青春の「日常の謎」を解く名作「古典部シリーズ」を読んでみよう。

「学校」というのは、閉じられた空間であるとともに、登場するキャストも限られるので、昔から、ミステリーの絶好の舞台となり、たくさんの傑作が生み出されています。

地方都市。神山市の中堅進学校・神山高校を舞台に、何を活動内容としているのか不明な「古典部」を舞台に、4人の高校生が、学校の伝統行事「カンヤ祭」に隠された謎をはじめ、学校生活のあちこちでおきる「日常の謎」を、青春時代のもやもやとした感覚を抱えながら解き明かしていくのが、米澤穂信さんの「古典部」シリーズ。

そのシリーズの始まりと、入学して最初の「カンヤ祭」までが描かれるのが「氷菓(角川文庫)」「愚者のエンドロール(角川文庫)」「クドリャフカの順番(角川文庫)」の三冊です。

【構成と注目ポイント】

◇「氷菓」の読みどころ◇

まず第一作目の「氷菓」の構成は

一 ベナレスから手紙
二 伝統ある古典部の再生
三 名誉ある古典部の活動
四 事情ある古典部の末裔
五 由緒ある古典部の封印
六 栄光ある古典部の昔日
七 歴史ある古典部の真実
八 未来ある古典部の日々
九 サラエヴォへの手紙

となっていて、県立神山高校に進学した折木奉太郎(通称:ホータロー)が、大学生で世界中を旅していて居所の定まらない姉・供恵からの手紙の指示で、神山高校に古くからあるのだが廃部の危機にさらされている「古典部」に入部しなさいという命令を受けることから開幕します。

奉太郎は自称「省エネ」な人間、つまり他の人からみたらものぐさの怠け者対応なのですが、頭のキレと推理力はなかなかのもの、という設定です。

そんな彼が、古典部にやってきて出会うのが「千反田える」という、

くちびるの薄さや頼りない線の細さに、俺はむしろ女学生という古風な肩書を与えたいような気になる。だがそれら全体の印象から離れて瞳が大きく、それだけが精祖から離れて活発な印象を残していた。

という地元・神山市の旧家で大農家の一人娘なのですが、彼女が自分で意識せずの古典部の部室に閉じ込められてしまった謎を解いてしまったのをきっかけにして、彼女のたぐいまれな「好奇心」に引っ張られるように、「事件」の解決に引っ張り出されていく、という展開です。レギュラーキャストとしては、ホータローの中学からの同級生で、あらゆることに興味をもち、首をつっこむ「福原里志」と、シリーズ最初の頃は漫画研究会とのかけもちをしていて、気の強いつっこみが持ち味の「伊原摩耶花」の二人がこれに加わります。

部長を務めることになった千反田の提案で、古典部の定例の活動である文集「氷菓」を出すことになるのですが、その作業を進める過程で、彼女の行方不明になっている伯父が高校生時代に「コテンブ」に入っていたことがわかります。そして、彼女は幼い頃、伯父に「コテンブ」にまつわる何かを聞きき、伯父の答えを聞いて泣き出してしまった記憶を、伯父との数少ない思い出として記憶しています。その伯父は神山高校を中途退学しているのですが、その理由も、古典部の文集「氷菓」に隠されているらしく、千反田からその謎解きを依頼されたホータローは、しぶしぶその謎解きを始めることになります。

ところが、そこには当時、学校を揺るがした事件と、現在、神山高校の一大イベントとなっている文化祭「カンヤ祭」の重要な秘密が隠されていて・・・という展開ですね。少しばかりネタバレすると「氷菓」つまりは「アイスクリーム」ですね、この名前にヒントが隠されています。

このほか、最後の謎解きに至る過程で、「毎週金曜日の昼休みに借りて放課後に返される図書館の本の謎」であるとか、「古典部の文集のバックナンバーが保管されているロッカーを開けたがらない壁新聞部の謎」などの「おやつ」的な謎解きもあるのでそちらも合間にお楽しみください。

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◇「愚者のエンドロール」の読みどころ◇

第二作目の「愚者のエンドロール」の構成は

0 アバンタイトル
一 試写会に行こう!
二 「古丘廃村殺人事件」
三 「不可視の侵入」
四 「Bloddy Beast」
五 味でしょう
六 「万人の死角」
七 打ち上げにはいかない
八 エンドロール

となっていて、この第二作目も、神山高校の文化祭「カンヤ祭」に関係するお話です。この神山高校は体育系だけでなく文科系の部活動も活発な高校で、文化祭には、文科系クラブが盛大な活動発表をする習わしになっているのですが、古典部部長の千反田が、ビデオ映画研究会の部長。入須冬美に、ある頼み事をされ、ホータローはじめ古典部のメンバーを連れていくというところから本編が始まります。

その頼みというのは、入須のクラスで、山奥の廃村でおきる館ものの殺人ミステリーのビデオを撮影したのですが、その脚本を書いていた生徒が急病で倒れてしまって未完成のままに終わってしまっています。入須は、未完成状態のビデオを見て、その後の展開と犯人を推理してほしい、と古典部のメンバーに依頼をしてくるのですが・・という筋立てです。

千反田と入須は神山市の旧家どおしのつながりがあるらしく、入須の頼みを断り切れない千反田の策略で、ホータローはこのビデオの謎解きをすることとなります。ただあくまでもオブザーバーという立場で、ビデオの出演者である入須のクラスメイトたちによる「推理」を聞いて正解かどうか判定するというをとるのですが、いずれも個性あふれる人物たちばかりでそれぞれが独特の「謎解き」案を披露します。

彼らの推理をすべて却下し、ホータローの結論は、実はこの「殺人」ミステリーそのものを根本からひっくり返すもので、ということで詳細は原書のほうで。

Amazon.co.jp: 愚者のエンドロール 「古典部」シリーズ (角川文庫) 電子書籍: 米澤 穂信, 高野 音彦, 清水 厚: Kindleストア
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◇「クドリャフカの順番」の読みどころ◇

第三作目「クドリャフカの順番」の構成は

1 眠れない夜
2 限りなく積まれたあれ
3 「十文字」事件
4 再び、眠れない夜
5 クドリャフカの順番
6 そして打ち上げへ

となっていて、第三作でいよいよ「カンヤ祭」の本番です。

この文化祭で「古典部」は文集「氷菓」を売ることを計画していたのですが、ここで問題発生。摩耶花が印刷部数の注文を間違えてしまい、当初計画していた30部のほぼ3倍の200部を売りさばいてしまわないと大損害をかかえることになる、という危機に直面します。さて、この危機を回避するための「古典部」のメンバーの作戦は?というのが大枠の設定です。

本編の謎解きのほうは、この文集の売りさばきのために、千反田があちこちに部活に協力を求めて回っているうちに、奇妙な盗難事件に遭遇するところから始まります。
それは、「アカペラ部」からスポーツ飲料の「アクエリアス」、「占い研究会」から、タロットカードの「運命の輪」のカード、「お料理研究会」から、イベントで使われる「おたま」、「園芸部」から「カラシニコフ型の銃の模型の水鉄砲」、「囲碁部」から「碁石」がいつのまにか盗まれ、そこに「十文字」を名乗る人物からのメッセージカードが遺されている、というものなのですが、この盗難の目的は、そして「十文字」の意味と正体は・・・、というものです。

この事件を上手く使って、古典部の文集を売りさばいてしまおうホータローたちが画策していく、という絡み方をしていきますね。

そして、この連続窃盗事件と古典部の暗躍と並行して、摩耶花が掛け持ちをしている「マンガ研究会」のほうで、摩耶花と上級生の二年生の重鎮・河内先輩とのマンガ論の論争が激化していきます。面白いかどうかは主観の問題で、誰もが共通して認める不朽の名作なんてものは存在せず、名作といわれるものは時間の経過を生き残ってきたものに過ぎないと主張する河内先輩に、摩耶花は時代を経ていなくても名作は存在するという証拠に、「夕べには骸に」という昨年「カンヤ祭」で購入した同人マンガを出そうとするのですが・・・、というマンガ研究会内での争いが絡んでいきます。摩耶花はこの辺の描写をみると、研究会の中でも「異端」のほうで、主流派との対立が激しいのですが、ここに彼女の「マンガ論」が影響しているのかどうかは定かではありませんね。

実は、この「夕べには骸に」が、「十文字」による連続窃盗の謎解きにも関係していて、という展開ですね。ちなみに「十文字」は「じゅうもじ」という意味で、五十音順に窃盗がおきて、最後の順番が「古典部」というのもネタのひとつなのですが、実はこの設定自体が真相を隠す「トリック」になってますので要注意ですね。

Amazon.co.jp: クドリャフカの順番 (角川文庫) : 米澤 穂信: 本
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【レビュアーからひと言】

米澤穂信さんの「古典部」シリーズは、メインキャストの4人の特徴あるキャラ、特に「千反田エル」のキャラのせいか、コミック化された上にアニメ化もされ、学校青春ミステリーの人気シリーズとなっているのですが、「日常の謎」を解く、ソフト系のミステリーとしても「名作」の部類に入るのではないでしょうか。

血なまぐさい殺人や、人を傷つけたり陥れたりする犯罪はでてこない上に、探偵役となる折木奉太郎の妙にダルそうな推理や、千反田エルの好奇心旺盛なユルさなど、どことなくほんわりしながらも人生の心理っぽい推理が展開されていて、人間関係のドロドロ劇が嫌いな方も安心して楽しめるミステリーとなってます。

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