「夏季限定トロピカルパフェ事件」=「小山内」さんは夏休みのスィーツ巡りで過去の因縁を清算する

目立つことなく、日々を平穏に過すことを第一に考える小市民を目指して、日々ひっそりと暮らすことを目指しながら、その推理力と復讐心が抑えきれない、恋愛関係でも依存関係でもなく、お互いに牽制しあう「互恵関係」にある現役高校生の小鳩常悟郎と小山内ゆきがくりひろげる青春ミステリーの第二弾が本書『米澤穂信「夏季限定トロピカルパフェ事件」(創元推理文庫)』です。

前巻で、木良市にある船戸高校に入学し、小市民的高校生活をおくろうの心に決めていたのですが、小学校時代の同級生・堂島健吾から同級生が盗まれたポシェットの捜索を依頼されたところから綻びが出てきて、最後は、偽装免許による詐欺事件の発生を未然に防ぐこととなったのですが、今巻では、二年生になった夏休みに、小山内ゆきの「過去」が発端の誘拐事件へと展開し、小鳩くんの推理力がとうとう大幅に開封されてしまいます。

あらすじと注目ポイント

構成は

序章 まるで綿菓子のよう
第一章 シャルロットだけはぼくのもの
第二章 シェイク・ハーフ
第三章 劇辛大盛
第四章 おいで、キャンディーをあげる
終章 スイート・メモリー

となっていて、第二弾は高校二年の夏休みが舞台となります。まずプロローグのところでは、夏祭りで狐のお面を被った小山内さんに出会うところから始まります。ここで小山内さんが顔をあわせたくない昔の同級生を見つけたり、小鳩くんに夏休みの予定を聞いた後で

「わたしね。・・・なんだか、素敵な予感がしてるの!」

と妙に、可愛らしい女子高校生的なセリフをはいたり、といったシーンがあるのですが、実はこれには深ーい意味が隠されています。

物語のほうは、夏休みの一大イベント「小山内スィーツコレクション・夏」として木良市近辺にあるスィーツで、小山内さんがランキングした10の名店めぐりを、小山内さんが企画し、小鳩くんに協力を要請してきます。渋っていた小鳩くんなのですが、急用のできた小山内さんに頼まれて、第10位の店のシャルロットをテイクアウトするという頼みはひきうけることに。

ただ、4つ買うよう頼まれたのを、品薄で3つしか買うことができず、おまけにシャルロットの美味に負けて、このうちの一つを小鳩くんが小山内さんの目を盗んで食べてしまったことから、彼女の「名店めぐり」に同行させられることになるですが、実はこの底には、小山内さんの深い謀みが隠れていることを巻の後半部で知ることになりますね。

続く第二章では、今度は旧友の堂島健吾から、彼の知り合いの女子生徒が薬物乱用のググループにひきこまれてしまったのですが、女子生徒の妹から、姉をなんとかグループから抜けさせてくれと頼まれたので協力しろ、と言われます。二人して「ベリーベリー三夜通り店」という小山内ランキングの7位の店で、その女子生徒を見張っていたのですが、グループの一員が分離行動をしたことから、健吾はそちらに向かい、残ったほうに何か怪しい動きがあったらここに連絡してくれ、と「半」と書かれてメモを渡してきたのですが・・・という展開です。その店で小山内さんと合流した小鳩くんは、その謎のメモの解読に挑むのですが・・という流れですね。

そして、木良市の商店街で開かれる「三夜通りまつり」の日限定で、小山内ランキング入りをしている和菓子の「むらまつや」が一日だけ販売する「りんごあめ」を食べたい、という小山内さんと合流するため、彼女の自宅を訪れた小鳩くんは、彼女が小鳩君が:来る一時間前に外出したことを母親から知らされます。そこに、健吾が知り合いの女子生徒を抜けさせようとしている薬物グループによって小山内さんが誘拐されたという電話が入ります。電話の主は500万払えば無事に返すと言ってくるのですが・・という筋立てです。

さらに、小山内さんが拉致されている場所を捜索を始める小鳩くんの携帯に「ごめんなさい。りんごあめ四つとカヌレを一つ買ってきてください。ごめんなさい」という一見、能天気なメールが小山内から入るのですが・・と展開していきます。

ここで、小鳩くんが彼の推理力をフルに使って、小山内さんが監禁されている場所を推理し、彼女をどうやって救い出したか、は原書のほうで。

でも、本巻はこの救出劇では終わらなくて、「ブラック・小山内ゆき」の本領がじわじわと発揮されているのがわかってきますのでお楽しみに。

Bitly

レビュアーの一言

本巻は、第一弾の「春季限定いちごタルト事件」のように、小鳩くんがシャルロットの盗み食いを小山内さんに見抜かれるという、小ネタ的な謎解きで始まるので、掌篇の連続したコージーミステリかな、と思わせるのですが、実は、一貫した仕掛けの施された長編の一種の「犯罪小説」的な仕上がりになっています。

一見すると、高校生のほんわかとした「青春ミステリー」の衣を被っているのですが、中身はそんなに甘くないのが、このシリーズの魅力でしょうか。

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