松井忠三「無印良品の人の育て方」ーMUJIを支えた人材育成のノウハウ

良い品質と、品が良くシンプルなデザインで、根強いファンが多数いる「無印良品」の提供企業で、2020年度の大学生の就職の人気企業ランキングでも45位という高ランクに位置する「良品計画」の社長・会長を務め、業績が極度に低迷していた同社世界的企業にまで育て上げた筆者による「無印良品本」の一つ。
本書では、無印良品が世界的なブランドとして成長することのできた「人材育成」の秘訣が語られている。

【構成と注目ポイント】

構成は

 はじめにー人は「修羅場」で育つ
 序章 無印良品は、なぜ離職率がこれほど低いのか
 1章 「絶え間のない、しなやかな異動」で人は育つ
 2章 若手社員を「折れない」社員に育てる仕組み
 3章 自分で「何とかする力」を強化する一つの方法
 4章 「チームワーク」はつくるのではない。育てる
 5章 モチベーションを引き出す「コミュニケーション術」
 おわりにー理念を「引き継ぐ」ために

となっているのですが、まず目を惹くのは

自分を成長させるためには、どうすればいいのか。
(略)
泥臭い話になるかもしれませんが「逆境に身を置く」のが一番効果があります。
とし、「終身雇用であっても年功序列ではない。実力を評価しても欧米型の成果主義ではない。それが無印良品の雇用体制であり、辞めたくない会社づくりの方法でもあります」というところですね。世間の時流にあえて逆らっている雰囲気を受けるのですが、このあたりにV字回復した理由も隠されているのかもしれません。

そして、本書で良品計画の人づくりの基本として印象に残るのが、まずその異動の期間と「人材委員会」という組織の存在です。良品計画の異動はだいたい3~5年のようで、小売り系の職場でこの期間で異動して、しかも分野もくぁるとなるとかなり鍛えられるのは間違いないようです。

そして、もう一つの特徴の「人材委員会」は会長、社長。取締役。執行委員が、経営者と後継者の準備状況について話し合う組織で、幹部候補生を誰にするのか、その育成方法は、といったことが定期的に話し合われるらしいのですが、こうしたオープンな方式は他に聞いたことがないですね。たいてい、人事は「秘めるがよし」的なところがありますからね。ここは日本的な人事担当者には抵抗が強いところかもしれません。

そして、社員をどういうやり方で育て、鍛えていくか、については第2章から第4章を中心に語られていくのですが、印象的には、MUJIGRAMというマニュアル運営の定番のような仕事方式が採用されている企業のイメージと違って、かなり「放任主義」な上に、かねり「獅子は我が子を千尋の谷に」的なところがあって、

私は、仕事は失敗しながら学んでいくものだと考えています。
失敗をしないような環境を企業やチームが整えてしまつては、いつまでたっても新入社員は育たないでしょう。
失敗をしたときに、誰に相談すればいいのかを考えるだけでも、社会人として大切な訓練になります。
そうやって「何とかする力」は養われていくものなのです

であったり、

無印良品では、まだ事業所も何もない地域に、いきなり一人で行ってもらうのはよくあるケースです。海外に行ったことのない社員であっても、対象になります。
もちろん、海外の出店のペースが速いので、ほかの国で経験を積んだ社員に任せたくても人手が足りないという事情もあります。けれども、海外経験のない社員であっても、そこで一人で切り開いていけるだろうという信頼感があるから送り出すのです。
(略)
無印良品があえて過酷な環境に社員を送り出すのは、修羅場体験こそがもっとも人を成長させ、人間力を高めると思うからです。私自身の経験からも、若い時に苦労した人ほど、人間力が高まるのだと実感しています。

といったあたりは、その嚆矢ではないでしょうか。

このほか「リーダーに理想像はない」とか、「朝令暮改ができるかどうかは、リーダーの資質を決める一つの条件」であるとか特徴あるリーダー論も展開されています。

【レビュアーからひと言】

「無印良品」のどちらかというと「柔らかい商品イメージ」からすると、かなり「硬派」な社員の育成方法が描かれているので驚くところもあるのですが、あれだけ拘った商品を市場に送り、店舗イメージを維持するのは、社員の方に相当のテンションが必要なところもあるのだろうと推測します。
今風の社員育成方式かどうかは別として、おさえておくべき育成方法だろうな、と思いますね。

無印良品の、人の育て方 “いいサラリーマン"は、会社を滅ぼす
無印良品トップが語る「社員が成長せざるを得ない仕組み」。なぜ異動を重視する?なぜ新入社員に店長をやらせる?海外研修の内容は本人に決めさせる! ?――精神論に頼らない、仕事をやり抜く力が身につく考え方

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