新川帆立「倒産続きの彼女」＝在職先が全て倒産する不運な女性の隠れた秘密を調べろ

第19回「このミステリーがすごい」大賞受賞作の遺産相続ミステリー「元彼の遺言状」の舞台となった山田河村・津々井法律事務所を舞台にした弁護士ミステリーの第二弾が本書『新川帆立「倒産続きの彼女」（宝島社）』です。

第一作で奇妙な遺言を残して死んだ元カレの遺産相続に隠された謎を解くとともに、見事に弁護士業務も仕上げた敏腕弁護士・剣持麗子の後輩のブリッ子弁護士、美馬玉子が、倒産仕掛けの企業の告発メールをきっかけに、企業倒産に隠された陰謀に巻き込まれていきます。

あらすじと注目ポイント＞在職先が全て倒産する不運な女性の隠れた秘密を調べろ
レビュアーの一言＞美馬玉子弁護士の婚活の行方は？

あらすじと注目ポイント＞在職先が全て倒産する不運な女性の隠れた秘密を調べろ

構成は

第一章　羨望と下克上
第二章　あちらこちらの流血
第三章　同じくらい異なる私たち
第四章　トラの尻尾
第五章　命の値段

となっていて、前作の「元彼の遺言状」の主人公・剣持麗子は高級官僚一家の末っ子で、東京生まれで有名大学出身、スタイル抜群の美女にして上昇志向Ｍａｘという女性だったのですが、今回の主人公・美馬玉子は地方出身で祖母との二人暮らし。容貌はそこそこで、祖母の老人ホーム費用捻出のため生活は質素で、なおかつ結婚に焦っている、という女性で、彼女が剣持麗子弁護士のパートナーとされ、倒産しかけの企業がらみの面倒な案件に巻き込まれていきます。

事件の発端は、先輩の剣持弁護士と一緒に、「ゴーラム商会」というアパレルメーカーの内部通報窓口に奇妙なメールの内部調査を担当するところから始まります。

実は、ゴーラム商会は海外の新興ブランドの独占販売をする会社として創業・発展してきたのですが、突如その企業から独占販売契約を打ち切られ、資金繰りが悪化して倒産寸前まで追い詰められています。その会社の外部弁護士宛の内部通報窓口に告発メールが届いたのですが、経理部の勤務する「近藤まりあ」という女子社員は、彼女が在籍していた会社、三社はすべて彼女が在籍中に潰れていて、彼女が不正行為をして潰して回っているに違いない、という内容。

内容的にはかなりバカバカしいものなのですが、実際、ゴーラム商会は倒産寸前になっていて、事業の切り売りも検討されているのですが、顧問弁護士契約もあるため無視もできず、剣持・美馬コンビに調査の仕事がまわってきた、という設定です。

この謎を解決したところで実績にはつながらないため、上昇志向の強い剣持弁護士は不満たらたらなのですが、「近藤まりあ」の経歴を調べると、会社が倒産して転職する度に給料がステップアップしていて、SNSでは贅沢な暮らしをしていることもわかり、疑惑を感じ始めます。

さらに、二人で社内聞き取りを始めると、今回の倒産の原因となっている海外企業の独占販売契約解約は、「自動更新条項」が仮契約の時まではあったのですが、本契約の時には削除されていて、しかも、法務担当の社員はその前に大量退職していて、気づいた総務課の女性課長の只野は半年以上も顧問弁護士となっている津々井弁護士相談せずに放置していた、ということがわかります。

彼女は、経理の「近藤まりあ」に相談しながらなんとか契約事務とかをこなしていた、と打ち明けるのですが・・といった展開です。

そして、聞き取りを続ける中、総務課の只野課長が社内の会議室で、喉をかき切られて失血死しているのが発見されます。この事件でゴーラム商会の内情が世間に知れ、資金繰りや業績が一気に悪化していきます。さらに、同じ法律事務所の倒産関係を担当している部署の上席弁弁護士で、ゴーラム商会も担当している川村弁護士が執務室内で後ろから刺されて重傷を負うという事件も続いて起こり・・という展開です。

この後、「近藤まりあ」が在籍していて倒産した３つの企業から、それぞれの企業の優秀な部門が倒産時に「テトラ貴金属」という会社に売却されていることがわかってきます。そして、三社の調査をさらに進めると、死んだ只野課長もこの三社に在籍したり、関わっていたことがわかってくるのですが・・・といった感じで謎が謎を読んでいきます。

少しネタばれすると、殺されたと思われていた只野課長の死が実は自殺で、彼女と近藤まりあとの関係が、三社とゴーラム商会の倒産事件と美馬玉子弁護士の過去につながってくるのですが、詳細は原書のほうでお確かめください。予想外の展開に驚くとともに、ほーっと唸ること間違いなしです。