公取の新米審査官・白熊楓は呉服業界の「闇」に挑む=新川帆立「競争の番人 内偵の王子」

独占禁止法に基づいて、カルテルや下請けいじめ、埠頭取引を監視するお役所「公正取引委員会」勤務する、元警察官の国家公務員「白熊楓」の活躍を描いた、公務員リーガル・ミステリ「競争の番人」シリーズの第二弾が本書『新川帆立「競争の番人 内偵の王子」(講談社)』です。

第一弾で、ホテルウエディングのカルテルの摘発に大手柄をたてた彼女は志願して、公正取引委員会の九州事務所に赴任したのですが、そこで地方勤務の職員の嫉妬や地方の業界の慣習に悩まされながら、今回は呉服業界の「闇」に迫ります。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 地方事務所
第二章 古巣
第三章 京都
第四章 下働き
第五章 花火
第六章 東京

となっていて、冒頭は、福岡県K市にある老舗の「梶原呉服」へ徴取にやってきた楓が、店主の梶原善一から追い返されるところから始まります。楓は「久留米絣」のメーカーから産地問屋が織りムラがあるなどの難癖をつけて不当返品をしてくるという通報の裏どりのため、呉服店を調査して回っているのですが、どこの呉服店からも門前払いをくらわされてきています。唯一、面会だけはしてくれることになった「梶原呉服」店も、「調整に戻れ。戻らないなら殺す」という脅迫状が届いてからは、全く応じてくれなくなってしまった、という状況です。

ここ数日間、聴取にまわっているのですが、全く成果がないため、赴任したての九州事務所の上司や同僚から「本省からのエリートは役に立たない」といびられて、ストレス・マックスという状態ですね。

この状態を打破してくれたのが、楓の相棒となった「常盤」という調査官で、楓との共同聴取はすっぽかし、勤務中もどこかに出かけている人物で、当初は楓の怒りをかっていたのですが、実は彼は、実家から勘当された身ながら、北九州一帯を牛耳る財閥グループの御曹司。彼の人脈を使って、呉服カルテルに関する情報がイモズル式に集まってきて・・という展開です。

このあたりから、楓は常盤に好意を持ち始めるのですが、物語の最終番で実は危険な罠におちかけていたことがわかってきますので、読みのがしなく。

で、物語のほうは、楓たちが掴んできた情報から、商品の不当返品や展示会への手伝い要員の拠出といった下請けいじめの案件が浮上してきます。
そして、この小粒の案件を踏み台に、北九州の呉服業界の多くの店や問屋が関わっていると思われる「カルテル」の調査に乗り出そうとした矢先、情報を提供してくれ始めた「梶原呉服」の店主が拳銃で撃たれて死亡しているのが発見されます。

とうとう殺人事件にまで発展したわけですが、ここには単なる業界のカルテルだけでなく、政府のクールジャパン事業の着物関係の目玉イベントの納品に関連したカルテルと県議会関係者や暴力団への違法な資金提供疑惑も浮上してきて、という展開です。

さらには、このカルテルに関する証拠調べをしている部屋への、何者かによる銃撃や証拠品の盗難といった事件も発生します。

こうした中、楓は常盤とともに、カルテルの裏で糸を引く、県議会の大物と国の目玉イベントのプロデューサー、そして、クールジャパン事業を所管する経産省の課長たちの犯罪を暴き出し、彼らの動きを封じることに成功します。

ここで一件落着かと思われたのですが、カルテルの調査が本省マターとなったため、途中から捜査に加わっていた、楓のケンカ相手でもある「小勝負」が、梶原呉服店主殺害事件の意外な犯人に気づくこととなり・・という展開です。

少しネタバレしておくと、呉服業界のカルテルに関わる黒幕たちはすべて摘発されるので、まあ「メデタシ」なのですが、常盤と楓の関係にはちょっと苦い思いを残してしまう結末がまっています。

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レビュアーの一言

今巻では、主人公の楓が霞が関の本庁から、地方機関の九州事務所に、前巻の事件解決の功績で若くして昇進して赴任したことで起きる、本省と地方機関の微妙な上下関係や軋轢といった、表にでてこない「公務員の世界」の中央と地方の関係性が滲み出てきています。「公務員あるある物語」ミステリとして読んでもいいかもしれませんね。

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