ブラックなデザイン会社に就職して、昼夜をとわず激務に追われて、偏食による栄養失調と心的ストレスによる自律神経失調症を患って入院したあげくに、クビになった、東京生まれの東京育ちのデザイナーの卵・茶谷正彦くん。彼が、大学の先輩の誘いで大阪にやってきて始まる「大阪」グルメ+人情ストーリーが、この『はたのさとし「ナニワめしぐらし おいしてたまらんわぁ」(アクションコミックス)』シリーズです。
大阪といえば、粉もん文化など、他の地域とは一線を画す旨いものがたくさんあるのですが、話の展開の合間合間に、そういった特色あるものが出てきて、人情ストーリの味をさらに深くする、というつくりになってます。
【構成と注目ポイント】
第1巻の構成は
第1話 「かしみん焼き」にほだされて
第2話 「セイロンライス」に癒やされて
第3話 決意の「肉吸い」
第4話 思い出の「紅しょうがの天ぷら茶漬け」
第5話 「たこ焼き」は何でもアリ!?
第6話 絆の「たまごせんべい」
第7話 復活の「ホルモン中華そば」
となっていて、まずは主人公である茶谷くんが、心身ともに疲れ果て、会社もクビになった末に大学の先輩から誘われ、「大阪」にたどりつくところからスタートします。
ディープな大阪の雰囲気に圧倒されながら、先輩にお好み焼き屋で「かしみん焼」を奢られながら、
心をほぐしていくのですが、先輩の目的は、彼の東京のアパートの部屋と、自分の住んでいる部屋を交換しよう、という魂胆。しかも、半ば腐れ縁でやっているシェアハウスの管理人もセットで、茶谷くんに引き継いでしまおうという、なんとも都合のよい計画なのだが、東京で仕事もなくなった彼は、そのまま引き受けてしまいます。
ただ、彼が引き継いだ管理人をするシェアハウスというのが、店をたたんだお好み焼き屋を使ったもので、かなりボロボロなもので、しかもそこに住んでいる人々が、この家のたたずまいに負けないほどの個性的な人物ばかり。
例えば、第二話に登場して、以後、茶谷とともに話をまわしていく役割をする、ビルの壁画や建物の塗装する「特殊塗装ペインター」をしている須山さんであるとか、第4話に登場する、腕のいい大工でありながら酒と博打のために妻や娘と分かれて暮らしている宮吉圭蔵であるとか、まあ「濃い」人物がこれでもかっ、というぐらいに登場してきます。
で、彼らと茶谷が繰り広げるのが、第2話で画家をしている父親と絶縁状態にある須山が父親から送られてきた、ど派手な安全靴を履くきっかけとなる幼いころの思い出の「セイロンライス」
ですとか、第3話の売れない漫才コンビが、ケンカをしながらも、超売れっ子になった芸人が、劇場出演の合間に食べるために注文したのが発祥で若手芸人の間ではこれを食べたら売れるという伝説の「肉吸い」
で、再びコンビの結束を固めたり(もっとも、まだ”売れない”芸人のままなのが現実の甘くないところですが)とか、まあ、かなり「こてこて」の人情話が展開されていきますので、胸焼けしないように読んでくださいね。
【レビュアーからひと言】
先だってレビューした「給料日のグルメ」と違い、大阪を舞台にしたこのシリーズは、「濃さ」や「熱気」がこもっていて暑苦しい感じもあるのですが、ほろりとさせて、そのうち、なんか元気の出てくるストーリーは、大阪グルメの濃厚なソースを思わせる味わいがありますね。たまには、ソフィスケートされた話ばかりで、精神が萎びてきたら、こういう猥雑さでパワーをいれたほうがよろしいかと思います。
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