移動図書館「めぐりん」は人々の謎を解く巡回車ー大崎梢「めぐりんと私」

神奈川県南部にある相模湾沿いの種川市の住宅街を結ぶ移動図書館車「めぐりん」を舞台に、定年後に初めて図書館業務に就いた移動図書館号の運転士・テルさんと、 新進気鋭の図書館司書・ウメちゃんをメインキャストにして、図書館車の集まってくる人々の「日常の謎」を解き明かす、図書館車コージーミステリーの第二弾が『大崎梢「めぐりんと私」(東京創元社)』です。

構成と注目ポイント

構成は

「本は峠を越えて」
「昼下がりの見つけもの」
「リボン、レース、ときどきミステリ」
「団地ラプンツェル」
「未来に向かって」

となっていて第一話の「本は峠を越えて」は、70歳を超え、「めぐりん」の運行している種川市の隣の市に住んでいたのですが、アパートの建て替えでこちら引っ越してきた老女が主人公です。彼女の生まれたのは、栃木県の山奥なのですが終戦後、県内にたった一つしかなかった図書館の蔵書を届けるため、「移動図書館車」が運行されたことに始まり、「図書館」との関わりが描かれます。

第二話の「昼下がりの見つけもの」は大学を卒業して就職した有名企業を途中退職して、今は税理士を目指して勉強中の青年が主人公。彼は、今まで住んでいたアパートを引き払い、実家で暮らしているのですが、両親は便利のいい川崎市内のマンションに住んでいて、5LDKの一戸建てに一人で住んでいます。この実家で、彼は小学校の頃に、父親がまとめて返却したはずなのに返却漏れとなっていた種川市の図書館の本を発見します。そのことを、「めぐりん」のスタッフと話していると、近所に住んでいる初老の女性から、その本が見つかったことは外ではしないほうはいい、と忠告されたり、母親にその本を見つけた話をすると突然不機嫌になり、話を打ち切ってきます。一体、その本にはどういう秘密が隠されていたのか・・・という謎解きです。今話は、第一弾での、保育園とが移動図書館を利用しようとして地元に起きたトラブルの余波みたいなところが謎解きのキーになりますね。

第三話の「リボン、レース、ときどきミステリ」は、種川市の優良企業に勤める派遣社員の女性が主人公です。彼女の勤め先の会社の近く公園は「めぐりん」の巡回コースになっていて、彼女も趣味兼副業の人形の洋服づくりに資料とかエッセイ漫画とかを借りているのですが、職場のイケメン男性から、「読書好き」と勘違いされてランチに誘われるのですが・・という筋立てです。勘違い系の「恋愛ストーリー」がなんとも「ほんわか」させてくれます。

第四話の「団地ラプンツェル」では、幼少期から学生時代にかけて仲が良かったのですが、年月の経過で疎遠になっていた二人の初老の男性が偶然、「めぐりん」を媒介にして再会するのですが、その過程で知り合った小学生の男の子たちの同級生の行方探しに巻き込まれる話です。彼らが、その同級生の住んでいたマンションの5階の部屋のベランダから、スカーフを何枚も結んでつなげた紐を使って、本やおやつを上げ下げしてた「塔の上のラプンツェル」風の遊びと一枚の紙に書かれた

「髪の毛はまだ切らない」「ぐるりとまわる」という文字と、その下の花と太陽の絵

という言葉がヒントになります。

第五話の「未来に向かって」は、種川市の中央図書館本館で移動図書館車のサポートをしているベテラン司書「速水典子」さんのお話。彼女は神奈川県の北部の丸山市の出身なのですが、彼女が育ったところは中でも田園の広がる、町から遠い田舎なのですが、そこにやってきていた「ほんまる」と呼ばれる移動図書館車で濃密な読書体験をしたのが司書になったきっかけです。ところが、財政難と利用者現象から、その「ほんまる」が廃止されることがわかってきて・・という展開です。

レビュアーから一言

テルさんもウメちゃんも「移動図書館車」の仕事に慣れてきたせいか、この巻では図書館車を利用する人々の謎解きも、自分たちが直接かかわるというよりも、謎を抱える人へのアシスト的な動きが中心になってきています。
最終話で、隣接市の移動図書館「ほんまる」が廃止されつつも新たな形態に生まれ変わっていくように、「めぐりん」とそれに関わる人々にもこれから変化が訪れる予兆かもしれませんね。

めぐりんと私。
めぐりんと私。

コメント

タイトルとURLをコピーしました