「日向子ちゃん、頑張れ」と言っているうちに「謎解き」のまっただ中 ー 大崎 梢「スクープのたまご」(文春文庫)

大崎梢さんのミステリーは、書店員の経験があるせいか、「成風堂書店」シリーズなが出世作ではあるのだが、本屋さん以外にも出版社営業や少女雑誌編集者であるとか、本に周辺の物語が多い。

本作「スクープの卵」は、少女編集者を主人公にした「プリティが多すぎる」の主人公が、少女雑誌に配属前にいた「週刊千石」に配属された入社2年目の女子社員・信田日向子が主人公である。

で、この主人公の日向子は、ちびでメガネでくせ毛で、冴えない顔立ち、高田馬場にある大学を出たのだが、アルバイト専念で優雅な学生生活とは全く縁がなかった、という、きらびやかな「マスコミ」の世界とはちょっと縁遠い女性であるあたりがなんとも親近感が持てますね。

当方が推測するに、舞台の「週刊千石」は親企業の千石社が文芸の出版社として老舗というところから、「週刊文春」、ライバルの「週刊真実」は「週刊新潮」と見立てたのだがどうであろうか。

【収録とあらすじ】

収録は

1話 取材のいろは

2話 タレコミの精度

3話 昼も夜も朝も

4話 あなたに聞きたい

5話 そっと潜って

最終話 正義ではなく

となっていて、ひとつひとつが日向子が一人前になっていく単話でも楽しめるつくるなのだが、全体として、一つの事件の謎を解くといった二重構成となっている。

まず第1話は、日向子の「週刊千石」のデビュー。山奥にある犯人が世話になっていた保護司の集落に取材生かされ、バスがなくなって見ず知らずの村の人の家に泊めてもらった、行方不明の女子高校生のアルバイト先をつきとめるために、女子高生に仮装して聞き込みしたり、と下積み生活の始まりである。

第2話は、有名アイドルのデビュー前のスキャンダル写真の売り込みの真贋を確かめる話。はじめはドギマギしていた日向子が、売り込んでくる、自称・アイドルの元恋人と対応していくうちに、話の真贋を見極めていく姿が、若い女の子が仕事で成長していく姿が見えて、なんとも応援したくなりますね。

第3話は、企業の経理部に勤務する冴えない五十すぎの男が起こした横領事件の取材に話。とはいっても、横領犯は留置所のなかなので、取材の相手は男が数千万を貢いだ女性への取材である。もちろん、どこかの喫茶店で、なんて素直なものではなく、父親の命日に墓参りにくるであろう女性への突貫取材で、寺の近くの駐車場に夜昼なく車に泊まり込む、といったかなえい過酷なものである。

そして、「けして悪いようにはしない」という悪魔の囁きで、その女性にスクープをものにしたり、その後すぐさま、若手政治家の浮気取材でラブホテルに泊まり込んだり、とどんどんたくましくなる姿に、日向子ちゃんのお父さん世代の当方は面食らってしまうんでありますよ。

第4話は、そんなこんなで一端の編集者になってきた、日向子ちゃんが自力でかちとった、アパレルメーカーの若手経営者のインタビュー。話としては、なかなか表に出てこない若手実業家に、スキャンダル報道の多い週刊誌記者が、インタビュー記事を勝ち取るまでの、はらはらする頑張りに、「日向子ちゃん、がんばれ」と応援するのだが、この話が、いつの間にか、女性の連続殺人事件の謎解きへと結びついていくのだから、作者の腕の冴えは見事なものである。

第5話は、突然に、3人の女性の連続殺人事件の取材へ突入する。話の主筋は、この被害者の一人と友人で、事件に関わる事実を何かしっている人物に会うために、婚活パーティーに潜入するもの。ところが、潜入するパーティー参加券は、その被害者が登録したものであったため、彼女がつかんでいた秘密を奪おうとする男に襲われたり、とか結構危うい目に会ったりと、急展開していくのである。

最終話は、この女性連続殺人事件の解決編。ここに至って、第1話から第5話まで、週刊千石に配属されてきて、体当たり取材で悪戦苦闘してきた、日向子ちゃんの汗と涙が一挙に実となっていくんですな。まあ、ここの詳細を書くとネタバレが過ぎるので、後は原書で確認してくださいな。

【レビュアーから一言】

はじめ読んでいくと、冴えない女の子が、週刊雑誌に配属されて、あちこちでツマヅイたり、気落ちしたりしながら一人前になったいく、雑誌編集者版「お仕事」ストーリーかな、と思えたのだが、最後のほうで、一挙にミステリーにもっていく筆者の手腕は「スゴイ」の一言。
仕事に頑張る「日向子ちゃん」を応援しているうちに、いつの間にか、謎解きの世界に引きずり込まれていますよ。

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