札差・加賀屋の猛攻が分銅屋を襲う。左馬之助はどうしのぐ? ー 上田秀人「金の邀撃 日雇い浪人生活録5」(時代小説文庫)

今まで分銅屋にちょっかいを出しても全て失敗してきた加賀屋が、目付けの後ろ盾を得て、本格的に「分銅屋潰し」を行った顛末が描かれるのが本巻。

目付けの牽制で、町奉行所は加賀屋の動きを「見てみぬふり」を決め込む環境のもとで万全の体制で仕掛けを始めるのだが、そういう「政治」の世界とは別物の力と力がぶつかる、バトルシーンがひさびさに用意されています、

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 襲撃の前
第二章 一夜の策
第三章 それぞれの戦
第四章 最後の手立て
第五章 目付けの独立

となっていて、まず第一波は、出入りのならず者の頭・久吉に命じて、ならず者6人を集めての襲撃である。このへんは、「本格的」といいながら、金をケチる加賀屋らしいところで、襲撃の主体は縄張りを奪われた無頼の残党ばかりで、彼らに御庭番が守るところを襲撃させるのは、ちょっと任が重すぎるというものだよね。

もっとも、御庭番が密かに守る裏口ではなく、左馬之助が守る表口は結構な乱闘で、敵の匕首を受けて左馬之助も大怪我をすることになるので、けして相手が弱いわけではないのはご承知を。

この襲撃で受けた傷の治療でしばらく左馬之助が長屋で治療に専念することになるのだが、彼の食事の世話とか、身の回りのことで、分銅屋の上女中のお喜代とお庭番・村垣伊勢こと芸者の加壽美の二人が「恋の鞘当て」を始めるあたりは、左馬之助にとって怪我の功名というところであろうか。ただし、二人とも美女ではあるが気も強いという女性なので、喜んでばかりはいられないのであるが・・・

襲撃の第二波は、石川道場という乱暴者の浪人ばかりが集まっているところの道場主、門弟による襲撃。この道場は以前、加賀屋の札札差の免許を奪おうとした小田原の金貸しやならず者を皆殺しにしたことのある札付きの連中で、いわば、加賀屋のリーサルウェポン。ちょうど左馬之助は怪我をして動けない状況で、分銅屋もここまでか・・という今までで最大の危機なのだが、御庭番の「凄さ」をアピールする機会になってしまいますね。おまけに加賀屋が使っていた「久吉」の始末をつける「伊勢」の手並みも鮮やかなもので、こういう女性に言い寄られる左馬之助はさぞかし怖い気持ちを抱えているのだろうな、と同情する。

【レビュアーから一言】

かなりビビっている描写があるので、今回で、加賀屋からの襲撃は一休みというところであろうか。いうことを聞かない雑魚をかたづけるつもりがとんでもない大蛇を引っ張り出してしまいました、てな感じですね。
歴史的には、株仲間の制度は維持されて、札差の繁栄は幕末まで続くし、化政文化の中心となったり、娘を「お嬢様」、妻を「御新造様」と呼ばせるなど旗本並の格式も獲得するのだから、支配欲はほどほどにしておけばよかったのにね、と思いますな。

日雇い浪人生活録(五) 金の邀撃 (時代小説文庫)
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