あなたのトラブル、「先祖探し」で解決します=新川帆立「先祖探偵」

『あなたの「先祖」探します。』東京の谷中銀座の路地裏の寂れたオフィスビルの二階で風変わりな探偵事務所を舞台に、「元彼の遺言状」の剣持麗子シリーズの作者・新川帆立さんによる異色の探偵ミステリーが本書『新川帆立「先祖探偵」(角川春樹事務所)』です。

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あらすじと注目ポイント

構成は

第一話 幽霊戸籍と町おこし
第二話 棄児戸籍と夏休みの宿題
第三話 焼失戸籍とご先祖様の霊
第四話 無戸籍と厄介な依頼者
第五話 棄民戸籍とバナナの揚げ物

となっていて、本編の主人公「邑楽風子」は、東京の谷中銀座の「へび道」と呼ばれる路地裏のビルで、「先祖探し」を請け負う探偵事務所を営んでいます。彼女は、父親は素性が分からず、母親からは身元がわかるものは全てはぎとられて捨てられ、児童福祉施設で成長した、という境遇の女性という設定です。彼女の「家族探し」と母親が身元がわかるものをはぎとった理由が今巻の底流に流れる謎解きですね。

第一話の「幽霊戸籍と町おこし」の依頼は大手商社に務める三十代前半の「甲斐裕翔」という男性です。
彼の頼みは「曾祖父さんを探してほしい」というもので、彼の自宅に宮崎の日南市役所の地域振興課の職員が訪ねてきて、彼の曽祖父にあたる「甲斐三郎」という人物が来月で111歳となって、日本最高齢になるらしく、町おこしの一環で表彰したいので会わせてほしいとやってきます。ところが本籍地は日南市にあるのですが、本人がその住所にいないようで、曾孫のところへ訪ねてきた、というのが発端です。

その男性もその曽祖父に会ったことがないため、「風子」の探偵事務所に依頼にきたのですが、風子は、おそらく曽祖父は亡くなっていて、「幽霊戸籍」だろうと推理をします。それでも先祖のことを知りたいという男性の依頼で現地調査をすると、そこには地元の名家に関係した、あるすり替わり事件が判明します。
このことを依頼主に報告するのですが、実は、市役所の職員の訪問にも、「すりかわり」疑惑が隠れていらしく・・という展開です。

第二話「棄児戸籍と夏休みの宿題」の依頼主はお嬢様学校に通う水商売の家の中学生の女の子。彼女の夏休みの宿題で「家族史」を調べることとなり、風子のところにアドバイスと指導の依頼にやってきたというわけです。
その女の子・瑠衣との話し合いで、父方の家系の先祖をたどることとなり、戸籍から調べて、曽祖父の出身地である当時の「愛知県北設楽郡名倉村」へと瑠衣と調査にでかけます。曽祖父の出身地では、偶然、本家筋の家を見つけ出します。そして、そこでその先祖の写真をみせてもらうと瑠衣そっくりで、一同、遺伝のつながりを実感して、といった筋立てですね。

まあ、先祖探しは順調に終わるのですが東京に帰って数日後、瑠衣が突然家出して行方がわからない、という連絡が風子のもとへ入ります。実は瑠衣は単独で、「名倉村」の本家筋の家を再び訪れていたことが風子の推理で判明するのですが、そこには瑠衣が抱いていた家族との血のつながりにかんするある疑惑が隠れていて・・という展開です。

第三話目「焼失戸籍とご先祖様の霊」の依頼主は、風子の事務所の1階にある喫茶店「マールボロ」の家出した女主人・戸田昌子からの依頼です。家出して行方がわからなっていた彼女から、突然、自分の弟の奥さんの先祖を調べてほしいという依頼が入ります。弟夫婦には十歳の一人息子がいるのですが、彼が時折、ルーズリーフの紙を対角線で二つ折りしてくわえ、「ハヤチネサン、ロッコウシサン、ゴヨウザン、シロミヤマ」という呪文のような言葉を人事不省の状態で唱えるという症状が出るようになっています。占い師にきくと弟の奥さんの父方の先祖の例が祟ったいるというお告げがあったため、その先祖のことを調べてほしい、というものです。
奥さんの父方の祖父「阿部万一」は岩手県の「上閉伊郡達曽部村」、今の遠野市出身であることがわかり、風子は現地へ調査に赴きます。出身地の集落の、各家に「長袖」と呼ばれている石碑が残っている民家では、全て最初はにこやかに対応されるのの、阿部家の話題を出すと不意に冷遇されるという扱いを受けます。
集落では何も情報が得られないため、地元で祭事を執り行っている高齢の巫女に話を聴くと、戦争中に大きな山火事があって、それで阿部家の一族ほとんどが死んでしまっているとのこと。その火事に何か秘密がありそうで、その巫女のところで神霊を憑依させて語る「ヨリ」をしている女の子に祈祷を頼むのですが・・という展開です、
ちなみに、「長袖」というのは全国66箇所の霊場を遍歴する「六部」のことなのですが、「六部殺し」の伝説が謎解きのヒントとなっています。

この後、第四話、第五話では、「風子」の母や父の秘密が明らかになってきますので、詳細は原書のほうでお読みくださいね。

レビュアーの一言

今巻ではそれぞれの依頼者の「先祖」探しがテーマになっているのですが、とりわけ「ご先祖」のこだわっていたのは、江戸期以前の武家や公家階級でしょうね。
特に、下剋上の「戦国時代」以後は、武力や智力で成り上がった武士たちが、箔付けのために、源平藤橘といった日本古来の名家の「先祖」を求めたのは有名な話。例えば、江戸幕府を開いた徳川家康も、清和源氏の末裔とされているのですが、「藤原氏」の末裔と名乗ったこともあるそうで、この時のドタバタが「どうした家康」(講談社文庫)の『井原忠政「徳川改姓始末記』」に描かれています。
昔も今も、「功成り名遂げた後」や何かトラブルのある時には「先祖」に頼りたくなるのかもしれません。

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