によれば、多くの先進国で、労働規制の改革により、レイオフが簡単になったり、非正規雇用の社員を雇いやすくなったりしています。一方で、働く人の流動性が高まったので、能力がある人は以前より高収入を得るようになっています。
つまり、組織に依存するのではなく、スキルを売りにする個人が、自分の都合に合わせて、様々な組織を渡り歩いて働く、という形態が増えているのです。(P188)
というスタイルであるらしい。
もっとも、このスタイル、氏が指摘するように
一方で、日本やインドのようなハイコンテクストカルチャーは、その反対です。
この文化圏では、社会の基本単位は集団です。
ハイコンテクストとは、同じ集団の中であれば、はっきりとものを言わなくても意味が通じることを指します。
つまり、それだけ、集団の中における個人の距離が近いのです。
このような文化閣では、個人は、その人の考え方よりも、どこに所属するかで判断されます
といった社会で、スムーズに浸透するかどうかは、今の「働き方」議論が「働くツール」や「働く場所(しかも会社か家か)」の議論が中心となっている現状をみると「黒船」的にどっと変化の波に襲われるという状況が一番ありうるかもしれない。
まあ、筆者によれば
働く人の自分商店化は、50年前の状態に回帰しただけであり、そもそも、終身届用や働く人の多くが、正社員として、新卒で一括採用される仕組みの方が異常であった、ということがいえるでしょう。
たかだか50年程度しか歴史のない仕組みが、「日本固有の雇用体系」といえるかどうかは疑わしいですし、戦後の高度成長期の産業構造に合わせて、最適化された雇用体系にすぎなかったというわけです
であるらしいから、ここらで無理やりにでも自分なりに意識を変えて、来そうな未来に備えたほうがよろしいかもしれんですね。

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