大坂の「青物」は日本一。青物問屋が舞台のドタバタ恋愛ドラマが面白い ー 朝井まかて「すかたん」

上方の青物市場の大店を舞台にしたドタバタ恋愛ものが、朝井まかてによる本書『すかたん(講談社文庫)』。

メインキャストは、美濃岩村藩の大阪城代の上屋敷御側用人を務めて夫を亡くした「知里」という実家が江戸の饅頭屋というヒロイン。相手となるのは、大坂の大手の青物問屋・河内屋の若旦那の「清太郎」で、この男、茶屋の支払いが月に百両はくだらないという遊び好きなのだが、「青物」つまり野菜にはとことん入れ込んでいて、母親の実家の庄屋のところへは足繁く通ったりしていて、野菜の知識も半端ない、という設定である。

大坂の食文化というのは、今は「関西人」たちによってかなり地位が上がっているが、江戸時代、特に商家ではそうそう贅沢なものを食していたわけではないらしく

船場あたりの商家の食事というのは、朝はあたたかい、ぬくい御飯に漬物でんねん。で、 さい昼はぬくい御飯に、お菜が何か一品つきます。で、晩は冷飯と漬物で、もう漬物ばっかり 食べてた。そのかわりその漬物と御飯は、なんぼ食べてもかまわなんだんやそうです。 (落語「百年目」)

といったことであったらしく、本書でも

献立はつつましく、一日と十五日には魚の切り身や干物がつくらしいが、あとはお番菜に漬物。おつけと呼ばれる味噌汁ばかりである。

といった具合で至って慎ましやかである(このあたりは高田郁さんの「あきない世傅」でも出てますね)、ただ、魚が稀である分、「野菜」の重要性というのは今以上であったのだろうな、と推測され。青物問屋あるいは青物市場といった舞台は、現代であれば大手商社あるいは証券市場といったところか、と妄想してみる。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 ちゃうちゃう
第二章 まったり
第三章 だんない
第四章 ぼちぼち
第五章 ええねん
第六章 しんど
第七章 ほな
第八章 かんにん
第九章 おもろい
第十章 すかたん

となっていて、まずは夫の死後、寺子屋の手伝いをしていた「知里」が寺子屋を解雇され、長屋の家賃も払えず途方にくれていたとき、長屋の持ち主の青物問屋・河内屋の若旦那と言い争いになるところからスタート。
「上方者は情に薄い」という彼女の言葉に腹を立てた若旦那が紹介した勤め先は、実家の河内屋の実母「志乃」のお付きの女中。そしてのその「志乃」という女性は、気の強い、とても厳しい「御寮人さん」であった・・・、という、「成り上がり系」のお話の設定が用意されている。

たいがいの「成り上がり」物語の展開は、すぐさまに、「知里」の気配りであるとか、意外な才能が開化を始めて、まずは店の番頭さんの眼に留まり、次は御寮人さん、といった感じになるのだが、この「知里」さんは、食べることについては、店の大旦那も「そないに旨そうにたべてもろたら、おかねも作り甲斐があるな」と褒めるほどなのだが、厳しい「御寮人さん」からがダメ出しは続くし、番頭さんは忙しい、といった具合で思ったように進んではいかないのが、この物語の一筋縄ではいかないところである。

本筋の話のほうは、知里がお使いに出た帰り道、立売をしている近郊の百姓から葱をもらったことに始まって、若旦那が伝統と歴史に胡座をかいている青物問屋や青物市場に活を入れるために、その百姓をたすけて、立売の許可申請を町奉行所に出させるあたりから急展開する。
前例がないと渋る奉行所からなんとか許可を引き出したのだが、これが青物問屋仲間の怒りをかって、若旦那は勘当・廃嫡といった騒ぎになるし、許可をとったほうの農家の立売も、商売になれない者やニセ農家の出現で暗礁の危機。さらには、河内屋から、青物問屋仲間の御頭取の地位を奪い、さらには青物市場を独占しようとする伊丹屋という同業者の悪巧みもあって・・・、といった展開をしていく。

そして、最初、若旦那のことを邪険にしていた、「知里」であるが、彼の「青物(野菜)」にかける情熱にふれているうちに・・・、といった感じで、恋愛時代ものとなっていくのだが、この知里という女性、武家の知識もあるお侠な江戸娘という出身なので、「上方風」とあちころぶつかりながら、若旦那を叱りつけながら、難題に立ち向かっていくところが潔くて、きっぷのいい時代小説に仕上がっています。

【レビュアーから一言】

関西、特に大坂の人にとって、読んでいて「ガリッ」とくるのは知里の江戸に対抗意識を燃やして、上方の自慢をする大坂人の言葉を聞きながら、「上方の一人相撲なんだよな〜」と独り言を言うところなんであろうが、最後のほうで、河内屋の若旦那・清太郎が知里を口説く

「大坂はな、青物が旨いんやっ」
(略)
「大坂にはな、天王寺蕪や難波人参、難波葱、木津瓜に勝間南京がある。なすびに独活、慈姑、胡瓜や蕗、牛蒡(ごんぼ)も旨い。ほんでな、とうとう田辺村の丸大根まで加わった。どや、こんだけ旨い青物、江戸のどこでも食えんぞっ。悔しかったら江戸なんぞに帰るな」

といったあたりで機嫌をなおしてくださいな。

 

すかたん (講談社文庫)
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