「接客」のお手本企業は未だ ”健在” であった ー 上坂徹「JALの心づかい  グランドスタッフが実践する究極のサービス」(河出書房新社)

接客の素晴らしさという点については、日本国内の場合は、老舗ホテルやエアラインといったところが昔からの定番であろう。その中でも、エアラインについてはJALもANAも双方とも、そのサービスの良さについては定評があるのだが、その中でも、経営破綻という逆境がありながら、そのレベルを維持し、しかも、客室乗務員ではなく、グランドスタッフという、地上の職員のサービスについてとりあげている本書は、かなりユニークであると言って間違いない。

本書は、著者が、JALのグランドスタッフなどへの直接の取材やインタビューを通じて、高いレベルのサービスが提供できる秘訣とかについて書いていく、といった筋立てになっていて、「中の人」の発言によるところが多いので、割り引いて考えないといけないところもはもちろんあるが、全てのサービス業に携えわる人にとって、何かしらの「気づき」や「ノウハウ」を提供してくれ仕上がりになっているのは間違いない。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめに あなたの仕事を変える、一歩先を行くサービスの秘密
第1章 なぜJALは、選ばれるのか?
 ー マニュアルのないサービスとJALフィロソフィー
第2章 グランドスタッフに学ぶ、おもてなしのスキル
 ー 「JALの心づかい」を実現させる接客10原則
第3章 グランドスタッフは、どのようにして育てられているのか?
 ー 新入社員がわずか2週間で変わる教育現場の秘密
第4章 グランドスタッフのサービスを、さらなる高みに
 ー サービスコンテストからバリュースコア評価まで
第5章 グランドスタッフに聞く、思いと個性を活かしたサービス
 ー 現役グランドスタッフたちの忘れられないエピソード
おわりに

となっていて、まず注目すべきは、


グランドスタッフの仕事は、エアラインにとって極めて重要です。やらなければいけないことは、できて当たり前の仕事なのです。その上で、いかに好印象のサービスができるか。乗客一人ひとりに合った接客ができるか。記憶に残るサービスができるか。それが問われてくるのです。そうでなければ、「サービスがいい」と思ってはもらえない。差別化をすることは、なかなか難しい

というところで、「接客サービス」というと「精緻なマニュアルの有無」がサービスのレベルを決めるような主張もあり、もちろん、それは全体レベルの底上げという点では有効なのだが、ある一定レベルを超えたときに、そこからどう抜け出すか、といった難しさを感じさせますな。

そして

グランドスタッフへのインタビューでは、「表情管理」という一言葉がたびたび出てきました。
表情をきちんと意識しておく、ということです。意識していなければ、相手にどのような印象を与えているかも気づけません。

といったあたりでは、「素」のように見せながら、きちんとコントロールされている「JAL」の凄みというものを感じさせるし、

新入社員の訓練では、訓練を受ける新入社員から「答え」がよく求められる傾向があるそうです。こういう場合、どうすればいいか。ところが、それを教えることは、むしろ推奨されていません
「例えば赤ちゃん連れのお客さまに、の練習ばかりしてくる新入社員もいます。
こんなお声がけをしたらどうですか、というと、そこれでは、単なるセリフになってしまいます」と教官。
そこで意識しているのは「赤ちゃん連れのお客様がいらっしゃったら、今このお客様を想像して、何が必要だと思いますか?何がお困りだと思いますか?」と想像させること。
本人に考えさせ、自ら気づき、そこから行動を考えていく、ということです。

といったところは、すべての新人教育に通じる言葉でもありますね。

このほか

意外に思われるかもしれませんが、特にチェックインカウンターの場合など、化粧はあえて濃いめにしています。カウンター内では、光の加減で、どうしても暗く映ってしまう。
化粧をあえて濃いめにすることで、表情がはっきりわかるようになるのです。

とか

手を前に交差させ、丹田の位置、つまりはおへその下のあたりで自然に手を組むこと。
これが、最も美しい立ち姿勢を作ってくれる手の位置だということです。
やってはいけないのは、後ろで手を組むこと。これは、良くない印象を作ります。

といったあたりは、現場でないと出てこない知恵で、他への応用も見込めるかも知れません。

【レビュアーから一言】

接客サービスというのは、ビジネスの基本であるとともに、コンピュータやAIが進化しても、最後まで「ヒト」が優位なものとして残るものであろう。ではあるのだが、いざその技術を磨こう、あるいは指導しようとしてもなかなか難しいのも事実。
こうした優れた事例の話を読んだり聞いたりして、自分ごととして実践していくのが、なによりの近道であるなので、接客サービスの社員教育などで悩んでいる研修担当者は目を通しておいたほうがよい一冊と思います。

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