学校図書室にやってくる司書と書店員が解き明かす=大崎梢「27000冊のガーデン」

おそらくほとんどの人が足を踏み入れたり、本を借りたり、自習や居眠りをしたことがあるに違いないのが「学校図書室」でしょう。
神奈川県のごく普通の県立高校にある蔵書数およそ27000冊の学校図書館を舞台に、そこに持ち込まれる学校内でおきた事件の謎の数々を、そこに勤める学校司書職員とそこに本を納入している書店員が解き明かしていく図書館ミステリーが本書『大崎梢「27000冊のガーデン」(双葉社)』です。

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あらすじと注目ポイント

収録は

「放課後リーディング」
「過去と今と密室と」
「せいしょる、せいしょられる」
「クリスティにあらず」
「空を見上げて」

の五話。

まず最初のこの物語の語り手を紹介しておくと、主人公は、神奈川県立戸代原高校(通称「トヨ高」)に勤務する図書館司書の「星川駒子」という入庁七年目の女性です。
彼女はこの高校が三つ目の勤務先で、いままでに二年後の統廃合が決まっていた川崎市内の工業高校、次が偏差値も知名度も急上昇している都会地の進学校に勤務していたのですが、一年前にこの進学校でおきたあるトラブルがもとで、この「トヨ高」に異動してきたという経緯です。この戸代原高校は神奈川県北西部の架空の市「戸代原市」内の半農村部に位置する校風ものんびりした、偏差値的には中の上の進学校という立ち位置の高校なので、どこにでもある中堅進学校での図書館ミステリーと考えればいいかと思います。

第一話の「放課後リーディング」はそんな戸代原高校の図書室の午後の授業中に二年生の男子生徒がかけこんでくるところから始まります。彼はこの学校図書室の司書「星川駒子」に「このままでは殺人犯にされてしまう」と訴えてきます。

なんでも、彼はこの図書室で借りた本を読むのに、小学生の二人の弟のいる、うるさい自宅ではなく街中の静かな場所で読むことにしていたそうなのですが、昨日はその中の一つである古い廃工場の二階で読書をしていたとのこと。静かな場所なのでいつの間には居眠りをしてしまったところで、急にその二階の奥の方で誰かが争う音が聞こえ、どすんと何かが落ちることがし、怖くなってその場所を立ち去ったのですが、どうやら学校図書室から借りた本をそこに落としてしまったらしい、というのです。

たしかに翌日の新聞にはそこで転落事故がおきたことが報道されていて、その本が現場で発見されたとすれば警察がこの高校へ事情を聴きに来ることは間違いありません。しかし、幸いなことにこの本は、この高校に通う女子生徒が街で出会った見知らぬ中年男性に渡された、と図書室の届けてきてくれ、ひとまずこの男子生徒が警察に容疑者として逮捕される事態は回避できているのですが、彼が出くわした廃工場での事件の真相を、「駒子」と学校出入りの「ユーカリ書店」の書店員「針谷」が解き明かしていきます。

第二話の「過去と今と密室と」は、駒子の先輩学校司書から持ち込まれた謎解きです。

その先輩の勤務する神奈川県北西部の位置する高校では、学校図書館の活動が活発で、テーマを決めて、それに沿ったノンフィクションや小説、写真集を陳列し、テーマに合わせたデイスプレイコーナーを設けるといった凝りようなのですが、ある時、前日には何ともなかった展示が翌日、図書室の鍵を開けて入ってみると陳列していた本が落下し、安物ながら飾っていた陶器も落ちて割れているという惨状となっています。
この高校は鍵の管理や、生徒の時間外の出入りには厳しいので、夜中に忍び込んだり、図書室の朝まで潜んでいることは不可能なのですが、この発行を何の目的で、誰がやったのか、図書室の関係者への「怨恨」の線も当然想像できるところで・・という筋立てです。

駒子が出入りの書店員「針谷」に相談してみると、実は彼はその高校の出身者で、彼が在校時に10年前にも、図書室で密室騒ぎがあったとのこと。それは卒業式間際の朝、図書室の地員列棚にあった本が「十二番目の天使」「34丁目の軌跡」「百人一首のひみつ」という三冊以外全て、前後が逆に棚に差し込まれていた、という事件です。

この話を聞いた駒子は、戸代原高校の図書委員の生徒たちの知恵をかりながら、現在と10年前の二つの密室事件の謎ときに挑戦していくこととなり・・という展開です。
10年前に前後逆になっていなかった本のタイトルの「数字」と百人一首の歌番号とを符合させることで導かれる歌と事件との関連から現在と過去の事件の共通項を浮かび上がってくるとともに、10年前、封印されたある秘密が浮かび上がってくることとなります。

このほか、駒子の戸代原高校の前の赴任高で経験した黒歴史が、今になってその高校の事件へとつながっていく「せいしょる、せいしょられる」戸代原高校で最近起きている、生徒の持ち物やカバンが行方不明になり、しばらくして持ち主の生徒が行くことのない校内の場所で、「本」とともに発見されるという連続紛失物事件が発生します。その本は最初の紛失から順番に「秘密」「放課後」「火の粉」「犯人に告ぐ」なのですが、一か月前におきた利用していない部室の失火に関連しているのでしょうか・・という筋立ての「クリスティにあらず」、秋の読書週間のイベントとして、クッキング部とコラボすることになったのですが、展示する料理の一つとして、クッキング部の女子生徒の祖母の想い出となる「春雨尽くし」の出ている本と料理を再現することになるのですが、それは家庭内暴力の被害者として児相に保護され学校へ来ていない元図書委員との思いでの料理レシピでもあって、という「空を見上げて」が収録されています。

表題の「27000冊のガーデン」の「27000冊」は学校図書室の収蔵本の数だそうですが、「ガーデン」がどんな意味をみっているかは作中でヒントがあるのでぜひ見つけ出してくださいね。

レビュアーの一言

出版社ネタや図書館ネタは作者の「十八番」ともいえるものなのですが、学校図書館を舞台にしたものは、登場人物が図書館司書や学校教員、学校生徒といった限られた範囲であるにもかかわらず、学校そのものに世間の縮図がもちこまれてくるので、ふんわりとしたコージーミステリーでありながら、世間の冷たさや醜さといったものがそこかしこに忍び込んできています。

本書も例外ではなく、LGBTQや家庭内DVといった現代的な課題が登場人物にも影を落としているので、そのあたりも読み取っておきたいところですね。その意味でも、「成風堂書店」シリーズや「移動図書館」シリーズに次いで、「学校図書室」シリーズとなっていくと嬉しいですね。

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