グループウェアの草分けであるIT企業「サイボウズ」が培い蓄積したビジネスノウハウを提供する社内のコンサルティングサービス部門による「チームワークのノウハウ」について解説しているのが本書『サイボウズチームワーク総研「「わがまま」がチームを強くする」(朝日新聞出版)』
一般にIT企業というと、社員個人個人が自分のスキルを売り物に転職を重ねるイメージが強いのだが、サイボウズの場合も15年前は28%、およそ3割の離職率であったらしい。それが現在が約4%に減少しているようで、この間の、生産性を上げながら、チームとしてまとまっていくノウハウが記されています。
【構成と注目ポイント】
構成は
はじめにー「わがまま」は変革のきっかけ
第1章 一人ひとりの「わがまま」がチームを強くする
第2章 チームで「わがまま」を言う練習をしよう
第3章 みんなの「わがまま」の交通整理をしよう
第4章 たくさんの「わがまま」で石垣のような組織をつくろう
おわりにーあなたの「わがまま」は誰かを救う
となっていて、最初の「はじめに」のところのサイボウズの青野社長の言によれば、
「わがままは『楽しく働くためのヒント』であり、『社kをを変えるかもしれないアイデア』だと考えています。
むしろ「わがままを引き出すから、競争力がつく」のです
と、一般的には否定的なトーンで語られる「わがまま」を肯定的なトーンでとらえていることがまず注目ポイントですね。
というのも本書によれば「わがまま」というのは「わがままがどんどん出せる会社になると、一人ひとりのアイデアによって、ビジネスモデルの変化までもが勝手につくられていきます」ということで、組織が活性化していく、時代のトレンドをとらえて成長していく「燃料」のように捉えられているようです。
もちろん、「わがままを言う」といっても何でもかんでも思いついたままをいえばいいというものではなく、「自分のわがままが組織に貢献するかどうか」や「わがままの判断基準は企業理念」ということなので、そこのところは経営者も社員の方もしっかり認識しておきましょう。
で、当方が思うに、この「わがままを言う」ことを積極的に認めるメリットは、仕事の進め方の中にソフトウェア開発でいわれる「アジャイル型」つまり「開発の途中で仕様や設計の変更があることを前提に、クライアントと何度もすり合わせや検証を重ねながら仕事を進めるやり方」を導入することができるということではないでしょうか。
このあたりは、本書の著者の経営するIT企業よりも、従来型に企業のほうが、組織の意思決定の速度をあげて、大失敗のリスクを減らすという意味で注目しておいた方がいいと思うところです。
特に、本書の後半部分のところででてくる「組織を構成する一人ひとりのわがままを徹底的にオープンにしておくことが大切」であるとか
繰り返しになりますが、情報共有の徹底こそが公明正大な組織を可能にするからです。
リーダーが最もやってはいけにことは、情報を隠すことです。
といったあたりには、耳の痛い組織管理者もいるのではないでしょうか。
とはいうものの、では、みんなで決めればそれでいいだ、という短絡的なことはダメで、
多数決はいかにも民主的で、多くの人の幸せに対応しているように思えますが、実は一人ひとりに幸せには対応できません。
特にマイノリティ(社会的少数者)の要求(わがまま)の採用にはつながりにくい仕組みです。
また、多数決で決められたことがひとり歩きすると、先に述べた前例や既存のルースになりかねないという恐れもあります
ということであるので注意してくださいね。
【レビュアーからひと言】
COVID-19の感染拡大の影響で、在宅勤務であるとか、オンライン学習、あるいはリモートワークといった働き方や研修・学習方法が、突然に身近なものになってきました。
しかし、その技術的な変化が突然すぎて、ワークスタイルや学習スタイルの方が追い付いていないというのが実態ではないでしょうか。
フツーの企業の総務・人事部門の人が、こういうワークスタイルをいかに無理なく導入することができるか、こうした先端的なIT企業の成功と失敗の軌跡をうまく利用していくためにおさえておくべき一冊であります。
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