元同心と目付けは密かに罠をはる一方で、分銅屋は表舞台に登場 ー 上田秀人「金の裏表 日雇い浪人生活録6」(時代小説文庫)

今までは田沼意次との関係を秘密にしていた、分銅屋がとうとう表に出始めるのが本巻。そのせいか、分銅屋の前に現れてきそうな敵の姿も札差だけでなく、権威と結びついていそうな商人や、いきずりの盗賊やら、いろんなのを引き寄せるようになってくる。

おそらく、江戸の商家のうちで、一番、盗賊に狙われたり、浪人に襲撃される回数の多い店になっているはずで、おそらくは両替とか金貸しとか、分銅屋の商売に差し支えが出てるんではないでしょうか。

あと、左馬之助の恋模様なのだが、治療中に世話をしてくれたお礼に、お喜代に櫛をプレゼントしようとするのだが、クールビューテーィー忍者の村垣伊勢こと芸者の加壽美も絡んできて、恋愛ものとしても展開が気になる本巻であります。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 追放の日
第二章 執念の影
第三章 血統の力
第四章 用心棒の覚悟
第五章 齟齬の始まり

となっていて、加賀屋の襲撃で怪我をした左馬之助の傷が癒える一方で、分銅屋と左馬之助を執拗に追っていた佐藤猪之助がとうとう同心の役を解かれて、奉行所から追放される、というところからスタート。

最初は捜査一途の真面目な同心といった感じで描かれるところもあったのだが、ここらにくると主人公たちにしつこく絡みつく邪魔者のような扱いになってますな。当人は殺人犯をなんとかあげたい、との一念であるので、動機は別にして、ここまで落ちぶれるのはちょっと可哀想でありますね。

話のほうは、今までの加賀屋や目付けからの襲撃の撃破といった筋立てから少々変化して、老中堀田相模守が分銅屋と関係を結びたがったり、田沼意次がおおっぴらに分銅屋を出入りの商人として扱い出したり、分銅屋の存在が世間に盛大にアピールし始める。

ところが、田沼への賄賂の品の換金を請け負い始めたことが、なぜか漏れて、居丈高な商人が買い付けに押しかけるといった事態になる。さては田沼家の誰かが秘密を漏らして・・といった様子で、一挙に成り上がった田沼意次の体制の脆弱なところを垣間見せていますね。

話の伏線のほうは、奉行所から追われた佐藤猪之助が、家督を譲った息子から勘当をしてもらい、家族に迷惑のかからなくして、分銅屋と田沼の落度さがしをはじめたり、分銅屋が堀田老中と手を結んだことにより味方がいなくなった目付けが、水戸徳川家と手を結ぼうとしたり、小蝿ながらうるさくなりそうな前ぶりがいろいろしかてられていますので、チェックしておいてくださいね。

【レビュアーから一言】

本書中で、分銅屋が田沼家に届けられる贈り物の処分を請け負うシーンがあるのだが、江戸時代には「献残屋」といって武家や商家の贈り物で不要なものとか余ったものを買い付ける専門の商売があったようで、「賄賂時代」と言われた田沼意次の時代にはさぞかし繁盛しただろうな、と思わせますね。
もっとも、中国の清時代には、高官への贈り物とその買い取りを専門にした、公然とした贈収賄の支援業みたいな店もあったようなので、それに比べると可愛いものかもしれません。

日雇い浪人生活録(六) 金の裏表 (時代小説文庫)
 
 
 
 
 
 
 
 

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