「巴里マカロンの謎」=お菓子をめぐる小市民二人の謎解き拾遺集を楽しもう

目立つことなく、日々を平穏に過すことを第一に考える小市民を目指して、日々ひっそりと暮らすことを目指しながら、その推理力と復讐心が抑えきれない、恋愛関係でも依存関係でもなく、お互いに牽制しあう「互恵関係」にある現役高校生の小鳩常悟郎と小山内ゆきがくりひろげる青春ミステリーの第四弾が本書『米澤穂信「巴里マカロンの謎」(創元推理文庫)』です。

第2弾で小山内さんのしかけた仕組まれた誘拐事件で絶縁していた二人が、第3弾で連続放火事件の犯人探しを行う過程で、恋愛ゲームにも飽きて「互恵関係」を復活させたのですが、今回は二人が高校入学してから互恵関係復活までの間に起きたプチ・エピソードが語られていきます。

あらすじと注目ポイント

収録は

「巴里マカロンの謎」
「紐育チーズケーキの謎」
「伯林あげぱんの謎」
「花府シュークリームの謎」

となっていて、今巻では、新しく小山内さんの妹分的な役柄となる「古城秋桜」が登場し、彼女の周辺で起きる事件が中心に語られます。

まず第一話の「巴里(パリ)マカロンの謎」では、木良市内のスィーツ店を全制覇してしまったのか、小山内さんは名古屋で新しく開店した「パティスリー・コギ・アネックス・ルリコ」で新作マカロンを食べようと、小鳩くんを誘います。時期的には高校1年の二学期の途中なので、シチュエーション的には、第1弾の「春季限定いちごたると事件」と第2弾の「夏季限定トロピカルパフェ事件」の間の事件というところでしょうか。
今回、二人の訪れるスィーツ店は、名古屋出身の有名パティシエが、お弟子さんに出させた店なのですが、お弟子さんの名前「ルリコ」を店名にいれているあたりが謎解きのヒントになっています。
事件のほうは、店の新作マカロンを注文した小山内さんが席を外しているうちに、注文したマカロン3つが4つに増えていた、というもの。さらに、このマカロンを割ると中から「指輪」がでてきて、という筋立てで、このマカロンを小山内さんの皿に入れた人物と、その理由の謎解きです。ネタバレを少しすると、店のオーナー「古城」の娘・古城秋桜がここで登場し、彼女の実の母親は最近病死していて、といったあたりです。

第二話の「紐育(ニューヨーク)チーズケーキの謎」は、第一話で妹分になった古城秋桜に誘われて、彼女の通っている中学の文化祭へやってきた小山内さんと小鳩くん。ここに来たのは、秋桜ちゃんの所属する「お菓子作り同好会」がつくるニューヨークチーズケキが目当てだったのですが、校内を散策中、柔道部の男子部員たちに小山内さんがからまれ、拉致されるという事件に。彼らは、小山内さんに彼らから逃げてきた男子生徒が渡したCDを渡せと迫るのですが、彼女の手元にはなし。どうやら拉致前にいたキャンプファイヤーとその時持っていたマシュマロを入れた箱が謎解きの鍵になりそうなのですが、といった展開です。

第三話の「伯林(ベルリン)あげぱんの謎」は、その年の年末の事件です。話の冒頭で小鳩くんが、頬を上気させ、涙を流している小山内さんを見かけるというシーンがあるのですが、ここは、謎解きの大事なポイントになるのでしっかり覚えておきましょう。

最近、学校の近くにドイツパンの店がオープンし、そこでは、「ベルリーナ・プファンクーヘン」、ベルリン風揚げパンを売っています。その店にことを特集記事にするとともに、その揚げパンにマスタードを入れて当たった部員が記事を書くというゲームを行います。ところが皆一斉にパンを食べたにも関わらず、誰もマスタードに当たったとは申し出ません。そこで、小鳩くんのところへ、健吾からマスタード入りパンを食べた人間をあててくれ、という依頼が舞い込みます。
このパンはゲームに参加しなかった先輩が準備したものらしいのですが、調べるとパンの中に入れられたものはマスタードではなく、ハバネロ以上の激辛のタバスコであることがわかります。もし、それを食べれば悶絶間違いなしで、とてもごまかせるものではないのですが・・という展開です。
謎解きのヒントは、その先輩が、そのゲーム当日欠席した部員がいたことを知らなかったというあたりです。

第四話の「花府(フィレンツェ)シュークリームの謎」では、小山内さんの妹分・古城秋桜ちゃんが突然「停学処分」をうけてしまいます。彼女が、学校の悪ガキたちが開催した年越しパーティーに参加して、一緒に飲酒したというのが処分の理由なのですが、古城さんは、その日は祖父の家に泊まっていたので、全くの濡れ衣だと、小山内さんたちに助けを求めてきます。調べていくと古城さんの学校の生活指導室に、彼女がパーティーに参加しているという密告があり、証拠写真が送られてきていることがわかります。
しかし、よく見るとそれは合成であることがわかるのですが、それをつくった、学校にチクったのは・・という展開です。
冒頭に、「パティスリー・コギ・アネックス・ルリコ」がタウン誌のランキングで今まで1位だったところを押しのけてトップになったことや、秋桜ちゃんが日本とイタリアのパティシエの出席したパーティーで花形になったことなどが紹介されているので、勘のいい読者は勘づくところがあるかもしれません。

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レビュアーの一言

最終話で、イタリア菓子の交流会でシュークリームが出されていることを避難するパティシエに対し、古城秋桜ちゃんが「でも、シュークリームはフィレンツェのお姫さまがフランスに伝えたって聞いてます」と切り返すシーンがあります。
このお姫さま、というのは1553年に、イタリアのメディチ家からフランス王家・アンリ2世に嫁いだ「カトリーヌ・ド・メディシス」のことで、彼女は夫の死後、摂政となり権勢をふるうのですが、彼女のときにプロテスタントとカトリックの対立が激化し、内戦が勃発しています。
カトリーヌ・ド・メディシスは、シュークリームのほかにも、フォークなどの食事道具や礼儀作法、マカロン、アイスクリームなどイタリア料理をフランスにもたらした人物とされているので、秋桜ちゃんの切り返しは、彼女が名パティシエの娘であることとあわせて、このパティシエには生意気な小娘のように思えたかもしれません。

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