サイコパスは珍しくない ー 中野信子「サイコパス」(文春新書)

今までは冷酷で残虐な殺人犯などの病理を表していた「サイコパス」が、大企業のCEOや弁護士、外科医といったいわゆる「リーダー」層にもいるんだとしてセンセーショナルな話題を呼んだのが本書『中野信子「サイコパス」(文春新書)』である。

【構成は】

はじめに 脳科学が明らかにする「あなたの隣のサイコパス」
第1章 サイコパスの心理的・身体的特徴
 1 サイコパス事件簿
 2 サイコパスの心理的・身体的特徴とは?
第2章 サイコパスの脳
 1 サイコパスの脳の知覚能力、学習脳力
 2 「勝ち組サイコパス」と「負け組サイコパス」
第3章 サイコパスはいかにして発見されたか
第4章 サイコパスと進化
第5章 現代に生きるサイコパス
第6章 サイコパスかもしれないあなたに

となっていて、第1章から第3章までが「サイコパス」の犯罪歴や生物学的な特徴など、第4章は「サイコパス」という生物学的特徴がなぜ淘汰されなかったのか、第5章が「サイコパス」ではないかと思っている人への人生指導といった構成である。

【注目ポイント】

サイコパスの生物学的な特徴、例えば

「サイコパスは扁桃体の活動が低い」ということは、恐怖や不安など、動物が本来持っている基本的な情動の働きが弱い、ということです

といったことや、サイコパスにも「勝ち組サイコパス」と「負け組サイコパス」がいて、「サイコパスは最近になって急に現れてきたそんざいではありません。「サイコパス」という名称がなかっただけで、昔からそれにあたる人たちはいたのです」や」「歴史上の人物には、排除されずにのし上がった勝ち組サイコパスだと思われる人物も散見されます。あくまで個人的な見解であり、脳機能画像やDNAなどの証拠が存在するわけではありませんが、日本ならば、織田信長がその典型といえそうです。」という話など興味深いものがある。

だが、このレビューで取り上げておきたいのは、いいとこ取りをして、組織を食い荒らしかねないサイコパスは、非サイコパスの人間にとって非常に厄介な存在であるのも関わらず、なぜ生き残ってきたのかというところ。

このあたり、本書では

人類という種の繁栄のためには必要だったーそういう個体が一定数いたほうが、マクロな視点から見れば、生存に有利なこともあったのかもしれません。

として、戦場であるとか、前人未到な地への探検や危険物の処理などといった極限の状況の中で、サイコパスが有効に働けたといったことや

戦争や殺人も、時代を遡れば遡るほどに、短にあったのです。人が傷つくことも死ぬことも、理不尽な目に逢うことも、今よりずっと多かった環境においては、サイコパスの暴力性はそれほど目立たなかったのかもしれません。・・・むしろ争いの渦中にあった時代のほうが長いわけです。

と、今までの歴史環境がけして「サイコパス」を根絶する方向にはなかったことを示しているのだが、もう少し乗り出すと、サイコパスの存在が、特定の場合の組織の再生とか復活とかに寄与していることもあったのでは、思った次第。

例えば、本書でサイコパスでは、と言われている織田信長にしても、中世から近代へ至るための大破壊を行なったところで、非サイコパスであったろう明智光秀によって攻め滅ぼされる、といった図式で、考えようによっては、サイコパスが非サイコパスが中心の集団意思によって使われたとも言っていいのかもしれない。

【まとめ】

「サイコパス」というと特殊な存在というように思うのだが、本書によると、実は100人に1人存在しているようで、けして少ないとは言えない形質である。本書も結びで「好むと好まざるとにかかわらず、サイコパスとは共存してゆく水戸を模索するのが人類にとって最善の選択であると、私は考えます」と結んでいる。
歴史と時間による淘汰を除いては、こうした形質の機械的な排除はしてはいかんのでしょうね。

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