佐藤優「サバイバル組織術」ー「組織」の中で「個人」がしたたかに生き残る秘訣を学ぼう

佐藤優さんといえば、外務省在職当時、ロシア通として知られる敏腕外交官であったが、鈴木宗男議員に疑惑に連座する格好で起訴され、訴追されるなど、いわば、国家組織と対決した人として記憶しているのだが、そういう人が出した「組織」と「個人」に関わる著作となれば、日頃、組織の中で鬱憤を抱えなから勤めているビジネスパーソンならば、手に取らざるをえないであろう一冊が本書『佐藤優「サバイバル組織術」(文春新書)』でしょう。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 いかに組織を生き抜くか
第二章 人事の魔力
第三章 極限のクライシス・マネジメント
第四章 忠臣蔵と複合アイデンティティ
第五章 軍と革命の組織学
第六章 昭和史に学ぶ
第七章 女性を縛る「呪い」
第八章 生活保守主義の現愛
第九章 現場で役に立つ組織術

となっていて、夏目漱石に始まって、城山三郎、山崎豊子といった作家たちの作品を使いながら、「組織と個人」の関係を考察してみようというもので、それは

組織に関わる問題の多くは、マニュアル化できないものだからてす。論理では説明しきれない様々な要素が入っている。
こうした問題に対応するには、アナロジカル(類比的)に考えるしかありません。過去に似たようなケースはないか、そこから学べる教訓はないかを探すという方法です。
私たちはよく「歴史に学ぶ」と言いますが、それはこのアナロジカルな思考法を使って、解決策を探索しているわけ

なのですが、「歴史はまだ現実に近すぎる」ため、現実がまとっている余分な枝葉が取りはらわれている文学作品で、その本質をえぐり出そうという試みのようですね。

なので、その「本質」というのも、かなり赤裸々な感じで分析されていて、勤め人であれば誰しもが関心を持つ「人事」というものについて、城山三郎の「官僚の夏」を使って、

実は、人事は、組織において最も危険な仕事なのです.冒頭でも述べたように、ポストには組織における価値が集約されています。当然、そこには勝者と敗者が生まれます。
そこで人事を担当する者が必ずわきまえておかなければならない鉄則があります。
それは「抜擢された人は感謝しないが、外された人は必ず恨む」ということです。

という人事の怖さを分析しつつ、老舗の役所と新興の役所の「人事」の違いから「『官僚たちの夏』は、安倍政権を理解するテキストとしても使えるでしょう」と現代政治を読み解くヒントを示していたり、山崎豊子の「不毛地帯」で、主人公の元陸軍の参謀であった瀬島の行動を分析しながら

クライシスにおいて被害の程度を分けるのは事後の対応であり、それは危機に直面した個人の行動にかかっているのです。
そのときに重要なのは、クライシスの対応に正解はないと理解しておくことです。
思い込みを排して、自分の能力の限界もわきまえたうえて、事態をしっかり観察する。
そして、まず「やってはいけないこと」を見分けていく。
これがクライシス・マネジメントの第一歩だと思います。

と追い詰められた危機的状況下での最良の動き方を示唆してくれるあたりは、筆者の壮絶な国家との闘いに裏付けられた重みを感じるところですね。

さらには、忠臣蔵での、お殿様が理不尽な自爆を遂げた後の残された部下たちの対処法であるとか、女性の社会進出を阻んでいるのはは男性のつくる「ガラスの天井」に加えて、女性のつくる「家」を自らが支配しているという「母の呪縛」の双方からとらえてみる、といった深い話が展開されているので、男女を問わず、「組織」との関係に悩んでいるビジネスパーソンは一読してみて損はないと思います。

【レビュアーから一言】

圧巻のところは最後の第九章で、ここは小説とかの読み解きではなく、筆者の実体験からの話が展開されているのですが

「若い頃の苦労は、肥やしになる」ということを言う上司がいますが、それを額面通りに受け止めてはなりません。
若い頃の苦労は確かに肥やしになりますが、自分ではなく、上司を肥らせるための養分になるのです

であったり、

私の経験上、酒を飲んだ上での話に、与太やガセはないと考えた方がいい。
酒を飲んでポロッと出てくるのは、意識の深い層にあることばですから、本音である可能性が高いのです。
私自身、そう判断して失敗したことは、今までに一度もありません。
その意味で、冗談も重要な情報ソースです。
冗談の中には半分の真理が含まれているからです。

といったところは苦い忠告です。お互い、こうした「毒」を含む言葉を心に浸しながら、したたかに組織の中を泳ぎきっていこうではありませんか。

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