「秋季限定栗きんとん事件」=連続放火事件をきっかけに小市民二人の互恵関係は復活

目立つことなく、日々を平穏に過すことを第一に考える小市民を目指して、日々ひっそりと暮らすことを目指しながら、その推理力と復讐心が抑えきれない、恋愛関係でも依存関係でもなく、お互いに牽制しあう「互恵関係」にある現役高校生の小鳩常悟郎と小山内ゆきがくりひろげる青春ミステリーの第三弾が本書『米澤穂信「秋季限定栗きんとん事件」上・下(創元推理文庫)』です。

前巻で、互恵関係にあった小山内さんと、彼女が中学時代にトラブった案件が原因で彼女を拉致した相手を「誘拐事件」の犯人にでっちあげたことで、袂を分かつこととなった小鳩くんなのですが、今巻では、後輩の1年生を巻き込む、市内で連続する放火事件の新犯人捜しに挑みます。

あらすじと注目ポイント

構成は、上巻が

第一章 おもいがけない秋
第二章 あたたかな冬
第三章 とまどう春

下巻が

第四章 うたがわしい夏
第五章 真夏の夜
第六章 ふたたびの秋

となっていて、まず小山内さんの誘拐事件が発端で別れた二人にそれぞれ「恋バナ」的なことがおきます。

小鳩くんのほうは、小山内さんと別れたことを聞きつけた同級生の仲丸十希子さんから呼び出しを受けて、突然、「じゃ、あたしとつきあおっか」と交際を申し込まれます。

一方、小山内さんのほうは、堂島健吾が部長を務める新聞部の一年生・瓜野高彦くんから図書室で交際を申し込まれ、二人それぞれに新たな人間関係が生じていくという筋立てです。

もっとも、それぞれのデートの様子は、小鳩くんのほうは仲丸さんにショッピングとかわりに普通目のデートコースに変わっているのですが、小山内さんのほうは相変わらず、彼女のスィーツ店めぐりに新しい彼氏・瓜野くんをつきあわせているようです。このデートの最中で、小ネタの謎解きはあるのですが、そこは原書のほうでお読み下さいね。

本筋の物語のほうは、高校生活の中で、何か爪痕を残したいと考えている瓜野くんが、木良市内でおきている放火に目をつけるところから本格的に動き始めます。この放火を同一犯による連続犯行と睨んで、校内新聞で取り上げようと調査を進め、次々と記事にしていきます。しかし、放火現場の予想記事まで出したことが、学校の生徒指導部の逆鱗にふれ、記事の差し止めをくらいそうになるのですが、小山内さんから生徒指導部の指導教員の異動情報を教えてもらって、記事の自主規制を回避したり、と小山内さんの陰からのアシストで報道を続けていきます。

そして、新学期となり、進級して新聞部の部長を健吾から引き継いだ瓜野くんは、この連続放火事件の調査報道をどんどんエスカレートさせていき、新入部員に協力させて、市内のパトロールも始めます。小山内さんは、途中から、彼にこの放火事件に深入りしないように警告するのですが、功名心にかられる瓜野くんは彼女の忠告を無視して突っ走ります。

しかし、途中から、小山内さんがこの連続放火事件の現場近くに出没していることに気付き始めます、ひょっとすると、この連続放火の犯人は小山内さんなのか、と疑惑が広がり・・といった展開ですね。この小山内さんの行動は、小鳩くんも気がついたようで、彼も、友人の健吾と一緒に小山内さんの動きをチェックし始めます。

そして、小山内さんを犯人と確信する瓜野くんは、十番目におきた民家への放火の現場で、小山内さんを見つけ、彼女を糾弾するのですが・・と展開していきます。

少しネタバレしておくと、小鳩くんがつきとめた真犯人は、瓜野くんの身近にいる人間には間違いないのですが、管理人にはちょっと予想外の人物でしたね。

レビュアーの一言

今巻で、一度別れた小山内さんと小鳩くんは、再び「互恵関係」を復活させています。その前提として、仲丸さんが、自分の三股交際のことを小鳩くんにリークする人物がいて、自ら交際を打ち切っていますし、小山内さんとつきあっていた瓜野くんは、小山内さんを放火犯と断定して糾弾したのが大外れで、そのまま校内での地位も没落していっています。

実は、付き合い始めた当初は、瓜野くんの行動をアシストしていた小山内さんが、途中から彼が間違った奉公へ進んでしまうよう誘導してたせいなのですが、その原因はある「出来心」でやってしまったことが原因です。さてそれは何なのか、本書を読んで見つけてみてください。これ以外にも「ブラック・小山内」のしかけた罠があちこちに隠れているような気がするのですが、気のせいでしょうか・・。

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