『会社は自分の乗る「舟」の一つ』と割り切ったら「会社人間」も気が軽くなる — 江上 剛「会社という病」(講談社+α文庫)

当方も昔ながらの「会社人間」、悪口で言うと「社畜」の部類なのだが、定年が近くなると、出世の限界も見えてくるし、それにあわせて、「会社」への精神的な立ち位置も、少々「醒めて」きている。
そんな気分の時に、自分と会社の関係を、ちょっと俯瞰した、斜め目線で考えさせてくれるのが本書。
 
構成は
 
会社は病んでいる
1 人事という病ーそんなに偉いか東大卒
2 出世という病ー昇進が常に幸せとは限らない
3 派閥という病ー持病として付き合うしかない
4 上司という病ーバカ上司からは逃げろ。または大声で戦え
5 左遷という病ー不本意な移動から開ける運もある
6 会議という病ーこの世の会議の9割はムダである(たぶん)
7 残業という病ーそれは上司の無能のバロメーター
8 現場無視という病ーニセモノの「現場重視」に要注意
9 就活という病ー諸悪の根源は「新卒優先」
10 定年という病ー経営者にこそ厳格な定年制を
11 広報不在という病ー「真の仕事」をするほど上から嫌われる役回り
12 成果主義という病ー結局は経営者の哲学が有るか無いかだ
13 根回しという病ー一見、不毛なようでいて意外な利点も 
14 社長という病ー会社を生かすも殺すもこの人次第
15 部課長という病ー出生ではなく仕事と向き合えるかが勝負
16 ハラスメントという病
   ー自省するしか対策のない「完全なビョーキ」
17 取締役という病ー社長に異論を言えないような役員は失格だ
18 同期という病ー時には同志、時には憎い敵
19 創業者という病ーすべてを失う覚悟もなしに起業するな
20 先輩という病ー地位が逆転する時に歪みが起こる
21 営業という病
   ーこんなにクリエイティブな仕事はない(でも評価は低い)
22 経営企画という病
   ーこの時代、本当に「経営を企画」なんてできるのか?
23 査定という病ー会社を「人件費削減病」に陥れる元凶だ
24 数字という病
   ー数字を過信するものは、いつか数字に騙される
25 給料という病ー永遠に解決されることのない「適正金額」
26 新規事業という病ー多角経営は日本企業に向いているのか
27 ボーナスという病ー短期的な利益だけで支給額を決めるな
28 経理という病ー経理部は会社の実態を正確に映す鏡
29 計画値という病
   ー作りっぱなしでPDCAを回せない日本企業の悪習
 
となっていて、かなりのボリュームの目次なのだが、1項目は4ページから6ページぐらいの量であるし、それぞれの項目が独立しているので、興味のあるところを拾い読みしても良い造りになっている。
 
当方的に気になったところをピックアップすると、「出世」についての
 
人生を棒に振るぐらいなら、出世なんかしなくてもいいじゃないか。出世のために必要な不正も、不公平な人事で出世板東大卒にまかせておけばいい。(P23)
 
人事は不公平、出世も不公平。それでいいじゃないか。
会社は一時的な舟、人生は舟を降りてからも十分に長い。会社にいるうちに自分の人生を充実させることを考え、準備しておこう。会社を活用して人生を豊かにすればいいのだ。(P24)
 
であったり、「左遷」についての
 
私の好きな言葉に「人事に左遷なし」というものがある。・・・「人間(じんかん)到るところに青山あり」(P62)
 
考えてみれば、この二つの左遷が「作家・江上剛」を作ったともいえる。私はこの左遷を通じ、会社組織や人間の裏側を見る観察眼を磨き、また支店長時代に作家となるための文章力の基礎を身につける時間を得た(P66)
 
銀行が「適材適所」とい言うときは、単に行内で十分な人材を育てていなかっただけで、そのツケを一部の人間に押し付けているだけであることが多い(P70)
 
や、「定年」についての
 
定年とは、なかなか辞め時を自分で判断できない愚かな組織人にとって、辞め時を教えてくれる重宝なシステムでもあるのだ(P114)
 
「定年になったら、あれをしよう、これをしよう」と義務のように考えるのは真面目な会社員であったからだ。
そんな義務は必要ないんだ。天から人生を二度楽しむチャンスを与えられたと思えばいいだけだ。
 
定年になってから考えても構わないではないか。(P118)
 
といったあたりは、会社人生も終わりのほうになって、不遇感を感じていたり、一線から退くような寂寥感を持ち始めた時に、一種の「あっけらかん」とした気持ちにさせてくれるようで好きな箇所である。
 
当方のように定年が近くなった「会社人間」は、多かれ少なかれ、「空洞感」を感じている方が多いと思う。本書に「会社は一時的な舟、人生は舟を降りてからも十分に長い。」といった気持ちで、会社をちょっと横目でみていくのも「あり」ではないでしょうか。
 

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