目付けの狙いは分銅屋。左馬之助には仕官の罠が・・ ー 上田秀人「金の権能 日雇い浪人生活録4」(時代小説文庫)

田沼意次とともに「米から金」の世界をつくろうとする分銅屋とその用心棒・諫山左馬之助が、反対勢力の札差や目付けたちとがっぷり四つで対決する時代物「日雇い浪人生活録」の第4弾。

度重なる攻撃や買収工作を防いでいる左馬之助ではあるのだが、戦線は拡大する一方となっていくのが本巻である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 監察の思惑
第二章 建前と本音
第三章 動く闇
第四章 対権対金
第五章 反撃の緒

となっていて、前巻で旗本・田野里の家臣殺害を田沼意次がごにょごにょにしてしまったのだが、目付けの目がごまかせるはずもなく、目付けが差し向ける「徒目付」が本格捜査を開始する。かれらの前任の三人の徒目付は御庭番によって倒されているのだから、幕府内の内輪もめの気配があるのだが、上田秀人的時代ものでは、幕府内の部署ごとの対立はお家芸でありますね。

本格捜査を開始するといっても、左馬之助たちを襲撃して、といった荒業ではなく、隠密が職務らしく、分銅屋に忍び込んで諜報活動をするというインテリジェンスな手法なのだが、分銅屋の屋敷の前に・・、という少々トホホな仕事ぶりである。
こういう働きぶりなので、思うような成果を挙げられないことに苛立った目付け二人が、彼らをお払い箱にするのも頷ける。

さらには、これが原因で目付け内部でも対立が起きてしまうという、どのドラマの中でもでてくる「敵役内部の争い発生」につながるのも定番の展開。勢力の少ない主人公側が、力も人も多い敵方に勝っていくためには、こういう仲間割れといった「敵失」が必須であります。

今巻から、分銅屋と左馬之助の敵は、加賀屋の姿がちょっと薄くなって、「目付け」の姿が濃くなってきます。
もともとは田沼意次の「米から金へ」という政策転換を潰すのが本旨であったのだが、本丸が攻めきれないので、出城の「分銅屋」と「左馬之助」の方から攻めてきた、というところ。
出城の方から攻めて、本丸を孤立させるというのは城攻めの常道ではあるのだが、その攻め方が、突然分銅屋に来て帳簿や蔵の中を見せろと迫ったり、左馬之助を拉致して、秘密を漏らせば仕官させてやると誘惑したり、とまあ、攻め方が素直というか直球勝負ばかり。このあたりは、大名から旗本までは畏れている「目付け」という役職が見せている幻みたいなものが、どこでも通用する思っている輩の思い上がり的なところに左馬之助たちが救われた、という感じである。

【レビュアーから一言】

この巻から、左馬之助の生い立ちがぽろぽろと出てきます。父親がどこかの藩に仕えていたが、その藩の名前とか浪人した理由をあかさなかった、とか、母親が病気にかかったときにも、親戚を頼ろうとしなかった、とか何か秘密が隠されているようなところが散りばめられているので、ここらは次巻以降のお楽しみですかね。

大規模なバトルシーンが少ない本シリーズなのだが、本巻はさらに少なめなところは残念なのだが、その分。心理戦、インテリジェンス要素は多いので、そのあたりをお楽しみください。

金の権能―日雇い浪人生活録〈4〉 (時代小説文庫)
 
 
 
 
 
 
 
 

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